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経営の技法 #66

7-8 企業保険の活用④(国際企業保険)
 国際企業保険は、特に国を跨ぐ事業に関して、有用である。前問で検討したリスクに対し、国際企業保険がどのように役立つ(リスクの発見、リスクコントロール)のかを検討する。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、各国の規制の違いを考慮すれば、本来、事業会社がそれぞれの国で保険会社を見つけ、交渉し、保険を手配すべきことになりますが、一括管理できるようなサービスがある、と説明しています。
 第2に、1つ目のサービスとして、各国の規制の違いがまとめられたデータベースを説明しています。
 第3に、2つ目のサービスとして、現地の保険でカバーできない部分を上乗せしてカバーする方法を説明しています。
 第4に、3つ目のサービスとして、複数の国の保険を本社で一括管理する方法を説明しています。
 第5に、製造業向けのサービスですが、各国の工場のリスクの内容や程度を専門の技術者ネットワークが調査する「リスクエンジニアリング」サービスを説明しています。
 第6に、保険会社に全て丸投げするのではなく、事業会社が自身のリスクを把握することの重要性を説明しています。

2.保険の限界
 丸投げしてはいけない、というコメントは、どういう意味でしょうか。
 それは、保険は事業リスクをゼロにできない、という限界の存在です。
 例えば、食器洗い機を買って、最初にがっかりするのは、頑固な汚れが落ちずに残ることでしょう。なんだ、食器洗い機は大したこと無い、と思ってしまいます。
 けれども、業務用の強力な食器洗い機ですら、軽く手で汚れを落とした食器を洗っています。手間は残りますが、熱湯で洗い流すので殺菌効果もあり、仕上げとして見ればきれいに仕上がるので、最初からこの程度の機能、と限界を知って食器洗い機を使えば、それはそれで便利です。
 例えば、数年前のタイの洪水の後、多くの日本企業が保険の対象外であることに気付き、慌てて資金繰りに走り回った、と言われています。水害が最初からカバーされていなかったり、免責対象だったりすることを知っていれば、保険でカバーできない事態への対応も、ある程度はできていたはずです。そこまで慌てなくても、冷静に対応できました。
 ところが、保険会社に保険を丸投げすると、保険会社がちゃんとリスクを全て処理してくれると勘違いしがちです。食器洗い機の性能を自分自身で確認し、その限界を知ったうえで購入するのと同じように、保険の限界を知ったうえで、保険を手配すべきなのです。

3.おわりに
 特に国際企業保険の場合には、国ごとの規制の違いを克服しなければいけません。
 けれども、外国の政府が決める問題が多く、その全てを保険だけで克服することはできません。限界を知りつつ、どの範囲のリスクは自分自身で負わなければならないのか、認識したうえで経営判断を行うべきなのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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