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ある同級生への鎮魂歌

中学生のころは、一番学校に行かなかった。
体育が特に嫌いで、よく見学していた。

ある日の見学体育の日、暴走族に属していた不良女子と一緒になった。
彼女は、わたしが当たり前のように、隣に腰かけたことに、驚いていた。

当時から、あまり他人に興味のなかったわたしは、彼女の感情に対して鈍感だった。
なぜかは知らんが、それが彼女にとって、居心地が良かったらしい。

あいちゃんも、見学?
え、うん。生理痛でダルい。
わかる。
なんか、みうさんさ、最近見学多いね。
まあね。あいちゃんもね。
あ、わたしサボり。体育やる意味わからん。

そう言うと、みうさんは、大笑いしていた。
その横顔はやけに白くて、体調が悪いんだろう、と思った。

あいちゃんさ、みうのこと怖くないの?
なんで?
不良だから。
怖くないよ。だって、みうさん今殴ってこないじゃん。うち、兄さんがよく殴ってきたから、そのほうが嫌だった。痛いし。
それに、みうさん美人だし。
美人じゃないよ、顔白くてきもくない?
きもくないよ。いつもみたいにかわいいよ。


特に、なんの感情もなく、そう言うと、みうさんは、嬉しそうに笑っていた。
わたしは、その笑顔の意味がわからなかった。
それ以来、みうさんはたまに、わたしの教室に会いに来た。
何を話したかは覚えていなかったが、当時、周囲からはみうさんのおかげで、一目置かれ、不良女子の友人が増えた。
そんなことにも、あまり、興味がなかったが、広い人間関係のおかげで、暴走族に襲われかけていたらしい状況からも、助けてもらっていたらしい。
らしい、というのは、わたしの知らんところで、片付いていたからだ。

みうさんは、中学を卒業してから連絡が途絶えた。
ある友人を介して、卒業してすぐ、彼女が白血病で、亡くなったことを聞いた。

TELで友人が、話すには、「みうは、死ぬ前まであいちゃんに感謝してたよ。唯一、優しくしてくれたって。一人で見学し続けて、陰口言われてたから、隣に座ってくれて、ありがとうって」

そのことをたまに思い出す。
まだ、十代の半ばで、死期を悟っていた彼女が、わたしの体育サボりを、どんな気持ちで眺めて、笑っていたのか。
陰口は、わたしもよく言われていたが、元よりクラス全員から、嫌われていたので、気にもならなかった。
わたしの他人に興味のない姿が、彼女を鼓舞していたのだとしたら、それも、また不思議な話である。

あの日のきみへ。
あの日、初夏の暑さのなかで、つまらない体育を眺めて、話した時間だけは、忘れていないよ。
わたしのほうこそ、ありがとう。
最後は、苦しんでいないことを、今でも祈るよ。

ある同級生への鎮魂歌。

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