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アパッチ砦 詩5篇

  エンドロールに載りたいと思うか? もちろんです
 

 うまくいかない日
 一二〇万円が振り込まれるとなったらどうする?
 俺に存在価値はない
 ——わかっていたこと
 病院で一一〇円のコーラを買う
 その時 どんなにへばっているか 誰に話せばいい?
 疑問符の多い詩を
 なんの推敲もしないから
「お前は否定されるような人格でしかない」
「存在価値があるわけねえじゃねえか」
「早く、一刻でも早く死んでくれ」
 おもしろいジョークは酒のつまみになる
 ハンフリー・ボガートの身長を
 語りたい
 一二〇万円の現金を
 そうだ びびっているんだ
 だって俺に存在価値はないのだから
 気まぐれに星座をかぞえた代償——
 
 


   パイ投げ祭り

 祭り
 だから硝子のコップを投げていい理由にならないだろう?
 皮膚に それより浅い(深い)ところに ひっかき傷
 妹よ そういえば お前がつけたんだったか
 もう痛まない
 白い細い線がぼうっと浮かぶ たまに
 こんなことはどうでもいいんだ
 お前が投げた
 硝子のコップはひどく割れやすい
 だから俺でなかったら
 手術が必要だ——脳髄ごと
 妹よ
 何でこんなに憎み合うんだろう?
 大事なコップは仕舞っておけ
 実際を言えば
 電話口の向こうで投げつけられても 中途半端な痛みしかないんだ
 妹よ
 深夜の十二時に眠れるかい?
 兄でなくても 訊いておきたかった
 祭りのあと 弛緩しちゃくれない 同じ市の新月
 
 
   

   労働者の歌、聴いていかないか?
   

 労働は
 固くなる
 やわらかくもなる
 
 今日は労働をした
 眠れと自分に言う
 
 バーコード読み取り機の
「ピッ」とする音が
 自分よりよそから烈しく響いたのだろう?
 
 Tシャツが汗まみれ
 印鑑は忘れなかった
 
 仕事が続けばいいのに
 もっと労働が 雪崩れればいいのに
 
 労働がやわらかくなっていた
 疲れたら
 スマホなんて持ち歩くものじゃない
 もう深夜
 待ちわびているメールはまだ来ない
 
 

           
  お前までどこかへ行ってしまうのか?  

 

   キッチンに
 妻が
 泣いて
 いる
 誰の
 せいか
 言うまでもなく
(あなたはどこまで敵をつくるの……)
 だけど
 聴いてくれ
 自分でも
 不思議だけど
 この
 苦しみは
 あなたが
 泣いていることを
 平穏に 苦しんでいるのさ
 自分を
 許すことを知らないで(とっくに免罪符を買った記憶がある)
 壁に
 蜘蛛が上へ上へのぼろうとしていた
 


   完全映画
 

 人を殺す
 映画に
 頭蓋を砕かれた牛また牛——
 
    僕は
 牛の範疇に入るのだと思います
    

                  2020.9.17


#詩 #文芸 #創作 #ストレンジデイズ #西部劇    

                                        
                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                
       

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