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経営組織論と『経営の技法』#278

CHAPTER 11.2.1:埋め込まれた紐帯
 まず、1対1の関係から考えていく ことにします。すでに1対1の関係は、資源依存パースペクティブで見てきたように、重要な資源を持つなど、相手の組織にとって自分の組織への依存度が高いほど、自分たちはその組織に対して影響力を持つことができます。このとき、2つの組織は市場における取引関係が前提となっています。このような関係においては、個々の組織はそれぞれの利潤の最大化をめざして行動することになります。ですから、短期の取引関係、そして利益とコストが関係を形成する主要な要素になります。
 しかし、組織間の関係はそれだけではありません。組織と組織の関係は、ビジネスライクな関係だけでなく、長期的で密接で個人的な関係に至るときもあります。このような関係を「埋め込まれた紐帯」と呼びます。埋め込まれた紐帯は、信頼や情報、協働の問題解決において力を発揮します。なぜなら、埋め込まれた紐帯による結びつきは、自分も相手も利己的に行動せず、相互に利益をもたらすように行動するといった信頼感を持ち、それゆえに相手からも市場における取引関係だけの関係では得られないような豊富で詳細な情報を交換し、問題が生じたときには、その解決に向けて双方が協力し、調整できるからです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』254頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

2つの会社組織論の図

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

 今回は、いつもと逆の順番で検討します。

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者のミッションは、株主の負託に応え、投資を回収し、さらにそれを上回る利益を上げることです。身も蓋もない言い方ですが、経営者のミッションは「儲ける」ことです。
 しかも、株主の負託に応えるためには一発勝負の博打のような仕事ではダメで、持続的長期的に収益を上げ続けなければなりません。具体的にモデル化してみると分かり易いと思いますが、株主の投資を回収し、さらに利益を上げるためには、仮に5%の利益を上げたとしても、単利で計算して20年以上かかるのです。
 そうすると、会社はその活動が社会に受け入れられなければならず、良き社会市民とならなければなりません。企業の社会的責任は、最近もその言葉を変えていますが(SDGsなど)、古くはブリスオブリージュや、日本でも大店の地域への貢献など、企業の存続のために必要で重要な経営課題でした。
 上記本文で紹介され、これから検討される「紐帯」の問題は、目先の損得勘定ではなく、より中長期的に会社の社会的な基盤を強固にするもので、経営者にとって重要な問題となるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 下の三角形は、社長が適切な経営判断ができるようにサポートし(ボトムアップ)、社長の経営判断を一体となって執行する(トップダウン)ことによって、リスクを取ってチャレンジし、利益を上げ、株主の負託に応える(上の三角形)ツールです。
 そして、上記のとおり社長が企業の社会的責任や、「紐帯」について配慮し、適切に対応しなければならないことから、会社規模が大きくなると、そのような「紐帯」に関わる業務の担当者や担当部門を作る、などの組織的な対応が必要になってきます。「紐帯」の具体的な内容に応じて、その「紐帯」に関わる業務が変わってきますから、担当者や担当部門の必要性やその役割も異なってきます。
 今後の検討で、その内容がより具体的になっていきますが、会社組織の中に打算だけで動くのではない業務や、その担当者・担当部署が必要になる、という問題意識を持つことが必要です。

3.おわりに
 打算を超えた仲間がいることは、人間個人の問題として考えてみると、非常に重要で非常にありがたいことが分かります。会社も同じです。経営者が、同業者や地域の経済団体で一見無駄とも思われる活動をしているのは、このような背景があります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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