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経営組織論と『経営の技法』#318

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ②解凍
 穏やかな日常の見方における組織変革のプロセスは、図12-2にあるように、3つの段階のモデルで示されます。それは、「解凍→変革→再凍結」です。

図12-2

 現状が安定的ですから、まずはその状態を動かし、変革を受け入れる素地を作ることが、最初のステップになります。このようなアクションを戦略的な揺さぶりと呼びます。たとえば、トップマネジメントが現状のままで進むことの危機を伝えることで、変革が必要であるという認識が組織メンバーに共有され、組織変革を受け入れる素地ができます。
 変革をより大きくするためには、変革の必要性を強く訴えることが必要になりますから、解凍への衝撃が強いほど解凍はより進みます。たとえば、言葉だけでなく、これまで中心的事業であったが採算がとれていない部門を廃止することなどは、従業員に強く変革の必要性や危機感を伝えることになるでしょう。
 一方で、解凍の時期には現状に留まろうという動きも多く出てきます。揺さぶりを通して現状から離れる力を強めるとともに、留まろうとする力を弱めることも必要になります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』276~277頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 この「解凍」という言葉ですが、この言葉が表す様々な要素のうち、特に注目されるのは、上記本文にもあるように従業員の意識です。
 これが、会社組織ではなく無機質な機械であれば、わざわざ機械を改修する動機づけのプロセスなどを踏む必要は無く、必要な検討を踏まえて改修作業に直接取り組むことができます。
 ところが、会社組織の場合には、相手は人間です。これまでうまくいっていたやり方を変えることは、程度の差こそあれ、個人がこれまで蓄積してきたことが新しい環境下で通用しなくなることを意味します。それは、一方で個人の経験や知識、それに基づく自信や存在感などを喪失することであり、他方で新しい知識や技術、能力の習得が必要となり、その過程で新たな苦悩や挫折などを感じることです。これは、その分野での仕事の長い人ほど強く感じる壁です。変われない奴など会社を去ってもらえばいい、と腹を括らなければならない場合もあるかもしれませんが、経験豊富な人に去ってもらうことのマイナス(変化後に必要なものを失うかもしれない点、会社に関する悪い風評が立つかもしれない点、変化後に必要な人材を確保できないかもしれない点、他の従業員のモテイベーションや求心力を下げるかもしれない点、など)を考えると、経験豊富な人たちにその壁を越えてもらい、変化後にも活躍してもらう、という選択が一般的には現実的でしょう。
 このことから、特に経験豊富な人たちに顕著な問題ですが、この壁を乗り越えようという意欲を持ってもらうための「解凍」プロセスが必要となるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、いかに会社を掌握し、トップダウン型の会社組織を構築しているからといって、このような解凍プロセスなしにいきなり大きな改革を行うことは、やはり多くの場合無理があります。特に経験豊富で、おそらく変化後にも重要な役割が期待される従業員に不満が残る(壁を越えていない)状況で変化を強行すると、表面上スムーズでも実は問題を抱えたままの変化になってしまいかねないからです。
 もちろん、経営者のグリップが強く効いていて、「解凍」といっても一声かければそれで皆がやる気を出してくれる場合もあります。
 けれども、経営者のグリップが隅々まで強く及んでいない場合も多く、ムラもあるでしょうから、その場合であっても「解凍」プロセスが不要となるのは、例えば会社が一度倒産し、再生のために事業の大幅な整理・再編が必要な場合など、言われなくても従業員が「壁」を取り払っているような状況です。
 このように、従業員の「壁」も意識し、適切にコントロールする能力が、変革期の会社の経営者に求められる資質になるでしょう。

3.おわりに
 経営組織論の凄いところは、ここでの「解凍」のようにイメージがすぐに伝わる言葉が非常に上手に作り出され、活用されている点です。法律では、どうしても誤解を与えない正確な用語を選ぶため、イメージの伝わりやすさは二の次になり、わかりにくい表現になってしまいますが、経営組織論は経営者や会社組織の人たちにまずはイメージを理解してもらうことの方が重要なのでしょう。目的が違うからと言って、法律に関して分かりにくい表現が積極的に好ましいという理由はありませんから、このような表現は法律の側でも学ぶべきポイントでしょう。
 実際、「解凍」という言葉は、固体が液体に変化することであり、分子レベルで見ると分子の動きが活発になり、流動性が高まり、形状の変化が容易になることを意味します。氷が水になれば、何の抵抗もなく容れ物の形におさまります。もちろん、解凍すればそこまで簡単に形を変えられるわけではありませんが、形を変える作業の前作業として「解凍」というイメージを使うことは、非常に分かり易い説明方法です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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