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経営組織論と『経営の技法』#185

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ③強制的同型化
 一方、制度的同型化には強制的、規範的、模倣的の3つのタイプがあります。強制的同型化とは、自分たちが依存する他の組織や社会全体からの文化的期待などによって生ずる公式、あるいは非公式の圧力によって同型化されることをいいます。
 たとえば、法律や規制によって政府は、組織に対して同一の組織構造や手続きを用意するように圧力をかけることがあります。あるいは、世論も同じように組織に圧力をかけることがあります。法律で最低賃金が定められていますが、これによって企業組織はこれを下回る賃金で人を雇うことはできなくなっています。また、親会社が子会社に自分たちに準じるような手続きの方法をとるように圧力をかけるケースも、この強制的同型化といえます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』188頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 今回は、ガバナンスから検討しましょう。
 投資家である株主から経営者を見た場合、「所有と経営の分離」を構造的に確立するのが会社法です。そこでは、株主が経営者に対して口出しできる場面が限定されている代わりに、その限られた口出しする場面では、株主の利益を守るためのさまざまな制度が設けられています。例えば、公認会計士による会計監査は、株主が経営者をコントロールするツールの中で、歴史的に最も古いツールの1つですが、このようなガバナンス体制が、法律によって強制されます。
 投資家である株主と経営者の関係は、利害対立が潜在的に存在する関係です。けれども「儲ける」という共通の目標の下で、この利害対立を上手に解消したり、上手にガバナンスのツールとして活用したりする大掛かりな仕組みが、会社法です。
 このことから、ガバナンス上の仕組みは、強制的同型化が中心となり、その骨格が組みあがっているのです。詳しくは、各国の会社法を勉強してみてください(日本の会社法だけでも大変ですが)。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 内部統制は、会社法上、経営者が自由に設計できるのが原則です。経営者をコントロールする、ガバナンス上の組織(監査役や社外取締役、独立取締役など)は、上記のとおり、潜在的に利害が対立する株主によって経営者をコントロールするためのツールですから、組織形態やプロセスが、その多くの部分で法的に強制されています。
 これに対して、会社組織は、経営者が「適切に」「儲ける」というミッションを果たすためのツールだからです。
 もちろん、従業員の生活や健康に関わる最低限のルールがあります(労働基準法、最賃法、労安法など)ので、それを前提に会社組織を作らなければなりません。
 けれども、それ以上に、たとえばどのような部門を設けるのかなどは、本来会社法の関わる問題ではなく、自由に設計されるはずです。
 ところが、業界によっては、たとえば消費者の健康や安全を確保したり、事業者の不正を防止したり、経営の健全性を確保したりするために、会社組織に一定の機能が要求されます。例えば医薬品では、臨床検査など様々な検査で合格することが製品販売のために必要ですから、そのような機能が組織上当然必要になってきます。
 このように、同じような組織上の機能であっても、内部統制に関する機能は、会社法のように画一的なルールではなく、業界などの「組織フィールド」(#184参照)ごとに共通のルールが設けられる場合が多くなります。より市場の特徴や個性に近い「同型化」が進むのです。

3.おわりに
 競争的同型化(#184)が、同型化の初期的な段階と言われましたが、強制的同型化が起こるためには、同じ業界内で同一のルールが強制される環境が必要です。単に、同業者の数が増えた、と言うだけでなく、そこに共通のビジネスモデルがあり、しかもそれを強制できるだけの正当性や権限が必要となります。
 このように、強制的同型化、という概念は、会社組織のあり方が、どのような環境下で外的な影響を受けるのかを考えるヒントとして、活用できます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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