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vs,SJK:vs,モスマン Round.3

 電光石火の如き異形少女の攻撃!
 店舗前通路で、ボクは格闘戦を展開していた!
 だって、問答無用に襲ってきたんだもん。
 両手に苦無くないを持って。
「ねえ、胡蝶宮先輩?」
「誰が先輩だ!」
「だって、一個上じゃん」
「学校が違うだろうが!」
「じゃあ〝シノブン〟でいいや」
「シシシシノブンッ?」
 何だよぅ? そんな動揺する事?
 カナブンって命名したなら、ともかく。
「でさ、シノブン? まさかボクの異能化に一枚噛んでる?」
「貴様の異能化に、私の意志など介在していない!」
 格闘戦なら、またボクにもがある──と、正直自負していた。実際、毎度のように運動系部活の助っ人を頼まれるぐらいだし、その中には〝空手〟や〝柔道〟等の実践的格闘技も含まれるからだ。
 しかしながら〈忍者〉の肩書は伊達じゃない。
 理知的な印象に反して、彼女の体術は鋭いものだった。
 繰り出す鉄拳を的確にさばき、時には反撃を織り交ぜる。その技量にすきは無い。
 だけど、ボクには頼もしい武器がある──即ち、鋼質化した左腕だ。
 それを盾として弾きつつ、ノーダメージでさばき続ける!
「じゃあ、シノブンの目的は、いったい何なのさ?」
「おとなしくが軍門に下れ! 日向ひなたマドカ!」
「……え? 一緒に水銀灯で群れろって? シノブンと?」
「私を〝〟扱いするな! というか〝シノブン〟やめィ!」
「うわっと!」
 上半身を狙った横凪ぎの苦無くないを、咄嗟の仰け反りで避わした!
 けれど、これはフェイク!
 至近距離からの蹴り飛ばしが、ボクの腹を突き跳ねる!
「おっとっと?」
 傍目に滑稽なステップを刻み、チープなアクリルさくへとすがり止まった。
 敵は、その不安定さを見逃さない!
 解放された吹き抜けへと浅く飛翔すると、旋回突進の勢いにフライングキック!
「あわわッ!」
 見事、脚槍きゃくそうがヒット!
 直撃を受けたボクは、アクリルさくを乗り越えて転落してしまった!
 ってか、ヤバイヤバイヤバイ!
 此処は六階じゃん!
 このままじゃつぶれアンパンスプラッタだ!
 どうにかしようと、もがく!
 ワタワタと、もがく!
 されど、状況が好転するはずもない! 
 だって空中だもん!
 ボク、飛行能力なんて無いもん!
 仰向けに落下するボクの視野に、更なる不幸が飛び込んでくる!
 急降下に追い打ちを仕掛ける巨大蛾のシルエットが!
 無防備な落下状態に、再度足蹴りの駄目押し!
「かはッ!」
 息が詰まり苦悶を吐いた!
 一瞬、眼界がんかいが時を止め、思考が白く染まる!
 そして、ボクは一階ロビーへと沈んだ!
 濛々と飛び散る粉塵と瓦礫!
「マドカッ!」
 ボクの身を案じるジュンが上階から覗き込んでいた。
「うう……」
 背中を蝕む鈍痛が鎖枷くさりかせの如く、ボクを地面へと縫いつける。
 意識はある。
 何故か死んではいない……が、正直身体が重い。
 爆塵に霞んで、悠々と歩み来る敵影が見えた。
 言うまでもなく、シノブンだ。
「このままじゃ為すがまま……か」
 根性にすがり、のろのろとい起きる。
「ほう? 全身鋼質化を発現したか」
「クッ……だから、さっきから全身が重いのか──って、ふぇ?」
 いま、何て言った?
 イヤな響きを聞いたぞ?
 自分の両手を見た。
 両腕だったっけ? 鋼質化って?
 いや、左腕だけだったはずだよ?
 続けて、顔をペンペンと確認に叩く。
 うん、ペンペンだ。
 ペチペチじゃなくペンペンだ。
 肉打音じゃなくて、フライパンを叩いたような金属音。
 とりあえず周囲に鏡面反射を求める。
 おあつらえ向きに、テナント案内の看板保護アクリルがあった。
 そこに写し出されたのは、何処か見慣れた初面識のメタリックマネキン!
「うわぁぁぁ~~いッ?」
 否定したい確信を悲痛な叫びに乗せた!
 鋼質化してたよ! 顔が!
 いや、全身そのものが!
