vs,SJK:vs,フラモン Round.5
「固より覚悟は出来ている。如何様にもすればいい」
気高さに凄んだ慧眼で睨み返すシノブン。
ロープに変質させたラムスの左腕でグルグル巻きの挙げ句、地面へと転がされた芋虫状態で。
うん〝蛾〟から〝芋虫〟へ『逆モス ● 』状態。
「気丈を装うのも結構ですけれど、御自分の立場を理解しておいた方が宜しいかと」
ラムスが冷厳に敵意を臭わせた。
「もう! 二人共、喧嘩腰にならない!」
ボクは辟易と不仲を窘めつつ、ゴソゴソとポケットを漁る。
あ、あったあった ♪
購買で買った焼きそばパン ♪
「ねえ? コレ食べる?」
シノブンを覗き込んで、明るく促す。
「な……何?」
「お腹に何か入れりゃ、少しは冷静になるって」
「ふ……ふざけるな!」
「はい、あ~んして?」
開封して口元へと差し出した。
「あ……あ~ん ♪ 」
瞼を綴じて、頬を赤らめた顔を近付ける。モエルが。
いや、キミじゃないよ? ストーカーベガ?
「て……敵の施しなど受けん!」
頑として抵抗するシノブン。
「いいから、あ~ん ♪ 」
「要らんと言っている!」
「はい、あ~ん ♪ 」
「ぅぅ……あ……あ~ん」
優しい無理強いに躊躇っていたが、ややあって素直に従った。
視線を逸らして恥じる表情が、意外とギャップ萌えで可愛い。
「はむ……ムグムグ」
「ふむ? 消費期限を過ぎても、一週間程度ならまだいける……と」
「ぶふぅーーーーッ!」
派手に噴いたよ。
あ、これがホントの『噴飯もの』か。
「……何をやってますの」
ラムスのジト目が咎める。
「いや、まだ食えるかなぁ~って……モグモグ」
「……臆せず食べますのね」
何だよぅ?
食べ物粗末にしちゃいけないんだぞぉ?
でも、よいこのみんなはマネすんな?
ボクは日頃から鍛えてるから大丈夫。マドナで。
「いいなぁ……マドカちゃんと間接キスいいなぁ……」
モエルは身悶えモジモジ。
いまのところ、この作品きっての変態だからな? キミ?
「うう……殺せぇ……いっそ一思いにぃ……」
ぐったりと項垂れ、弱音を吐くシノブン。
「あら? 効果的な拷問だったみたいですわね」と、ラムスが感心。
「失敬だな! 善意だよ!」
その時、唐突に「ピーピー」と微音が聞こえた。
腹を壊したワケじゃない。
安っぽいアラームみたいな電子音。
出所を探って辿り着いたのは──シノブンだった。
「クックックッ……」グロッキー状態から静かに含み笑いを浮かべる。「礼を言うぞ、日向マドカ──いや、改めて〈SJK〉と呼んでやるべきか」
「ああ、さっきの焼きそばパン?」
「言うかッ!」
何だよぅ?
おいしいって言ったじゃんかよぅ?
噴き出す前まで。
「貴様達と戯れている隙に、もうひとつの目的は達成された」
「ふぇ? もうひとつの目的?」
まだあったのか。
意外と欲張り屋さんだなぁ、シノブン。
「さあ、心してアレを見るがいい!」
「ヤダよ! ド変態!」
「……は?」
「いきなり『アレを見ろ』なんて……はしたない! 縛られて興奮してきたのか知らないけど、もっと貞操は大事にしなよ! 他人の性癖に、とやかく言う気は無いけどさ?」
「はしたないのは貴様だッ! どんな飛躍をしているのだッ! 貴様はッッッ!」
真っ赤になって怒気られた。何故か。
「……マドカ様、発言には責任を持って下さいませ? レーティングに影響します」
ラムスからも嗜められたよ。意味不明に。
「私が指しているのは……アレだ!」
キッと顔を上げ、空を見上げる。
ボク達は、その視線を追った。
遥か高空に浮遊する黒い人影──遠目過ぎて明確な視認は難しいけど、おそらく二対だ。
「ああ、アレってば〈フライング・ヒューマノイド〉か」
「何ですの? それは?」
ラムスが怪訝そうに眉間を曇らせる。
「珍しいね? ジュンならいざ知らず、キミが〈UMA〉を知らないなんて?」
「別に網羅しているわけではありませんから。殊に近年現れた〈UMA〉ならば、さすがの私も知りませんわ」
「ああ、なるほどね。要は『世代差』ってヤツか。ブロブってば、激動の時代を生き抜いた〈バナナ世代ベム〉だもんね」
「……団塊高齢者みたいに言わないで頂けます?」ジロリと不服そうな目。「で? どういった〈UMA〉ですの?」
「うん。アレは〈フライング・ヒューマノイド〉って呼ばれるヤツでね、近年になって頻繁に目撃されるようになった〈UMA〉だよ。ま、平たく言えば『空飛ぶ人型物体』だね」
「特徴は?」
「飛ぶだけ」
「……飛ぶだけ?」
「うん、飛ぶだけ」
「それだけですの?」
「うん、それだけ」
「たいした事ありませんわね」
興醒めとばかりに、呆れた嘆息で締め括った。
うん、そだね。
此処に集結している〈ベガ〉に比べたら霞むよね。
だって〈アートル〉に〈ブロブ〉に〈モスマン〉──終いには〈フラットウッズ・モンスター〉だもんね。
花形UMA勢揃いだもんね。
「ねえねえ、マドカちゃん? あの人達、何か運んでない?」
モエルが気づいて指摘。
「よく見えるなぁ、此処から」
「えへへ♪ 本体の〈マルチセンサーアイ〉だよ♪ 」
得意気に鋼鉄巨人を指差す。
ああ、ホントだ。
饅頭面が天空を凝視している……犬這い姿勢のまま。
画面、怖ッ!
