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経営組織論と『経営の技法』#190

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ②組織形態と組織慣性
 組織エコロジー論では、組織が環境に応じて簡単に組織形態を変えられない状況を組織慣性という点から説明します。組織慣性とは、組織自身を変化させる能力が低く、生まれながらに持つ「組織形態」という特性は、簡単に変えられないことを指します。この組織形態とは、単に組織の構造だけを指すのではなく、行動パターンやその組織を特徴づける価値観なども含むものです。
 たとえば、病院には総合病院、個人病院、あるいはガン専門や小児医療専門などの特定病院があります。また、大学には総合大学、工業や商業に特化した単科大学があります。これらの病院や大学は同じ病院または大学であっても、行動のパターンや考え方、価値観が異なります。また、より細かい識別の仕方もあるかもしれませんが、これらの違いが組織形態の違いと考えます。
 最も一般的な組織形態の違いは、スペシャリストとジェネラリストの違いです。特定病院と総合病院、単科大学と総合大学、あるいは軽自動車を中心に製造する自動車メーカーと軽自動車から大型車まで製造する自動車メーカーなどが、このスペシャリストとジェネラリストの違いといえるでしょう。
 一般には、環境が不確実なときには多様性を持つジェネラリストの組織のほうが生き残りやすく、スペシャリストは環境の変化に強くないといわれます。つまり、スペシャリストは安定的な環境において強いと考えられるのです。しかし、不安定であっても頻繁に変化するような環境には適応するといわれます。これは変化の期間が短いので、自分たちに不利な環境であっても、それを乗り越えるまで我慢することが可能になるからです。
 先に述べたように、組織エコロジー論では、このような組織形態を組織は環境において、簡単に変えることができないと考えています。それは組織慣性があるからです。では、なぜ組織慣性が生まれるのでしょうか。その理由には内的制約と外的制約があります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』191~192頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から見た場合、会社組織がどのような形態か、そしてそれが環境に対応しやすいかどうか、という点は、会社組織やプロセスを設計するうえで考慮しなければならない重要な要素です。
 組織形態が違えば、似ていても、リスクの種類や対応方法が変わります。本文の例で、総合病院の場合と個人病院の場合では、同じように種々雑多な病気を取り扱う場合であっても、専門性の高い病気の患者が集まりやすい前者では、専門性が求められますが、後者の場合には、限られた情報で適切な初動対応ができる能力が求められます。
 また、組織慣性が違えば、環境変化への対応可能性が変わります。組織慣性の低い組織は、柔軟に環境変化に対応できる可能性が高く、むしろ環境への対応はチャンスの創出にもつながるでしょうから、環境への対応は積極的な面も出てきます。他方、組織慣性の高い組織は、環境変化に対応できない可能性が高く、環境変化によって事業継続できなくなるような最悪の事態も考えておかなければならないかもしれません(前回#189参照)。
 このように、組織形態と組織慣性という概念は、リスク管理上も重要な視点を与えてくれます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者が構築すべき組織は、経営戦略によって異なってきますので、組織形態も組織慣性も、共に変わりうるものです。それぞれについて、どれか1つだけが正しい、ということではありません。
 そうすると、経営者にガバナンスを効かせるべき株主の立場から見た場合、結果的にその時点での組織形態や組織慣性が環境に合致しているかどうか、という静的な観点だけでなく、環境への対応が常に模索されているかどうか、という動的な観点からも検証し、ガバナンスを効かせていくことが重要になります。

3.おわりに
 次回は、このうちの組織慣性について、少し踏み込んで検討します。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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