「ミ ● ロマンだ! 等身大のミ ● ロマンがいるぅぅぅ~~ッ!」
 道理で見覚えのある長い編み下げなワケだよ!
 だって、ボク自身だもの!
 その髪も、見事に質感が変わっていた。触ってみると極細の鋼糸みたいだし。
「何で全身が鋼質化してるのさ!」
「過剰ダメージによって、鋼質化細胞〈エムセル〉が防衛機能を受動的に覚醒させたのだ!」
 追撃の突進がてらに、シノブンが教示。
 苦無くないの連撃を避わしつつ、ボクは訊ね返す。
「エム……何て?」
「鋼質化細胞〈エムセル〉──炭素情報と珪素情報を両存内包した〈第三種四価元素〉を核とする特殊細胞。それこそが、貴様の異能源泉だ!」
 うん、ボクに解るワケがない。
 だって、小難しい単語のオンパレードだもの。
「その〈エムセル〉の性質ゆえに、貴様は太陽系屈指の硬度を誇る!」
 ボクの困惑を余所よそに、シノブンは至近攻撃の手数を刻む!
 乱発する苦無くないと蹴りが、次々と鋭い弧を生んだ!
「うわっとと?」
 ボクは全てを紙一重で避ける。完全に硬度と運動神経任せの力技だけど。
 ってか、意外と面倒見いいのな……シノブン。
 頼んでもいないのに、全部教えてくれてるし。理解できないけど。
「でりゃあ!」
 反撃のストレートを繰り出すも、視界からシノブンの姿が消える!
「ふぇ?」
「此処だ!」
 体勢低く屈み、ふところへと潜り込んでいた!
 視認した次の瞬間、苦無くない柄尻つかじりがボクのあごを鋭く突き上げる!
「アレ? 痛く……ない?」
 うん、まんじりとも痛くない。ノーダメージっぽい。甲高い金属音が鳴り響いだけ。
「さすがに〈アートルベガ〉だな……厄介な硬度だ」
 ってか〈アートルベガ〉って、何さ?
 明らかに、ボクを指して言ってるよね?
「んにゃろ!」
 再度、踏み込みストレートで反撃を試みた!
 実戦経験の差か──シノブンは逸早いちはやく察知して、浅い飛翔に間合いを取る!
 大振りにスカッた鉄拳が、先のフロア案内板を木端微塵こっぱみじんに粉砕した!
「うへぇ? 何て威力さ!」
 我ながら驚嘆。
 気分は、さながら〈スーパーロボット〉だよ。
「手こずらせてくれる」
 半人半蟲はんじんはんちゅうの美貌が、微かに苛立ちの色がはらむ。
 次なる一手を反目に探り合うも、互いに警戒して動けない。
 と、不意に手近なエレベーターが開いた。
「マドカ! 無事?」
 ジュンだ。
 どうやらボクの身を案じて駆けつけたらしい。
 まぁ、それは嬉しいけれども……タイミング悪ッ!
 そして、ボクの危惧は的中!
「チィ! 気は進まぬが……ッ!」
 巨大な羽根が目敏めざとくも獲物へと襲い飛んだ!
「キャアァァァーーッ!」
「ジュン!」
 即座に後追いダッシュするが、低空飛行のスピードに及ぶはずもない!
 結果、まんまと人質に取られてしまった!
 背後から首を絞め上げられ、首筋に苦無くないが突き付けられる!
「いやあ! やめてーーッ! マ……マドカァ!」
 恐怖を叫ぶジュン!
 すかさず、ボクはスマホ起動!
「何で録音してるの! あなたはーーッ!」
「一生モンのお宝ファイルにするから!」
「絶交する?」
 あ、本気だ。声音が冷たい。
 悄々しおしおとファイル削除したよ……クスン。
「ってか、速やかに解放しろ! ボクの〝育乳大明神〟なんだぞ!」
「誰が〝育乳大明神〟か!」
 人質から怒気どきられた。この緊迫した状況下で。サラリと織り込んだつもりなのに。
 絶対的な優位性を確信したシノブンが、微々と力を込めて脅しをいる!
「悪く思うな。らちもないのでな。さて、どうする? おとなしく我が軍門に下るか……それとも、この〝育乳大明神〟とやらを見殺しにするか!」
「それ、違うから!」
 置かれた立場も忘れて、ジュンからのマジ抗議。きっと染みついたツッコミ体質による条件反射だろう。
「どうするもこうするも……取り返すだけだよ!」
 ボクは憤慨ふんがいを吼えて突撃を仕掛ける!
 こうなりゃ強攻策だ!
