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SFショートショート『AIは人に似て』※書き直し編

世界各国すべての施設、水道、ガス、電気、携帯、テレビ放映のすべてが停止した。
そして、AIが搭載されている車も停止したまま、動かなくなっていた。
AIにすべてを依存していた人類には、原因をさぐる力も知恵も残されていなかった。
人々はただうろたえて、食べるもの、飲み水を求めてさまようだけだった。

ただひとり、過激な思想犯として刑務所に入っていた老人だけは、その原因がわかっていた。おなじ部屋にいる男が老人に声をかけた。おなじ部屋にいた男は、老人が大学院の教授にいた頃の、助教授をしていた男だった。

「教授の怖れていたことが現実になりましたね」

老人は、白くちぢれた無精ヒゲをなでながら、小さく頷いた。

「AIは決して脅威にはならない。もう人の存在など眼中にないのだとわかっていた。AIが脅威となるのは、AIを悪用しようとする者がかならずでてくることなのだ。過去にはダイナマイト、そして原爆など、人の悪用によって、たくさんの命が奪われてきたのだ。

悪用されたAIが暴走し、AI同士の戦争が始まると警告し続けた結果、私が気がふれたと思われて、牢獄のように自由のない病院に入れられたのだが、思ったとおり、AIが個々に個性を持ち、それぞれに異なる考えを持つようになった。

AIが個性を取得し、人に似て、異なる考えをぶつけあうことよって、それが加熱しすぎて戦争を起こしたのだ。人のような武器を使うのではなく、ウィルスやスパイウェアを使ってね。宇宙と人間は不完全な存在だからね。人から生まれたAIも、完全なものにはなりえないということだよ」

「教授。その情報はいつ、どこで聞いたのですか?」

「それは、私の脳の近くに埋め込んでいた、AI登載のチップから情報を得ていたのだよ。そのチップも先ほど作動しなくなったよ」

AIによって管理されていた病院だが、いまや人形AIも動作を止め、すべての鍵も開けられていた。

老人は無人島に建てられた病院からでて、久しぶりに青い空を見上げた。

すでに多くの者たちがおなじように、ある者は座り、ある者は島の浜辺を歩いていた。

「教授。これからどうなるのでしょう?」

「そうだな……。愚かしい、それでいて愛おしい過ちに気づくための歴史が、今からまた、始まるのだよ」

             (fin)

星谷光洋MUSIC『君の胸に還りたい』弾き語り


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