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リオ・グランデの砦 詩5篇

 苦しみ

胸像に
穴をうがつ
鑿とハンマーで
青銅を削ってゆく
痛いよな
痛いよな
唱えては
心臓のあたりに
穴をうがちつづける
固いな
固いな
俺はまったくブロンズ像をうがつなんて
  向いてやしない
小さな凹みの
ひとつもできたのだろうか?
(銅のもわもわとした屑……)
ふと俺は倒れて
血を流しつづける
心臓から
いつまでも
痛いはずだよな
なあ
   2020.9.18


 〈死〉

デスメタルの良いところを
二十文字以内で要約しなさい

 あのー、私がだれも愛さなかったころに私は

終了
では
デスメタルの
どうでもいいところを
字数無制限で筆記しなさい
病人が棲んでいます
音漏れのないヘッドホンを置いておきますね
では
はじめなさい
もうひとつ条件が
〈死〉の文字を(なるべく)使わないように
   2020.9.18


 デッサンの狂い

風景画
記憶がふえすぎてしまっても
あの塔は
人が
ひとりで
墜ちてゆくのに
あまり適した建造物じゃないね
考えていた
記憶
ふえすぎて
だって
「納豆の小杉屋」の垂れ幕がべろんとしてるんだぜ
風景画で
思い出す
日々ばかり
   2020.9.18


 蟻

シナノアリに
やられた
顎をしゃぎしゃぎ噛み合わせる
虫に
やられた
くるぶしの皮膚を
破られ
僕の血は僕の血であるけれど
この
シナノアリが
シナノアリという名前かどうか
考える夜ももうすぐ終わってしまうのだった
   2020.9.18


 スーパー・バイヤー

林檎買いの
プロフェッショナルは
茎に触れるだけで
種のにがさまでわかるという
それ以上の
それ以下の
何をわかることができるのか
わからなくなってしまった
秋にも真昼はある
果樹園のとなりのスーパー・マーケット
   2020.9.18


#詩 #文芸 #創作 #描写されるもの #シーニュ #西部劇

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