酢（ライヘンバッハ症候群） 川柳70句
ポラロイドカメラをひたす乳の海
哺乳瓶がらみ迷宮事件帳
スティーヴの死後さばかれるわらびもち
しあわせの街の擬似餌が消えてゆく
心理学用語はりつくたなごころ
誤診してチーズそのもの地にふりぬ
マグネット刑事殉職する鍛冶屋
ポッキーであるかないかをめぐる棋譜
げそ天をサーチエンジン外にみた
三田線とよばれたはずの土佐源氏
土俵からマグネシウムがへってゆく
加害者のだれかのためのシーボルト
食通の千年筆のためしがき
外は雨ひげ根かぞえる母に母
ハタ坊に高級麩菓子かいあたえ
ア太郎に分裂されるホッチキス
梅肉の肉をならべる精神屋
根の国に安全ピンをほおりだす
鐘おくれビーフサンドの翻訳所
トラウマの指人形を父にみせ
喜望峰大木凡人がきえてゆく
本質の馬いななけばナフタリン
地球からジュークボックスまでの距離
ドドンパの別働隊をともにみる
切手貼り貼りかえされるネイションズ
映像の世紀に門のたてなおし
拝み屋が拝んだあとの牛を買う
焚書後にコミックトムの積まれけり
バナナ手にさくら家が乗るさくら丸
水菓子の工場という或る呪文
漫才のかごにパセリをいれてゆく
かたちなきものも滅びる千葉県歌
夢中夢をつとあらわしておく螺子屋
ＧＨＱに脳姫脳を病む
脳姫のぎこちがあったボウリング
脳姫が原子心母をとめるまで
月ほろび脳姫の焼くハムエッグ
毎朝のとむらい汽車を撮るたびに
日常句おかめいんこを聖別し
脳姫が厚底草履ぬいでおり
鬼胎してひとり焼肉までかえる
根室市の溶連菌をまとめ書く
結句してさとうじょう油をするエラー
開幕のひとふでがきを診断し
死後の世にどぜうがいない毟りあい
パパゲーノ以外の冠者とどもりあう
ただたんに学園祭へくる鬼才
梅雨つづく勝手に死んでいる老子
シンデレラ・ボーイ鶏から揚げを裂く
ティモシーに海の王子を名のらせる
特攻の島にインディー出版社
折口の文法による卒塔婆投げ
憲法が岩鬼の藩におちていた
つぎつぎと人体化するタグボート
パリジャンの分子結合するまでに
カンフーにとどまっている轢死体
西洋のカート・コバーン庭にたつ
にわとりがさんわいるだけ宇宙論
唯識のごはんですよをやめる日に
ガンジーの続続続くたまごとじ
ユニットが解散しない紋所
海の日の教授みずからうなぎパイ
いつの日も毬藻ころがる棒倒し
幸彦のうどんのなかの聖なる名
レパントのあとから生る金田一
預言者の家に繁殖する明智
酢のものがまわりはじめる唯我論
バミューダにトラック野郎とのわかれ
峡谷がレタスにくらくなってゆく
治部卿の記憶のかぎり雨季の咳
＊７月１５日（月）２０：００〜、Twitter（Xとか称するらしい）の「スペース」にて、この連作の朗読やる予定です。よろしければ是非。
もしお気に召しましたら、サポートいただけるとありがたいです。でも、読んでいただけただけで幸せだとも思います。嘘はありません、