【ソーシャルビジネス】NYCの貧困解消プログラミングスクール『Pursuit』
菅政府に移行後『デジダル庁』を新設や、働き方改革でDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させようと、国を上げてのIT推進が益々活発になってきました。また、内閣府は人類社会発展の歴史における5番目の新しい社会「Society5.0」を目指すことも発表しました。「超スマート社会」と呼ばれる側面もあり、今ある技術革新をより一層社会へ浸透させ、AIなどに支配されることない人間中心の新しい未来を創っていく施策です。
(参考)経団連Society 5.0とは
1人1台のパソコンが当たり前になる将来に向けて、経済産業省は2018年からはIT教育に力を入れるべくEdTech「未来の教室」をスタートさせ、IT人材の育成に本腰を入れています。
今回は盛り上がりをみせる日本国内での取り組みから少し外に目を向け、国外(アメリカ)で面白いIT人材育成に取り組む事業者に焦点を当て、紹介していきます。
貧困層を救う持続可能なプログラミングスクール『Pursuit』
まずはじめに『Pursuit』ファウンダー徐 緒凱(Jukay Hsu)氏のキャリアをご紹介。旧名は C4Q(Coalition for Queens)と言います。
彼が4歳の時、家族と共に台湾からニューヨーク州・クイーンズ地区へに移民。貧しい地区で育ちながらも、優秀であった彼はハーバード大学を卒業後、軍隊に入隊し4年ほど任務に従事。そしてイラク戦争の際、イラクのTikritという町で一緒に働いていたイラク人起業家との出会いが、彼が起業を志すきっかけとなりました。
10ヶ月に及ぶ徹底的なコーディング・プログラムを無償で提供
故郷であるクイーンズに帰国後、早速貧困層を対象にしたNPO団体のコーディングスクールを開設し、ウェブデベロップメントやApple & Androidアプリ開発言語の教育支援を始めました。無償授業を受けれる生徒対象者は、18歳以上、年間所得が$40,000以下の人たちが対象です。また公的住宅に住んでいる人や、学校で昼食の無償化や割引の措置を受けている人、Make the Road New Yorkなどの移民コミュニティを積極的に支援しています。
コーディング授業は「10ヶ月」に及ぶ徹底的な長期サポート体制。1/3はレジュメの書き方、ネットワーキング、プロジェクトマネージメントなど、コーディング以外のビジネススキル構築に費やされます。
FROM $18K TO $85K
Pursuitのプログラミング・スクールの結果は好調で、卒業した生徒は次々とITスタートアップへ就職が決まっていっているそうです。受講生内の約半分は女性、その内の60%がアフリカ系アメリカ人、ラテン系の人々だといいます。Hsu氏によるとプログラム受講前の生徒の年収平均は「$18,000」だったのに対し、就職先のテック企業では「$85,000」ほどまで平均年収が上がっているそうです。まさにこれぞ、ビジネスを通して社会課題を解決する、持続的なソーシャルビジネスの代表例だと思います。
生徒の就職先企業はハードウェアからソフトウェア、金融系と幅広い分野で、あらゆる分野で活躍しています。アップル、キックスターター、バズフィード、スポティファイなど、日本でも馴染みのあるスタートアップ企業が多いです。
またLinkedInとは『REACHプログラム』連携をし、スキーム構築を戦略的に練っています。メンターが付いた6ヶ月間の見習いプログラムを通して、テック企業へ通用する橋渡しを行っています。
持続可能なソーシャルインパクト投資
設立当初から数年間、PursuitはGoogleやSalesforce等の大手IT企業、Robin Hood Foundation等の慈善団体からの寄付で運営していました。しかし事業が軌道にのってきた2017年からは体制を変え、慈善団体からの寄付だけに頼らない運営資金の調達方法でスクール運営をしています。
それは『インカム・シェア・アグリーメント』と呼ばれる方法です。はじめにPursuitは『Pursuit Bond』と呼ばれる債券を発行し、外部の企業や団体から資金を調達します。一方見返りはと言うと、卒業生の就職先給料が「$60,000」以上の場合のみ、生徒は毎月の給与の「12%」をPursuitへペイバックします。投資先である債権所有者側は「約6.6%」の年間利回りを見込めるそうです。
29歳のシングルマザーの人生を変えたストーリー
Pursuitの生徒であるTasi Twinamaani(29歳)さんは1人息子を持つシングルマザー。ニューヨーク発のフードテックスタートアップ企業「Blue Apron(ブルーエプロン)」の配膳仕事をニュージャージー州内で週30時間、時給$13.25で生計を立てていました。
彼女の学生時代の専攻はフィルムと英文学と、エンジニアとは真逆のメジャーでしたが、Pursuitのスクールプログラムを知ったことをきっかけにプログラミングを学ぶ決心をしました。それからは仕事が終わった月曜日〜水曜日の7pm-10pm、土曜日〜日曜日の10am-6pmはPursuitでウェブアプリケーションのバックエンドを学び、無事10ヶ月のプログラムを終了しました。
就職先はと言うと、当時パートタイムジョブで働いていたBlue Apronのニューヨーク・マンハッタンの本社勤務、ソフトウェアエンジニアの職に見事再採用され年間所得は「$85,000」を保証されたそうです。
ブルーカラー職からホワイトカラー職への転職、まさにアメリカン・ドリームを実現させた良い事例です。
まとめ
IT企業の聖地であるシリコンバレーや、エンタメの街ニューヨークは日々新しいサービスや概念が数千個と生まれています。裏を返すと、人々の頭の中のアイデア、何かを解決したい強い想いの数があるだけニーズは減らないと思うと、まだまだチャンスを掴める余地はあります。
買い手、売り手、世間が良くなるソーシャルグッドな取り組み、Pursuitをケーススタディとして取り上げました。ソーシャルビジネスを通じて貧困問題(社会課題)を解決する、とても良い取り組みだと思います。
【著者プロフィール】
180株式会社(ワンエイティー) 代表取締役 上仲 昌吾
Twitter @ShogoUenaka
アメリカ・カリフォルニア州・サンディエゴで4年間過ごし、あらゆる価値観に触れてきました。現在ソーシャルビジネス事業化に向け構想中です。ソーシャルグッド、サーキュラーエコノミー、ベネフィットコーポレーションを実践されている方、是非とも意見交換をさせていただければ幸いです。