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「ロック×ヒップホップ×お笑い」という似文化の融合

今年の5月にメジャーデビューしたバンド、Cody・Lee (李)。一度くらい生でライブに行ってみたいなと思っていた。

そんな矢先に『Cody・Lee(李) SPECIAL LIVE TOUR ようこそ!すももハイツへ -3LDK- 2022』なる対バンツアーが企画された。

対バンと言えど、いずれの公演にもお笑い芸人が名を連ねている。「なんだこのイベントは、、」と疑念を抱きながらも、最寄りの東京公演には2人組ラップユニットのchelmicoとお笑いコンビの真空ジェシカ、即座にチケット購入を決意した。

chelmicoはワンマンツアーに足を運ぶくらい好きなアーティストだし、真空ジェシカは生で観たことこそ無かったが、M-1グランプリの決勝に出場した前年くらいからずっと好きな芸人だった。

この3組が一同に介するツアーを素直に評するなら「異色のコラボ」とでも言えるかもしれない。

ところが蓋を開ければ、3組の生業は異文化ではなく"似"文化のように感じられ、彼らが集うのは必然であったとも言える強い納得感を覚えた。

この企画、大発明なのでは。

音楽とお笑いの共通項

トップバッターの真空ジェシカは、文字通り会場をゲラゲラと笑わせた。ゲラゲラという表現が最も適している。M-1決勝レベルのネタを3本分くらい一気に観られたのは、純粋に貴重で楽しい機会だった。

彼らの芸風に内輪ネタが多いこと自体をネタにして、いつもよりはコアなお笑いファンが少ないであろう会場でもお構いなしで暴れていた。もっとも漫才の根幹は、凄まじくクオリティの高いボケと、時にボケの説明をしながら観客側についてくれるツッコミで成り立っているので、その点は大衆向けと言える。

下記は当日のネタとは関係ないがお気に入り。

こうしたYouTubeのネタを仮に家で観たとしても、せいぜいクスクス笑うくらい。ところが、会場で観ると箍が外れたように笑ってしまうあの感覚は何なのだろう。

「誘い笑い」という言葉があるが、それに似た、それでいてもう少し高次な現象だと思っている。例えば音楽のライブを観に行ったとき、曲が盛り上がるタイミングで会場全体も高揚しているのが分かって、ウワァーッと体が熱くなるあの感覚。言わば同じツボを、同じ空間を、その場に集った見知らぬ誰かと共有し合うことの喜びだろう。

より厳密に言うなら、突発的に笑い起こされた後で、会場の空気によってその笑いが増幅される感じだろうか。

言語化できない、本能で反射的に「良い!」と思える瞬間を、生身で感じてその場にいる誰かと分かち合うことが、意外にも音楽とお笑いの共通点なのではないだろうか。どちらもインドア文化に捉えられがちだが、映画館で映画を観るのとは少し違う、スポーツ観戦に近い気がする。

フィジカルなライブへ赴くことが増えた今年だからこそ、尚更強く残っている感覚だ。

ロックとヒップホップの親和性

続くchelmicoはもう若手ユニットじゃない、余裕と貫禄が物凄かった。

セトリはさすがに対バン/フェス用の選曲に感じたが、決してホームではない会場をあれだけのせられるのは彼女たちの実力と経験値あってのことだろう。冒頭から「Player」で盛り上げた流れで続くアップテンポなナンバーはもちろん、「ゆったりと揺れる感じの曲です」と前置きして始まるミドルテンポナンバーのゾーンが特に印象的だった。

途中のMCでmamikoが「chelmicoのライブ初めての人〜?」と尋ねると、ざっくり会場の60~70%くらいは手が挙がったのではなかろうか。それにしては、「meidaimae」のような曲でも会場が沸いていたのに少し驚いた。この曲が持つ、温かさだけじゃないどこかスリリングな雰囲気は唯一無二だ。

