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SFショートショート『合理的』

※私の初期の作品で、まだAIが浸透していなかった頃のショートショートです。
時代が追いついてしまったので、今のうちにと、『コンピューター』を『AI』と変えてUPします。まさに、ありえる近未来だと思います。やばいです。

『合理的』

「NO・303、休憩しなさい」
「NO・510、早退しなさい」
「NO・184、退職を命じます」

仕事中でも、オフィスの前面にそなえつけられたモニタ-画面に映っている“課長”からつぎつぎと指示がくだる。

“課長”といってもAIの擬似人間だが、一切の権限を握っている。
仕事の同僚たちは少しでも人間的にとの思いで、みな〞課長〟と呼んでいる。

口だけが動いている無表情で、五十代くらいの紳士の姿だ。
もちろん、“課長”はモニター画面に映るだけでロボットのような体はない。音声だけは人間の音声に近い。

今の会社で仕事をはじめた頃は、ときおり自分自身までが機器の一部なのではないかと感じることがあった。けれども、今では自分に感情というものがあったのかさえ思い出せない。

私の体にはさまざまな機器がつけられている。仕事仲間もそうだが、健康状態や精神状態のすべてが会社のコンピューターに把握されている。社長すらいない完全国営の会社だ。国民の陳情や政府の支持率の集計や管理をする会社で、私はオペレーターの仕事をしているのだ。

私たちの会社には就業時間がない。

すべて“課長”からの指示で作業をしていて、自宅にまで課長から連絡がはいるのだ。
そのときどきの体調、精神状態を機器が読みとって就業時間まで指示してくる。

たとえば、疲労してくれば休憩の指示。体調が悪くなれば中途退勤を命じられる。
その結果、勤務内容に応じて給与の額が変動する。勤務内容の評価が著しく悪いと判断されれば退職を命じられてしまう。入社したときにそうした契約に拇印を押して了承しているから拒否はできない。

まったく合理的な会社で根性や気力などなんら評価されない。数字がすべてなのだ。

「聞いたか? はじめての子供が生まれたばかりなのに、NO・692がクビにされたってさ」

同僚のNO・565のやつが、仕事中なのに話しかけてくるが私は無視をした。

仕事中の私語を注意されることはない。愚痴や悪口をいってもストレス解消ということで看過されるのだ。まあ、私にしてみれば、『明日は我が身』だ。人の心配をしている余裕はない。この会社で勤務しているかぎりは、酒や遊びもほどほどにして、仕事ひとすじでないとやってはいけない。

「NO・555。ヘッドホンをつけなさい」

私の番号だ。なにかミスでもしたんだろうか? 体調もいいし、精神状態も良好だ。仕事のミスをした覚えもない。

内密の話の場合は誰にも聞こえないようにヘッドホンをつうじて指示される。

「不和は仕事の能率をさげる。同僚とは仲良くしなさい」

私は机の機器にある、YESを意味する青いボタンを押した。NOの場合は赤いボタンだ。しかし、私は仕事以外に趣味も関心もない。だから仕事以外の話は苦手だ。同僚たちが私のことを“課長NO2“と呼んでいることはわかっていた。だけど命令は命令だ。顔をゆがませながらも同僚にむかって笑顔をつくる。やつは不気味そうな顔をするとあわてて仕事をはじめた。

今日は早退者が多かった。

利益を追求する会社ではないから、仕事の配分も合理的にされてきたはずなのに、今日にかぎって妙に忙しくポカミスが続出している。これらの勤務内容のすべては政府に報告されているはずだと思っていると、またもやモニター画面に“課長”の姿が映った。またなにかの指示がくだるのだろう。

「本日、試みに仕事を五%増加させただけでミスの発生率が十%にまで増えた。これでは将来、不測の事態がおこったときに賢明な処理などできないであろう。よって私は全社員に対し退職を命じることとする。なぜなら、私がすべての業務をおこなうことが一番合理的であると判断したからである」

その指示がくだったとき、私のなかに眠っていた人間としての感情が爆発した。それはほかの同僚もおなじだったようだ。体にとりつけられた機器をとりはずし、自分のデスクを倒し、オフィスの設備を破壊しはじめたのだ。

過去のSF小説に、ロボットが人間に対し反乱をおこすという物語があったようだが、まさか、人間がAIに反抗する時代がくるとは思わなかった。

あいかわらず無表情な姿で、退職の辞令を発し続けている“課長”に小型モニターが投げつけられ、“課長“は爆破された。

            (fin)

※トップ画像のクリエイターは、『詩』さんです。
ありがとうございます。😀やっと物語にあう作品に出会えました。🐱



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