松下幸之助と『経営の技法』#265
11/6 教えずしては
~教えることに熱意をもちたい。教えられることに謙虚でありたい。~
人間は偉いものである。たいしたものである。動物ではとてもできないことを考え出して、思想も生み出せば物もつくり出す。まさに万物の王者である。
しかしその偉い人間も、生まれ落ちたままにほうっておいて、人間としての何の導きも与えられなかったならば、やっぱり野獣に等しい暮らししかできないかもしれない。
古来どんなにすぐれた賢者でも、その幼い頃には、やはり父母や先輩の教えを受け、導きを受けてきた。その上に立っての賢者であって、これらの教え導きがなかったら、せっかくの賢者の素質も泥に埋もれたままであったろう。
教えずしては、何ものも生まれてはこないのである。教えるということは、後輩に対する先輩の、人間としての大事な務めなのである。その大事な務めを、お互いに毅然とした態度で、人間としての深い愛情と熱意をもって果たしているかどうか。
教えることに、もっと熱意をもちたい。そして、教えられることに、もっと謙虚でありたい。教えずしては、何ものも生まれてはこないのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
ここでは、教育の重要性が説かれていますが、先輩・後輩という用語を用いていることから、社内教育の問題を説いているものと思われます。
しかも、教師や教員ではなく、父母や先輩が出てきますから、改まった意味での教育研修プログラムよりも、現場でのOJTのような教育の方がイメージに近そうです。
それも、会社からの指示命令によって教育を行うのではなく、自発的に積極的に行うことが期待されています。それは、人間の本質に基づく要請であり、「熱意」をもって取り組みたい、と働きかけているからです。
これは、もちろん、経営モデルの問題として、業務を任された従業員は、それをいつまでも自分だけでため込むのではなく、さらに人に任せていきながら、任された業務を安定させ、その領域を拡大していくように行動するようになりますので、そのような経営モデルの問題も重要です。
けれども、権限が委譲されるような経営モデルでないとしても、組織には、組織としての行動原理があります。それは、組織を維持していこう、という組織防衛の本能を、構成員がいつの間にか共有し、行動を始める点です。例えば、学校の部活動やサークル活動です。勧誘されて嫌々入部したはずなのに、翌年には自分が新入部員の勧誘を行っているのは、よく見る光景です。
これは、自分が縁あって所属する組織について、組織が消滅してしまうと、自分の組織を見る目のなさをバカにされるのが怖いからなのか、自分が所属するコミュニティーの継続・発展によって自分の慣れた環境が継続され、自分自身の生活や活動が安定するからなのか、仲間を増やす口実なのか、理由はよく分かりません。人間の集団性に関係があることは間違いなさそうです。
いずれにしても、会社という組織と、そこに所属する従業員の関係から見ると、従業員がその会社のために自分の後輩を指導することは、本能的な行動であることを、見抜いているように思われます。
だからこそ、教育を受ける側に「謙虚さ」を求める理由も理解できます。
それは、会社というコミュニティーの仲間になることが、その従業員にとってメリットが多く認められることから、簡単に逃げ出してしまうのではなく、その機会を見極めるために腰を据えることが好ましい、と感じているからなのでしょう。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として見るべきは、このように組織内の自主的な教育機能を作り上げ、自ら関与しなくても会社組織が自動的にその機能を維持できるように、継続性のある組織を作り上げる能力です。
さらに、経営者自身の最大の業務が、次の経営者の準備育成と言われます。
これは、この連載で、様々な観点から検討しているとおり、経営者に必要・有益な素養は数知れない、幅広いものがあり、責任も重く、容易に「人を得る」ことができません。そのために、経営者は、次の経営者を選び、時に候補者同士を競わせ、必要な教育を施さなければなりません。ここでの教育のことを、特に「帝王学」ということもあります。
いずれにしろ、単に、すぐに使える人をよそから買って来ればよい、というだけでなく、本当に重要な人材は自分が育てる、という意識も、経営者には重要なのです。
3.おわりに
松下幸之助氏自身、教育熱心のあまり、PHPを作った、ということは有名な話ですし、稲盛氏など、著名な経営者には、教育熱心な方が多く見かけられるように思われます。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。
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