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松下幸之助と『経営の技法』#267

11/8 人の働きを邪魔しない

~人間は本来、働きたいもの。だからこそ、懸命に働く人の邪魔をしてはならない。~

 人間というものは、もともと働きたい、人のために役立ちたいという気持ちをもっているものです。「君は、仕事をせんで遊んでおったらいい」と言われたら、一時的には喜ぶ人もあるでしょうが、時間がたてば、大抵は困ってきます。そういう人間本来の性質を思う時、私は部下に大いに働いてもらうコツの1つは、部下が働こうとするのを、邪魔しないようにするということだと思います。もともと働こうと思っているのに、それに水をさすようなことを言われれば、部下としては面白くありません。“今日一日、休んでやろうか”といったことになってしまいます。
 私は、社員の人たちが一所懸命働いているのを、できる限り邪魔しないよう心がけてきました。しかし、それでは注意も何もしないのかというと、そうではありません。責任者として言わなければならないことは、ちゃんと言うように努めてきましたが、その際に、働くのを邪魔するような言い方はしないように気をつけたわけです。よく、「あの人のもとだと、何んとなしに働きやすい」とか、「あの人は自分をよく理解してくれる」といったことが言われますが、それは結局、邪魔をしないからだと思います。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 注意すべきことを注意しつつ、部下の邪魔をしない、すなわち、「働こうと思っているのに、それに水をさす」言い方をしない、というのは、どのような注意の仕方でしょうか。
 考えられる1つの類型は、パワハラに該当しないような注意の仕方でしょう。すなわち、厚労省のパワハラに関する指針として、6つの行為類型が例示されていますが、そこで例示されたような、例えば人格否定のような注意の仕方は、「水をさす」1つの典型例と言えるでしょう。
 さらに、例えば子供が、これから歯を磨こうと洗面所に向かっている時に、「歯を磨け」と指示すると、子供はやる気を無くしたり、反抗したりします。「今、磨こうとしてたところだよ!」と、親に反抗したり、反抗されたり、ということは、誰でも経験していることでしょう。
 このような気持ちを抱かせることも、「水をさす」具体例と言えそうです。
 このようなことを、大人の仕事に関する問題として見た場合には、①ある従業員に、具体的な仕事とその期限を指示したが、進捗報告がないので、その期限を守れそうかどうか質問し、進捗報告するように注意したところ、他の仕事の期限も考慮して仕事の順番を自分なりに調整していた、期限さえ守れば良いと思い、進捗報告しなかった、と言い訳をする場合や、②ある管理職者に、部門の管理を任せ、予算を与え、目標を共有したが、年度も後半になるのに予算が殆ど消化されず、具体的に何が行われているのかわからないので、状況をこまめに報告するように注意したところ、これから予算を集中的に投入するプランを実行するつもりだった、状況報告については、年度後半のプランに集中するという大まかな方向性は年頭に説明し、了解してくれていたので、報告する必要がないと思っていた、と言い訳する場合等がイメージできるでしょう。
 結局、パワハラに該当するような酷い言い方さえしなければ、適切な報告をしない部下を注意することでやる気が無くなってしまう場合など、注意を受ける従業員側に問題がある場合が多いように思われます。
 けれども、それでも、このような感情的な行き違いをわざわざ生じさせる必要はありません。任された以上、適切に進捗状況を報告すべきだ、と言われても、人によって適切な時期がいつなのか、評価が異なってくるところですから、指示した側とされた側で認識のずれが生じ、それによってお互いにストレスが溜まってしまう事態が生じやすいポイントです。その状況で、指示を出す側としては、①②いずれについても、■■頃には進捗状況を報告するように、予め指示しておけば、簡単にそのようなストレスを回避することができます。部下の教育だから、そこまで指示しない、という考えもありますが、こんな簡単なことで部下のやる気に「水をさす」こともない、という考えもあります。
 以上のようなことが、松下幸之助氏の言う「水をさす」事態への配慮の具体的な例であると考えられます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質としては、命令だけで従業員を動かすのではなく、従業員のやる気を上手に引き出し(=水をささず)、こまごまとした指示や注意をしなくても組織が活発に活動するように、会社組織を作り上げ、社風や企業風土を築き上げていくという資質も、非常に有意義であり、価値のある資質である、ということは、容易に理解できます。
 そして、そのような社風や企業風土は、一朝一夕にできあがるものではなく、「水をささない」ような配慮を日頃から積み重ねていくような、経営者自身による日常的な努力が必要なことです。
 したがって、経営者には、このような継続的な努力を厭わない、という人柄も、重要な資質となるのです。

3.おわりに
 全ての人間が、働きたいという欲求を持っているかどうかについては、疑わしい面もありますが、ここでのポイントはそこではありません。上記のように、「水をさす」という言葉だけに注目するのではなく、その前提となる「やる気」の問題と組み合わせてみてみると、ここでの松下幸之助氏の言葉は、「やる気」を引き出すことは意外と容易だが、「水をささない」ことは意外と難しい、という意味に解釈することも可能なように思われます。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

労務トラブル表面



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Seven Rich法律事務所。日米の弁護士、証券アナリスト、経営コンサルタント。約20年の社内弁護士経験。 ブログ:https://ameblo.jp/wkwk224-vpvp 社労士向けの【芦原労判ゼミ】はichiro.ashihara@nifty.comまで。
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