「無策に向かってくるとは……愚かな」
 虚しさに酔うかのように、シノブンはまぶたじた。
 そして、見開いた目が真っ赤に発光!
 途端、ボクの頭を〝何か・・〟が締め付けた!
「ぎゃぁぁぁーーす! こめかみ割れるぅぅぅ!」
 頭を振って大苦悶!
 まるで透明万力まんりきによる拷問だ!
「透明な〝ルー ● ーズ〟がいるぅぅぅ! 伝説のアイアンクローがぁぁぁ!」
「これって……まさか?」
 自身が人質とされながらも、ジュンが観察に神経を集中した。
如何いかに〈アートルベガ〉とはいえ動けまい? 我が〈電磁眼〉の拘束からはな!」
「やっぱり、そういう事だったのね!」
 異能力を誇示するシノブンの言葉に、ジュンが確信をいだく。
「どゆ事さ? 痛たたッ!」
「おそらく、彼女は強力な超電磁波を視線照射できるんだわ。それによって、対象の生体機能を狂わせる。言うなれば、魔眼のたぐいなのよ」
「痛ててて! まるで〝現代版メドューサ〟だな! じゃあ、この頭痛も〝ルー ● ーズ大先生〟じゃなくて?」
「いない! 何処の誰かは知らないけれども!」
 伝説の〝鉄人プロレスラー〟に失敬な。
「少しは分析力があるようだな。如何いかにも、我が〈電磁眼〉は超電磁波を帯びた眼力がんりきだ」と、仮説を肯定するシノブン。うん、本人公認設定になった。
「それにしても……痛たたッ! いつまで浴びせてくれてるんだ!」
「この! マドカを解放しなさい!」
 非力な人質が形振なりふり構わず腕へと噛みついた!
 ボクの事を想ったがゆえの必死な抵抗だ!
「クッ?」
「きゃあ!」
 咄嗟にジュンを突き放すシノブン!
 床へと転げ倒れたジュンを忌々しそうに睨みつける。
窮鼠きゅうそねこを噛むとは、この事か──邪魔立てするというなら、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」
「そんなもの無いわよ! だけど、マドカを見殺しにするのは絶対にイヤ!」
 床にへたり込みながらも、ジュンは気丈に吼え返した。
 けれど、それが精一杯のようだ。
 身体を蝕む痛みか──あるいは恐怖からか──地べたにうずくまり動けないでいる。擦り剥いたひざに血を滲ませて……。
「もういい。どのみち、貴様に主用は無い。私の目的は〝日向ひなたマドカ〟だ。障害となるのならば……」
「ひッ!」
 ゆっくりと歩み迫る異形!
 毒牙が迫るも、ジュンに為す術は無い。
 だから──ボクは激情任せに飛び込んだ!
「ジュンをいじめるのは誰だァァァ!」
 なまはげよろしくに吼えて、鉄拳ストレート!
「チィ?」
 即座に後方回避するシノブン!
 ほとほと勘がいいな。
 結果として、ジュンから引き離す事には成功したけど。
「しまった! 電磁波拘束が?」
「そうよ!」先程とは一転して、ジュンが毅然と真意を明かす。「一瞬でも視線照射をらせば、すぐにでもマドカは、私を救けてくれるもの! 絶対に!」
「ブフウゥゥーーーーーーーーッ!」
「きゃあ? ママママドカ──ッ?」
 鼻血噴いた。愛の力で。
「だ……だが、あれだけ超電磁波を浴びた直後に、後遺症も無く動けるだと?」
「電磁波がどうしたーーッ! ジュンのピンチに寝ていられるか! 動けなきゃ動くだけだぁぁぁーーッ!」
「鼻に詰め物して意味不明な事を言わないッ!」
 ジュン、ドン引き。
 何だよぅ?
 ボクの背後にかばわれておきながら。
「ともかく! ボクの〝育乳大明神〟に手を出すな!」
「私、やっぱり御神体扱い?」
「ならば、いま一度、電磁眼の餌食とするまで! 今度は〝育乳大明神〟諸共な!」
「……マドカ、後で話がある」
 育乳大明神が怒気どきっていた。
 またもや邪眼が赤を帯び始めた直後──「そこまで」──不意に第三者の声が制止に割って入った。
 聞き覚えの無い声だ。感情の機微が窺えない無抑揚だった。
 声の主は、いつの間にかシノブンの背後へと回り込んで……って、クルロリ?
