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#心象風景

銀の砂時計

銀の砂時計

私の骨髄には、銀の砂時計が埋まっている。
寝転がりながら、自分の肉体〈カラダ 〉が出す音だけを聞いていると、よく分かる。
死んだ星を細〈ほそ〉く砕き、その白粉〈しらごな〉を硝子の背骨の管に通したもの、それが私。
星の瞬きや、妖精が囁く音よりも、絹の糸に茜珊瑚や金の粒を通すよりも、輝かしい、ささめきながら降り積もる、溶けない雪のような、その音。
全ての砂が脳の頂点まで達すれば、その時が私の寿命、今際

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心象風景

心象風景

「感情敷箱庭」

この庭は、喜びの色鮮やかな鳥が飛び交う密林、
煮えたぎるような、真っ赤な怒りが吹き出す火山、
さめざめと、土砂降りの青黒い嘆きが降る泉、
そしてその水の中の、穏やかな色の蓮華の葉に、透明玉髄のような雫一つ。
今日もどこかで、独り寂しく、泣く子がいる、その涙は泉に落ちさえすれば、ほかに嘆く皆もいると泣く子が安心する。
一番良いのは優しく包み込む陽の光で、すべての雫が満足したように、

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絢爛たる華々

絢爛たる華々

「花遊虫舞」

揺籃花(ようらんか)の少し開いた蕾に、いそいそと蜜蜂が花粉を集めにやってきました。
ぶんぶん、大きいお尻を振りながら、女王様とまだ小さく白いおくるみに包まれた兄弟たちのために急いで、蜜も頂戴していきます。
とても甘い蜜が、ゆっくりゆっくり自分の口の管を伝っていくのを味わっていると、少しばかり失敬する気持ちを起こしても、仕方がないように思われました。
だって、もうここのところずっと休

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何十層世界

何十層世界

私は、確かに見たのです。インドラの張った網のひと握りを。
切れ端を空中のなかに彷徨わせている蜘蛛の糸、それは陽の光を受けて、絹糸のように輝かしく光っていました。
そのまま進んだら、顔にべっとりとついてしまうであろうそれを、私は避けきれずに、風で心細そうに漂う端に、私の頭が重なりました。
間違いなくそれは、私の顔に当たったはずなのに、私の顔には、粘着質のか細い糸がくっつく感触が分かりませんでした。

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