見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#217

9/19 愚痴を聞いてくれる人をもつ

~仕事で大きな成果をあげる部下は大切。悩みをうまく聞いてくれる部下も大事。~

 自分の部下の中に愚痴を訴えられる人、うまく愚痴を聞いてくれる人がいれば非常に助かる。
 実は、私自身が多少神経質なところもあって、そういうことを身をもって体験してきた。私の今日あることの1つの大きな原因としては、そのような人に比較的恵まれてきたことがあげられると思う。いろいろと煩悶した時に、それをうまく聞いてくれる人が、私の場合は割と多かった。だから幸いにして愚痴が言えた。少々のことでも愚痴を言って、気がスッとする。晴れ晴れとした気分になって、力いっぱい仕事に打ちこめるというような姿で、今日までやってくることができたわけである。
 だから、相当の仕事をする人、何らかの意図をもって事業をしようというような人は、そういった愚痴を言える部下を傍らにおいておくことが望ましいと思う。もちろん、非常に働きがあって立派な仕事をする部下、現実に商売をして大きな成果をあげるという人が大切なのはいうまでもないことである。しかし、働きはそれほどでなくても、愚痴をうまく聞いてくれるような人がいないと、事業に成功し、社会人として成功することは難しいのではないかと思う。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

画像1

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 特に、松下幸之助氏は従業員の自主性や多様性を重視し、どんどん権限移譲し、任せていく経営モデルを採用してきました。
 そこでは、権限移譲する経営者や管理職者が、従業員に無責任に仕事を放り投げるのではなく、やり遂げるようにサポートしたり、アドバイスしたりしますし、結果について自分自身が責任を持ちます。いわゆる丸投げや責任放棄ではないので、経営者や管理職者自身が責任を負うのです。
 しかも、従業員を信じて任せたうえで、その責任を負うのですから、この人に任せていいのだろうか、期待を裏切られるのではないだろうか、など、悩みは尽きません。さらに、9/2の#200では、従業員の悩みを背負うのが経営者の仕事、と説いています。自分だけでも大変なのに、他人の悩みまで背負うのだから、大変です。
 けれども、最初から悩まずに、上手に管理ができる人ばかりではありません。むしろ、優秀な人ほど、他人に任せず自分で仕事をしてしまった方が早くて上手に処理できるでしょうから、他人に任せることによるストレスはそれだけ大きくなります。そのような人ほど、他人に仕事を任せることに少しずつ慣れていかなければなりません。
 それを可能にするツールが、愚痴を聞いてくれる部下の存在です。
 自分でストレスをため込んで爆発してしまうのではなく、上手にガス抜きしながらストレスに慣れていくからこそ、少しずつ慣れ、少しずつ成長していけるのです。
 このように、特に松下幸之助氏が一貫して採用してきた、権限移譲型の経営モデルの場合には、部下を育てられる管理職者や経営者を育てることが必要であり、そこまで考えると、このような「愚痴を聞く」人の存在も、重要な要素となるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、投資する資本と会社を託す経営者に求める資質として参考になるポイントを、松下幸之助氏の言葉から読み取ると、自分自身のコントロールが上手な点をあげることができるでしょう。
 ここでは、ストレスを溜めこまず、愚痴を聞いてもらって上手に発散することが紹介されていますが、経営者のストレス対応については、経済雑誌や週刊誌などで経営者の趣味が頻繁に紹介されているように、誰もが気になるポイントです。ストレスが溜まると、視野が狭くなり、客観性が失われるなど、経営判断医悪影響が出るだけでなく、会社やチームの雰囲気を悪くし、生産性を下げてしまう危険もあります。
 愚痴を聞いてもらうことだけがストレス発散方法ではないでしょうが、広い意味で、経営者の自己管理能力が重要になるのです。

3.おわりに
 経営の神様、と言われることから、人格者であり、人に愚痴を言う姿が想像できないかもしれません。
 たしかに、一方で高い理想を追い求め、自分自身も節制し、努力している、というある意味「理想的な」経営者の姿があるのに対し、他方で直面する現実によって煩悶し、ストレスが溜まり、愚痴を言う、という「人間臭い」一面もあるのです。
 この両面が、人間松下幸之助を魅力的なものにしている大きな理由ではないでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

画像2



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?