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サンダー杉山のマルチバース(薄氷を舐める)  川柳56句

原子論について黙り鳥を見た

オペラ座の怪人が打つ陣太鼓

毱をつく時間のなかに時がある

夜の汽車ドルリー・レーン濡れそぼり

そぼろ丼みたいに国歌暗記する

薬科大でのにゅうめんが細すぎる

希死のあと煙突がある冬の町

トビウオを正方形に容れて泣く

新橋が無かったような時の石

体操のあいだに移動祝祭日

弾切れの先にうどん粉はこぶだけ

警官の言語と同じだけサラダ

相似した餅をあつめる野茂英雄

野球部がソアラに襲いかかり冬

絶唱の記憶だけあるホルモン屋

地の涯の赤線地帯にも牡蠣が

記憶する蟹工船の船首から

海底か否かがわかる与謝蕪村

しまむらに斧・琴・菊がならぶ日は

大陸に大腸菌を持つ桃子

阿部定の似顔絵粗き未来都市

限りなく去勢をせよと言う鸚哥

あおりいかばかりがふえる歌手の家

輪廻してベニスに車寅次郎

競輪に前世占い春が来る

白鯨も石川県も在るように

ばくちの句つぎつぎ詠まれ穴せまし

罰ゲーム教祖誕生するさなか

蟹のため父の義眼を取りかえる

考える葦が月光浴びており

写真家にパーマをかけて日脚伸ぶ

猿酒のありかあらわす蔵の中

現存の箸をつかった宗猛

駅弁が腐る戦艦ポチョムキン

前世から大地の上にときたまご

意外性孕んでおたまじゃくし色

愛妻とペリーが来たと叫び合う

冬だからあらゆる星の牛を観る

麺屋出てひたすら牛を写生する

昨夜まで暦を配るゴッサム市

ペンギンに優しい木曽の電波技師

晴れた日のマナーに沿って書く数字

倒幕のところどころに烏龍茶

ミサイルを安達ヶ原に撃ち込まれ

老人が秒を数えるパン祭り

溺死した記憶うしなう三畳紀

家畜人との昼食に野鳥啼く

透明のタヒが群馬を通過する

かなしみよ誰かが呉れたボールペン

焼け残る言葉と物の食虫花

川柳をバスケの神と書き尽くす

鶏に世界すべての不等式

ザリガニがひょうきん族の部屋に在る

円陣のすべての顔が岸田森

隠れ家に高浜虚子の酵母菌

雪山の諜報員が無を書いた


#川柳 #現代川柳 #詩歌 #文芸 #創作 #西東三鬼

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