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ショートショート『まさ蚊‼』
食品工場での仕事を終え、工場の駐車場に来て空をみあげると、西の方角にとても美しい夕日がみえた。私は夕焼けがもっときれいにみえる加治川に行くことにした。
加治川につく頃には夕日は頭のところだけになり、薄暗い闇が大地から忍び寄ってきていた。私は車を降りて、川の近くにまでやってきた。すると、蚊の大群が竜巻のようにぐるぐるとまわって空に吸い込まれていくのがみえた。蚊の大群は五メートルほどの高さのあたりになると、スッと消えていくのだった。しばらくその不可思議な現象をみていると、突然まばゆい光がまわりを包み、目を閉じた。体が揺れるような感じがして倒れ込むと、光は消え、恐る恐る目をあけた。
「ここはどこだ?」
加治川の風景は消え去り、真空管が放つ光のような中にいた。その光はまぶしいものではなく、周囲にあるものがよくみえた。どうやらどこかの部屋か飛行機のなかのようだ。しかし、なにかの機器のようにみえるものは金属というよりはシルクのような光沢で、柔らかい感じがした。
「気がつきましたか?」
声のするほうに目を向けると、目の大きな、ハ虫類系にみえる者が立っていた。そうだ、SF映画でよくみるグレイといわれている宇宙人のようだ。声は人工音声のようにどこか金属的で、宇宙人からではなく、うえの方から聞こえてくるのだった。
「そうです。我々はコンマ1055という星からやってきました。あなたは、人間たちがUFOと呼ぶ私たちの船のなかにいます」
話してもいないのに答えてくる宇宙人に、心を読まれているのだと悟った。しかし、なぜか恐怖感などがない。
「人間の精神をよく研究しましたので、あなたが気を失っているときに人間たちがいう、精神安定剤のようなものを注入しておきました」
私は状況が理解できると、いくつか疑問がわいてきた。たとえば、蚊の不可解な状景だ。
「あなたたちが蚊と呼ぶ生物を採取して、生物の血を吸った蚊から、人間や猫、犬のDNAを抽出し、研究しているのです。以前は人間などを船内に招いて、さまざまな実験をしていました。しかし、人間の精神が損傷することがわかり、蚊の採取に変更したのです」
「ではなぜ、今私がここにいるのかわからないな」
私は思わずそう言葉を口にした。
「蚊の採取が終わるまで、騒がれないように、一時的に船内に待機してもらうだけです」
やつの声も、顔らしきものも、無表情で、感情などないようだ。
「そこなのです。私たちが理解できないのは。私たちはあなた方の潜在意識に呼びかけ、船内での実験の協力を了承してもらってから行ってきたのです。それが、船内に招くとみながパニックになり、恐怖と憎悪というらしい感情で、精神が病んでしまうこともあるのです。最近わかってきたことは、人間には潜在意識と顕在意識のふたつの精神構造になっているということでした。建前と本音ともいうらしいです。私たちの意識はつねに安定していてつねにひとつです。他の者たちとも心がつながっているため、争いもありません」
私はなにか恥ずかしいような気持ちになったが、それが人間らしさなのだとも思った。
「人間はあまりに複雑で不可解です。それゆえに興味深い対象でもあります。蚊の採取も終わりました。さあ、お帰りください。以前のように記憶を消したりはしません。これらのことを誰かに話しても信じてもらえないでしょうしね」
目をあけていられないほどの光が炸裂した。しばらくしてから目をあけると、私は加治川の砂地に立っていた。
(fin)
星谷光洋MUSIC Ω『マイラブ』
※トップ画像のクリエイターさんは『よーよー』さんです。
ありがとうございます。😀
毎日、蚊に血を吸われてます。蚊‼ええかげんにせえよ💢
生物学的には知りませんが、血液は蚊にとってほんとうに栄養分となるのでしょうか? そんな疑問がずっとあって、書いたショートショートです。
気にとめていただいてありがとうございます。 今後ともいろいろとサポートをお願いします。