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7月さいごに叶ったお花見 (美術館へ行ってきました。)


私は少し前に、日本画家・奥村土牛の画集の写真を添えて、Facebookにこんな投稿をしていた。


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土牛は、私が一番好きな画家です。
作品の中でも とくに『吉野』と、
画集の表紙にもなっている『醍醐』の桜にはうっとり♡
この2つの絵が観たくて、毎年 春に山種美術館で開催されている桜の絵の展覧会に足を運んでいます。
とくに『吉野』の前に立つと、心が浄化されて、絵の中にすうっと吸い込まれる感じがするのです。
今年はその体験ができなくて残念でした。コロナで休館になりましたので。。
いつもよりたくさん、この画集を眺めた春でした。


*


一度中止になっていた山種美術館の展覧会『桜さくらSAKURA』が、7月18日から再開された。
これは、毎年春に同美術館が所蔵する桜の絵画を一堂に展示するという、桜好き(かつ日本画好き)にとって、夢のような展覧会。
桜の季節には、外でも美術館でもお花見が楽しめる。

再開されたとあらば、こんなに土牛の絵画鑑賞を熱望していた私に、行かない理由なんて あるはずは・・・
なくもない。
今は“コロナ”という理由がある。

それでも私は、昨日 Go To美術館を決めて行ってきた。
昨日は所用があって振替休日を取得。いずれにしても都内で電車に揺られて、人の集まる場所へ行かなければならない日だった。
今行っておかないと、また休館になっちゃうかも。という一抹の不安にも後押しされて。

持っている中で一番強力そうなマスクをつけ、除菌ジェルを携えて、季節外れの観桜会へ。


行って良かった!


書こうかどうか迷ったけれど、忘れちゃったらもったいないので、やっぱり記録しておこうと思う。


*

広尾にある山種美術館には、ちょうど開館時刻の11時に到着した。

開館と同時に入館したのは、私を入れて たったの3人。
驚いた。
その後 入館者は数名増えたけれど、私が退館するまで10名にも満たなかったと思う。

美術館は大変だなあ。
でも これならむしろ、職場にいるより感染リスクは低いじゃないの。。
そんなことを思いながら、展示会場へ。

重厚な自動扉が ぐいーんと開き、山種美術館独特の控えめな照明が落とされた世界に入ると、一気に鑑賞モードに。
静寂に包まれた空間がとても落ち着く。

一枚目。
いつもインパクトのある絵が正面でお迎えしてくれる。
今回出迎えてくれたのは、松岡映丘の『春光春衣』だった。
私はいかにも絵に詳しそうな書きぶりをしちゃっているかもしれないけれど、実はそんなに明るくない。
この絵のことも、正直知らなかった。

春爛漫。
なんとも優雅で艶やかな絵だなあ。と思う。


1枚目を観たあとは、いちばんのお目当て『吉野』を探してまっしぐら!
途中で足を止めたくなる絵画は複数あったけれど、あとで観る。
この美術館は、何周でもできちゃうのだもの。

靴音を忍ばせて、早足で進む。
ずんずん進む。


あった!

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絵の真ん前でピタリと足を止めると、
108.6㎝×184.4㎝の大きさの絵が、それより大きく見える。
吉野の情景が、額の外までふんわりと広がっているみたい。
その寛容で柔らかな空気に包まれる。

その時『吉野』のあるスペースは貸し切り状態。
だーれもいない場所で、愛する絵を独り占めできるなんて。。
信じられない状況に胸は高まり、だけど鎮まるという不思議な感覚。
夢見心地って、こうゆう状態を言うのかな。

近くで眺め、離れて眺め、
そしてちょうど吉野の目の前に配置されたソファーに腰かけて、しばらくボーーーっと過ごしてみたりした。

淡く、儚く、優しく、気高く、おぼろげな桜色が、山の緑に溶けゆく風景。
慎ましさや奥ゆかしさを内包していて、雄大だけど ”華やか“ とはちょっと違う。(かなりちがう。)
きっと、「天霊地気」を座右の銘としていた土牛の心が宿っているに違いない。と思った。

土牛は88歳にしてこの絵を描いた。
初めて吉野を訪れた時は、花の印象が強すぎて「全貌を見ることができなかった」そう。
その数年後に3度訪れて この絵を描いた時のことを、

華やかというよりも気高く寂しい山であることを知った。
いざ制作している中に、何か荘厳の中に目頭が熱くなった。

と語っている。
眺めていたら、なんだか私の目頭も熱くなっちゃう気がした。


*

その後 もちろん、素敵な絵をたくさん、贅沢に鑑賞した。

たとえば
小林古径の『入相桜』は、今回 改めてじっくりと観て、新たなお気に入りの一枚に。

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ポストカードの写真ではだいぶ印象が異なってしまうけれど、実物は気品があって、格調高く、凛としているけど控えめで。
はらはらと散る花びらがとても美しい。


速水御舟の『春の宵』にも くぎ付けになった。
暗闇に浮かぶ 夜桜が描かれている。
実物は夜の色が美しく表現された、素敵な一枚だ。

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『入相桜』も『春の宵』も、これまで何回か観ているのに。
その時によって感動の幅は違ってくるのかな。


もともと大好きだった土牛の「醍醐」には、何度もご挨拶を。


その他にも、琴線に触れる絵が いくつか見つかった。
とても嬉しかった。


*


お花見をしながら思ったのだけれど、美術館はとっても自由だ。
1枚の絵の鑑賞に、どれだけ時間を費やしたってかまわないし、
逆に素通りしたって良いのだもの。
好きなものを、好きなだけ観ればよく、
空想にも似た感想を勝手に抱いて過ごせば良い。
今の私が感じるままに受け取って、癒されたり感動したりできちゃうのだ。

人は見たいように物事を見ている。と改めて思う。
美術館はそれを歓迎してくれる、あたたかな場所。

行って良かった。


感染は拡大する一方だけれど、“対面“ の尊さを感じずにはいられなかった。


さいごに、忘れちゃったらいけない!
館内のCafé椿で過ごした至福の時を♡

展示されている絵画をモチーフに、青山の老舗「菊家」さんが作られた和菓子です。

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美しい和菓子も 冷たいお抹茶も、
美味しゅうございました♡



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