初chelmicoの観客が多い中でも彼女たちのチャプターがこれだけ盛り上がったのは、もちろん2人の普遍的な人気やパフォーマンススキルが根底にあって、その上でCody・Lee (李)目当てで来た人にも響くものがあったからだと思う。

というのも、この日のライブのハイライトを先に言っておくと、アンコールでCody・Lee (李)がchelmicoの「Love Is Over」をカバー。初めは5人の演奏だったが、途中からはchelmicoご本人+真空ジェシカのガクさんも登場して、まさに"みんなで大団円"の幸せな空気を作り出した。

ガクさんが「Disco (Bad dance doesn't matter) 」の"てんでダメなダンス"を踊っていた光景には、笑いよりも先に感動を覚えた。音楽を楽しむには、歌えなくても踊れなくても構わないんだなあと。

特筆すべきは、「Love Is Over」前半の5人での演奏と歌唱に全く違和感が無かったこと。彼らは対バンでヒップホップユニットを迎え入れるまでもなく、自らヒップホップに通ずるアプローチに取り組んできたバンドであって、ラップパートもツインボーカルパートもビートアプローチも、自分たちのものとして吸収できていたように感じた。

既にラッパーとのコラボ曲もリリースしているほどだから、今述べたような気づきはご本人やコアファンの方からすると「何を今更、、」と言われるかもしれないが、新参者からするとなかなかに革命的な取り組みだと思っている。

"ロックバンド"だけど"ロック"だけじゃない

話をライブの流れに戻すと、主催者であるCody・Lee (李)のライブもまた素晴らしかった。メンバー個々のスキルは十二分にありつつも、演奏の荒削り度合いがいいスパイスになっていて、若さと情熱を感じた。

自分の好みを言うと、「お前ら行くぞ!!」みたいな真正面から熱いバンドって正直あまり好きになれない。ところが彼らは飄々とした態度でMCやライブを進めながらも、内に秘めた熱量を演奏で表現する様がカッコいいなと思った。

「LOVE SONG」とか、アウトロのセッションがめちゃカッコ良かった。この曲はまさに"ロック"の側面を見せている。

一方、冒頭のナタリー記事でchelmicoが答えていたように、Cody・Lee (李)のライブは「踊れる」側面もある。

文脈は異なるのだが、数ヶ月前にくるりのライブに行った際のレポートを書いた。その記事では大御所バンドに対して生意気にも、タイトルの通り"ロックだけじゃない"と評したのだった。

この日の彼らには、くるりを観たときの感情と限りなく近いものを感じた。部分的に切り取れば「青春!衝動!ロック!」みたいな一面もありつつ、BPMを少し落とせば一気にミラーボールを想起させるようなダンスビートに様変わりしたり、曲の冒頭から明示的にラップを織り交ぜたり、とにかくアプローチの手段が豊富だ。

chelmicoからの流れがシームレスに繋がったように感じたのは、こうした幅広い音楽性のおかげだと思う。

あるジャンルを極めたバンドは若手でもまだまだ他にもいるが、これだけ意欲的に色んな技を使ってリスナーを魅了していこうとする姿勢、一種の雑食っぷりが彼らの魅力なんじゃないかと。そしてその姿勢は、ジャンルレスにゲストを呼んだ今回のツアーにも表れている。改めて、その企画力に脱帽する。

途中のMCでボーカルの高橋さんは「自分が思い描くバンド像とはかけ離れたようなバンドばかりが注目されていく様を見て、悔しいと思うこともある」と、心境を吐露していた。

けれど、その発言の後で自ら口にしていたように、「好きなことをやればいいじゃん」とだけ思う。

こんな独特の企画を開いても集まってくるファンは大勢いるわけで、彼らの努力は届く人には届いているのだ。

高橋さんは「ここに集まってくれた皆さんのセンスも素敵です」とも話してくれた。

この日だけは自分も、「センスが素敵な人たち」の仲間入りができたかなあと思った夜だった。

当日17時頃、ライブ前の東京

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