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最近の若いバンドが凄い ~ego apartment, えんぷてい~

2022年は、多くの新しいアーティストとその素晴らしい音楽作品に邂逅したシーズンだった。

表題の2つのバンドはそれぞれタイプは全く異なるが、今最高に勢いに乗っているバンドだと思う。昨年Spotifyでたまたま見つけたアルバムに惚れ込んでいつか生で観たいと思っていた。

今週ようやく各々のライブツアーに訪れることができたのでその感想。

『EGO APARTMENT "TRANSIT"』@ Shibuya WWW 4/19(水)

ego apartmentは2020年に始動した新進気鋭の3人組ユニットであり、2022年にセルフタイトルの1stアルバム『EGO APARTMENT』をリリースしている。

彼らの魅力は、その若さからは想像できないユニークな音楽センスにあると常々思っていた。R&Bやブラックミュージックが深く浸透したような楽曲が多いなと。いざライブを観てみると、演奏の圧倒的な勢いや、有無を言わせないクールなカッコよさなど、ロックの要素がその音楽性に乗っかって他では類を見ないグルーヴが出来上がっていた。

メンバー3人のうち、メインのボーカルを務めるのはギタリストの2人。高音のボーカルが映えるPeggy Dollと、低音のボーカルが響くZenのリレーが視覚的にも目まぐるしい。曲のブレイクではベーシストDynaのカウントと煽りがアクセントとなっていて、その3人の佇まいから溢れるパッションはライブパフォーマンスでこそ初めて体感できるものだった。

彼らの代表曲「NEXT 2 U」のイントロが鳴り始め、会場はライブの頭からボルテージが高揚した。初のワンマンツアーとのことで、音源化されている既発曲はほとんど演奏しきったのではないだろうか。「mayonnaise」「Wrong with u」などの有名曲もわりと序盤で惜しみなく披露。

「mayonnaise」は私が彼らを知ったきっかけの曲だったが、やはり存在感というか、他の曲と並べられたときに際立って聴こえる印象があった。

途中、Peggy Dollの弾き語りで小休止。その後に始まるシーケンシャルなギターフレーズを何重にも重ねて大幅なライブアレンジを適用した「huu」がこの日のハイライトだった。程よいテンポ感で進んでいたセットリストから、終盤に向けて一気にアクセルを踏むような移り変わりが素晴らしかった。

更にその勢いを切らさないように「TV」「REACH!」とハイテンポな楽曲が続き、本編のラストは、1stアルバム『EGO APARTMENT』のラストも飾る「Loose」で締めくくられた。

アンコールでは、直近でリリースした「Call me」が演奏された。行進曲のようなキックとギターで進行するこの曲は、ディープな音楽を追求してきた彼らにしては珍しくかなりシンプルな展開の曲だと感じた。

この日のパフォーマンスでは、これまで彼らを追いかけてきたファンを抱擁する朗らかさと、ここからまだ突き進んでいく決意を表明する活力を感じるような、彼らなりのアンセムとなって響いていた。

『QUIET FRIENDS TOUR』 @ Spotify O-nest 4/21(金)

えんぷていは前述のego apartmentと同じく始動は2020年、更に2022年に1stアルバム『QUIET FRIENDS』をリリースしているなど、"若さ"に関してはほぼ同程度のユニットだ。

ところが音楽性はだいぶ異なる。えんぷていの魅力は言葉数の少ない日本語で歌われる歌詞と、浮遊しているようで本能的に心に訴えかけてくるメロディにある。特にアルバム『QUIET FRIENDS』は全体を通して宇宙の中を泳ぐような、作品としてのコンセプトに芯が通っているところが良かった。

今回のツアーはアルバムタイトルに乗じて、彼らが共演したいアーティストをゲストに呼ぶ対バンツアーだった。

4/21(金)の渋谷公演ではBROTHER SUN SISTER MOONがゲスト。こちらも初ライブだったが、落ち着いた雰囲気というイメージに反して思ったより音圧の大きな激しいパフォーマンスだった。特にベースの重低音の響きが曲によって変わるのが印象深かった。

「Cactus」のアウトロの音像を残したままアクトが終了。メインアクトのえんぷていへ移る。


えんぷていもまた、代表曲の「Sweet Child」で幕を開けた。アルバム『QUIET FRIENDS』を締めくくる曲だが、サウンドの作り込みから演奏の魅せ方まで今の彼らのモードを最もよく表している名刺代わりのような曲だ。誰かに一曲勧めるなら今はこの曲を選ぶ。

フロアが心地良く揺れながら続く「Dance Alone」では、ギターボーカルのオクナカさんとキーボードのイシジマさんのハーモニーがとにかく綺麗だった。

「微睡」「メノウ」と過去曲を繋いだ後に、じっくりアルバムの世界観に浸っていくセットリストはなかなか良かった。個人的にアルバムで最も好きな「Ooparts」はライブでも素晴らしかった。歌っている言葉の数は少ないのに、何故ここまではっきりと琴線に届くのだろうか。そんな実体の掴めなさも彼らの魅力の一つだ。

更には新曲2曲も披露。シングルとしてリリース予定という「秘密」は彼らの新たな名刺代わりの一曲になりそうな予感がした。

ライブ終盤の「舷窓」はこの日印象ががらりと変わった曲で、この日のハイライト。それまで飄々と演奏していた彼らの情熱が溢れ出たように熱く激しいセッションだった。

最後はアルバム1曲目の「印」でクールダウンしながら本編の幕を閉じた。

アンコールでは、「夏の曲をやります」と前置きして「煙」を披露。アルバム『QUIET FRINEDS』の曖昧な世界観とはまた異なる、かなり具体的な情景とともに夏の切なさと生温かさを歌ったこの曲はとても新鮮に聴こえた。

アンコールの最後は代表曲「針葉樹」。この日のライブは、最後まで優しい表情で余裕を見せるオクナカさんの表情が印象的だった。


本記事で紹介した、タイプの大きく異なる2組のバンドに共通していたのは、ハイセンスな音楽の裏に潜む情熱だと思った。

ここ数年シティポップという単語に代表される、都会的でオシャレな音楽が流行に乗りやすい傾向にあると思っている。流行に乗りやすいというか、私自身も好きなジャンルである。

けれどそういう音楽だって、生で聴くと全然違う。プラグインだけでやっているわけではなくて生身の楽器で演奏しているのだから当たり前だ。アーティストの初ライブとなると、個人的には正直時間とお金を割いて観に行く価値が本当にあるのかという点で迷いが生じるアクションではある。もちろん今回は、どちらのバンドも間違いなくその情熱を肌で感じることができて良かったと思えるライブだった。

「売れ線」とか「バズる」とか、使いようによっては聞こえの悪い単語が横行する現代、自分が好きなバンドは売れても売れなくてもどちらでも良いと思っている。けれど絶対に音楽もライブ活動も続けてほしいし、自分たちの信念は押し通してほしい。

「まだ20代前半」という響きが羨ましい。

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