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経営組織論と『経営の技法』#257

CHAPTER 10.3.1:実践共同体とは何か ②3つの要素
 協働の感覚とは、自分たちの共同体がどのような価値を持ち、どのような目的で活動しているかをきちんとメンバーが理解していることを指します。
 相互依存の関係性は、メンバー間の関係が一方通行の関係でなく双方向であり、互いに依存的な関係であることです。つまり、共同体のメンバーがお互いにとって必要な存在である状態であるほど、学習はより行われることになります。お互いが共同体にとって必要であるからこそ、教え合い、学び合いが起こりやすくなるのです。
 そして、実践共同体では、共同体が長期的に続いていくうちに、特定の言語や儀式、ルーティンなどのレパートリーが生まれます。その共同体特有のレパートリーを持っていることも実践共同体の特徴といえます。ですから、一度限りの集まりでは、このような特徴が作られることはほとんどありませんから、実践共同体とはいえませんし、役割が固定化し、お互いがコミュニケーションをしないような職場も実践共同体とはいえません。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』232頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 3つの要素は、組織の要素でもあります。
 つまり、個々人が組織に帰属している意識があり(1つ目の「共同の感覚」)、個々人相互の関係性があり(2つ目の「相互依存の関係性」)、個々人を離れて組織自体にも資産がある(3つ目の「レパートリーの共有」)、という3つの要素は、組織と個人の関係を決定する要素でもあるのです(このほかにも、個々人の持っている資産や能力など、考慮すべき要素があるでしょうが)。
 もう少し見ると、この3つの要素によって、個々人が他のメンバーや組織との関係で、影響を与え、影響を受ける関係にあることが示されていることがわかります。影響を与え合う関係があるからこそ、教育や学習の相互効果が期待できるのでしょう。
 そして、このような関係を通して気づくのは、教育や学習に関する問題だけでなく、内部統制上の様々な問題についても、経営上の影響だけで終わるのではなく、従業員個人に対して相当の影響を与えているはずである、ということです。
 これを、リスク管理の観点から見た場合、個々人の主体的な関与がより重視されていることが注目されます。上記3つのポイントに照らして考えてみましょう。
 すなわち、経営者や上司からの指揮命令だけでなく、①従業員の組織への帰属意識が重視され、積極的な貢献が期待されます。例えば、マニュアルなどで明記されていないため、報告が指示されているわけではないリスクについて、違和感を覚えた時に上司に相談する、などの行動がイメージできます。
 また、②従業員同士の関りが重視され、①の貢献を従業員同士が高めあうことが期待されます。マニュアルなどで明記されていないリスクについて、それがリスクとして情報集約すべきものかどうかを従業員同士で相談するような行動がイメージできます。
 さらに、③組織がノウハウや情報、経験などを共有していますので、従業員のリスク対応の経験などがマニュアル化されたり、チーム内で伝承されたりするなど、組織自体のリスク対応力が高められ、これによって従業員のリスク対応力も高められる、という関係がイメージできます。
 このように、本文で示された「実践共同体」の3つのポイントは、組織のリスク対応力を考えるうえでも参考になるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、教育や学習を通して従業員のレベルを高める動きは、リスク対応力を高める動きでもありますから、当然、経営者に期待される動きです。
 自分のやりたい経営だけを行い、会社組織の永続的な機能強化などに有効な対策を講じない経営者は、仮に短期的に業績を上げることができても、中長期的には会社の競争力を毀損してしまいます。これは、リスク対応力を高めるための組織作りにも共通することです。
 要は、市場競争での勝負だけでなく、会社組織の体力増強にも気を配り、実際に対策を打てる人物が、経営者としてふさわしいのです。

3.おわりに
 考えてみれば、組織のリスク対応力(リスクセンサー機能、リスクコントロール機能)は、全従業員が積極的に関与しなければ大きくなりません。他方、従業員の教育や学習も、やらされているだけでなく、従業員自ら積極的に取り組まなければ、効果がありません。
 このように、リスク対応力の問題と従業員の教育や学習の問題は、非常に重なるのですが、この「実践共同体」の3つのポイントを確認する中で、そのことが再確認されたのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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