「何運んでるだろ?」
「え……っとね? あ、ジュンちゃんだよ?」
「……ふぇ?」
一瞬、思考が情報を拒否る。
「だからぁ、ジュンちゃんだってば」
「何ィィィーーーーッ!」
パニくった!
この上無いほどパニくった!
「見せろ! ボクにも見せろ!」
「ええ~? 見せろって言われてもぉ~……」
「信じないぞ! この目で見るまでは信じない!」
「パモカの望遠カメラアプリで御覧になれば宜しいじゃありませんか」と、平静然にラムス。
「ふぇ? んな機能あるの?」
「ありますわよ? ちょっと拝借しますわね」差し出したボクのパモカを、アレコレと操作し始めた。「はい、どうぞ」
夕焼け空へと翳して、スマホVR宜しく覗き込む。
ボリューミーなショートツインテールに、ムチムチ肉感の肢体……うん、間違いない。ジュンだ。
「あぁあぁぁあ! どうしよう!」
頭抱えて大悶絶!
「ジュンだよ! 紛う事無きジュンだよ! Fカップだもの! 魅惑のFカップだもの! ボクが、あのFカップを見間違うはずがないもの! だって、何度も揉んだFカップだもの!」
スカーーンと、鋼質化顔面を何かが直撃!
「ぎゃおす!」
あ、コレってばジュンの上履きだ。
あの高空からツッコミを入れてくるとは……ジュン、おそろしい娘(白目)!
「どういうつもりさ! シノブンブンブブブン!」
「増えたぞッ?」
あ、ゴメン。
興奮して間違えちった。
「クックックッ……今回は、最初から両面作戦だったのだ。即ち『日向マドカの捕獲』か『星河ジュンの拉致』か……な」
「星河様を拉致して、どうするつもりですの?」
腑に落ちないといった様子で、ラムスが追究する。
「揉む気かッ!」
「揉むかッ!」
「何だ、揉ないのか……もったいない。ボクなら揉みまくるのに──って、ぎゃおす!」
スカーーンと上履きミサイル二発目!
ってか、聞こえてんの?
あの高空で?
てんやわんやで収拾が着かないまま、どんどんジュンが小さくなる!
「どうしよう! どうすれば! どうするとき! どうするぞなもし!」
「追えば宜しいのではありませんこと? いまなら、まだ間に合うかと……」
「そっか! ヘリウムバーニアで……!」
──ぷすすん。
「ガァァァス欠だァァァーーッ?」
大慟哭!
巨体相手に使い過ぎた!
おまけに、その後シノブンとの空中戦だったし!
「任せて! マドカちゃん!」
凛としてモエルが名乗り出た!
「モエル? 協力してくれんの?」
「大好きなマドカちゃんのためだもん ♪ 」
ニッコリと優しい笑み。
うう、ありがたい!
この際、藁でも変態にでも縋りたい気分だよ!
「よし!」
シリアスモードに気持ちを切り替え、モエルは前腕部アームレットへとパモカをセットした。
それを口元に近づけて命令を下す!
「動け! ジャイアントわたし!」
……いや〈ジャイアントわたし〉って何なん?
とか思った直後、スフィンクス体勢だった鋼鉄巨人が鈍重に巨躯を起こした!
そして、両腕を大きく右へ振り──続けて、大きく左へ振り──うん、垂直に肘を立てて──『マ「それ以上言うなァァァーーッ!」ッ!』
慌てて遮ったよ!
「どうしたの? マドカちゃん?」
「いろいろと、ややこしい事になるだろ! 『 ● 映』とか『光プ ● 』とか!」
「はぇ?」
無垢に小首コクン。
知らんでやってたんか、この天然ストーカー娘。
恐るべしモエル──否、宇宙にまで浸透していた『ジャイ ● ントロボ』の影響力!
「何かよく分からないけど……とりあえず、やるね ♪ 」
明るくモエルが宣言すると、大きな手がボクを掴み上げ──何する気?
「いっけえーーっ!」
「だぁぁぁいリィィィグボォォォーール?」
ブン投げやがった!
江 ● 卓の豪腕宛らに!
グングンと高度を追い上げて行く!
風どころか雲まで裂いた!
「うひぃぃぃーーッ!」
寒い! 重い! 痛い!
完全鋼質化じゃなかったら、間違いなく死んでるぞ! コレ!
だけど、その甲斐あって追いついた!
予想外の追撃に動揺する〈フライング・ヒューマノイド〉達!
その間に意識を失ったジュンが吊るされていた!
おそらく抵抗はしたんだろう──〈PHW〉を着込んでいるし。
ただ無力だっただけだ。
けれど、これは不幸中の幸いかもしれない!
クルロリの説明によれば〈PHW〉とは〈パーソナル・ハブビタル・ウェア〉の略──身も蓋もなく言うなら〝スーパー宇宙服〟とでも呼ぶべき代物!
だからこそ、生身にも拘わらす、ジュンは高空の過酷環境でも無事でいられる!
「ジューーーーンッッッ!」
絶対に救い出す!
その決意のままに手を差し伸べた!
追い越した!
飛んでいった!
「あ~~~~れ~~~~~~…………」
斯くして、ボクは流星と化した。
ジュン救出作戦、失敗。
彼女が何処へ連れ去られたのか──それは判らない。
ついでに、ボクが何処へ投げ飛ばされたのか──それも判らなかった……シクシク。
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