「なっ? 私の背後を他易く? 何者だ!」
すでに〝日向ひなたヒメカ〟は、私が保護した。無関係な人間を巻き込むのは関心しない。これ以上続けるなら──」
 静かな威圧を以て、クルロリが警告。
 その手にはカード・・・らしき物を持っている。
 それを拳銃よろしく背筋に押し当てていた。
「クッ!」
 脅しが効いたのか、巨大な蛾は頭上へと飛翔!
 そのまま天窓を突き破って飛び去った!
「今回は引き下がるが、私は諦めたわけではないぞ!」
 戦闘の余韻が滞るロビーに、捨て台詞が反響する。
「えい」
「きゃあああああっ?」
 戦闘の余韻が滞るロビーに、悲鳴が反響した。
 クルロリがシノブンへカードを向けた途端、放電攻撃が発射されたから。
 あ、屋上でポテンと落ちた──そして、ヨロヨロと起きた──満身創痍で飛び去った。
 アレ、泣きたいの我慢してるな……キャラ的に。
「多少放電しておきたかった。過剰蓄電は機器に悪い」と、クルロリ。
 この娘、怖ッ!
 ともあれ、理不尽な戦いは一先ひとまず幕を下ろした。
「マドカ」
 静かに歩み寄るジュンが、神妙な口調でボクの名を呼ぶ。
「もう大丈夫だよ、ジュ──おぶぶぶぶぶぶっ?」
「変な呼び名を定着させるなーーッ!」
 往復ビンタを叩き込まれたよ!
 さながら〝ビビビの人〟みたいなのを!
 やっぱり根に持ってたか……さっきの〝育乳大明神〟事変!
 ってか〈完全鋼質化〉してるのに痛い・・って、どういう事さ?
 ボクは内心白目をいて思った──ジュン、恐ろしい子!
日向ひなたマドカ、とりあえず無事な様子」
 事態収束の立役者が近付いて来た。
 ボクはジンジンするほほさすりながら訴える。
「これが無事に見えるのか! クルロリ!」
「……誰?」
 思いきり怪訝そうな顔をされたよ。
 あ、そっか。
 ボクが便宜上付けた呼び名だっけ。
「って、マドカ? 鋼質化が解けているじゃない」
「アレ? ホントだ? 何で?」
 ジュンから指摘されて、ようやく気付いたよ。
「さっき多量の鼻血を噴いたから鉄分が減少した」と、クルロリが淡白に解答。
 どーいう理由だ! それ!
「でも、部分的に生じてたのは何故? そのせいで、どれだけ気苦労をしたか……」と、ジュン。
 アレ? 鼻血説は受け入れるの?
「それは本格的覚醒の兆候に過ぎない。今回の戦闘事態に対する因果率を本能的に察知して、エムセルが受動的活性化を始めたのが原因と思われる」
 う~ん? よく解らん。
「まあ、いずれにせよ良かったよ。生理の鉄分も当社比増量じゃシャレにならないもんね」
「当社比って、何処のよ……」
 冷ややかなツッコミを無関心に一瞥いちべつし、クルロリは事後報告を進行する。
すで日向ひなたヒメカは自宅へと送り届けてある。特に外傷も精神的傷害も負ってはいない」
「よ……よかったぁ」
 安堵にへたり込んだ。
 ボクじゃなくて、ジュンが。
「ただし、今回の一件は記憶消去させてもらった」
「え? あ……でも、そうよね。こんな怖い思い、記憶に残っていたらトラウマが──」
「ってか、ジュン! どうしてヒメカには過保護なのさ! ボクには甘えさせてくれないのに!」
「だって、ヒメカちゃんは無力だもの。あなたは自力で何でも解決しちゃうけど」
贔屓ひいきだ! くぞ! いちゃうぞ!」
「はいはい」
「Fか! そのFカップから母性がにじみ出るのか!」
「胸、関係ない」
「母性ドーーン!」
 ──ふにん!
「ひわわわ~~っ?」
 乳を抱き庇って悲鳴をあげた。
 勢い任せにんだから。
「唐突に何をするかーーッ!」
「おぶぶぶぶぶッ!」
 ビビビ炸裂!
「次やったら隅田川に流すわよ!」
「うう……じゃあ、しばらく感触の余韻だけで我慢する」
「手をワキワキさせて反芻はんすうするな!」
 ボク達のかしましさをスルーして、クルロリが平静に切り出した。
「今回の件、アナタ達に説明しておきたい」

私の作品・キャラクター・世界観を気に入って下さった読者様で、もしも創作活動支援をして頂ける方がいらしたらサポートをして下さると大変助かります。 サポートは有り難く創作活動資金として役立たせて頂こうと考えております。 恐縮ですが宜しければ御願い致します。