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iNa INAGUMA
2019年3月26日 00:27
指先一つで、想い出は消えました。 桜の開花宣言が出され春がきたと言われましたが、曇り空に包まれた海辺では冷たい風がどこからか運ばれてきて、液晶パネルも霜みたいに冷たくて画面を触る私の指はかじかんで実は消すのに結構時間がかかりました。別に一瞬で終わる作業なのだから家で暖かい布団にくるまりながらでもいいのではとあなたは思うかもしれません。その通りでしょう、私ですらなんでこんな寒い思いをしながらスト
2019年3月15日 01:16
身体が温まると目の前にいるわたしが見えなかった。多分見えるはずの私は毛をむしられた鶏皮のような肌の色をしていて規則性なくむやみやたらに押された小さい黒子が並んでいる。赤い絵の具の筆を水につけた時くらいにほんのりと火照って水滴がいくつかついているであろう顔はきっとそそり勃たせるような艶かしさを孕んでいると私は思う。 今日は一週間ほど前の春の陽気は何処へやらと天気予報を伝える勘所の悪そうなキャス
2019年3月2日 17:37
カレーが先に出てきた。飲み物よりも何よりも先に。スプーンより先に出てきたことには逆に気づかなかった。 曇りの森の中のような静けさと薄暗い店内に音楽は流れていなかったが二人組の客の話し声が背後から聞こえてくる。後から差し出されたスプーンを片手にまじまじとカレーを見つめると想像していた色よりだいぶ薄かった。店内の暗さが視覚をおかしくしているのか、口にしてみると柔らかく口に馴染んでいくような甘さがあ