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経営の技法 #65

7-7 企業保険の活用③(保険規制の多様性とリスク)
 国際企業保険は、特に国を跨ぐ事業に関して、有用である。その効用を検討する前に、企業保険のルールが国によってどのように異なり、それによって事業会社にどのようなリスクがあるのか、リスクの所在と背景を概観する。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、国際企業保険は、それぞれの国のルールに合致した保険の手配が必要であることを確認しています。
 第2に、「付保規制」と言われる問題を説明しています。すなわち、例えば日本の保険業法は日本で保険事業の免許を受けている保険会社しか保険を販売できないとしています。そこで、同様の規制のある国にある工場について、日本で保険を掛けることは、その国の規制に違反してしまうのです。
 第3に、「保険料税」と言われる問題を説明しています。すなわち、保険料を払う会社が税金を納めなければならない国があり、それを支払わなければ、その国で脱税していることになるのです。
 第4に、「現地での損害調査可能性」という問題を説明しています。これは、損害事故の調査を無免許の会社が行うことができない、という規制で、実際に保険事故が発生したときの対応に苦慮してしまいます。
 第5に、「保険金の送金規制」の問題を説明しています。これは、海外から保険金を送金できない、という規制で、実際に保険事故が発生したときの対応に苦慮してしまいます。
 第6に、日本企業にとって日本の保険会社との保険契約一本で海外の工場や事業全てをカバーできることはとても簡単で便利ですが、その結果、ここで指摘したような規制に違反し、かえって不利益を受けることもあるので、各国の規制は慎重に確認すべきである、と説明しています。

2.世界の規制
 この規制の違いは、今後減っていくのでしょうか。
 たしかに、次のテーマで指摘するとおり、EU域内では自由に事業が行えますので、その一環として保険事業も、EUの域内に保険事業の免許を有する保険会社があれば、自由に保険を販売できます。
 けれども、ここで見たとおり保険に影響を与える規制は、保険事業法に関する規制だけでなく、保険料税に関する税法や、保険金送金に関する為替法など、多岐に亘ります。しかも、ガットなどの国際的な通商規制の枠組みを揺るがすような、自国中心の規制が増えつつあります。税法や為替法はその中でも特に自国産業や自国経済保護のために政治的に利用されることの多い領域です。
 さらに、これらの規制はすべてが法律レベルでわかりやすいルールになっているとは限らず、行政庁での通達や解釈運用レベルで変化する可能性もあります。
 このように、各国の規制を適切に把握するためにも、保険会社の世界的なネットワークが重要となるのです。

3.おわりに
 私自身、ある国の規制を見せられ、規制上問題が無いかどうか質問されたことが何度かあります。
 その際、せいぜいできることは、現地の法律事務所を見つけ出して、適切に検討してもらうための質問事項を準備する程度です。とても、自分自身がその国の法律の解釈などできません(せいぜい、このように解釈される可能性がある、とコメントするだけ)。また、監督官庁による通達や解釈運用を調べ上げることも困難です。
 さらに、これも実際にあったことですが、ある国の規制の解釈について、保険会社側の入手した法律意見書と、保険ブローカーが入手した法律意見書の内容が、同じ条文の解釈なのに逆の結論になっていたこともあります。結局、両方の事務所に同じ質問をして再確認したところ、保険会社側の入手した法律意見書の方が合理的、ということになりました。
 このように、海外の規制に違反しない保険の手配は、意外と面倒な場合があるのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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