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経営組織論と『経営の技法』#216

CHAPTER 9.3:キャリアの発達論 ①概観
 組織において組織のメンバーが成長し、高い成果を出してもらうことは、組織の力を大きくするうえで重要な点です。しかし、人は組織生活の中で起こるさまざまなつまずきによって、モティベーションを低下させたり、成長を鈍くさせたりしてしまいます。たとえば、プ ロスポーツ選手でも、ケガによって将来を嘱望されながらも十分に活躍できずに、その世界を去っていく人はいます。
(図9-3)キャリア発達モデル

図9-3

 図9-3は、仕事における年齢と成果の一般的な関係を示したものです。年齢は人によって異なってきますが、仕事を始めて年齢を重ねるに従って、仕事の成果は上がっていきます。しかしながら、中年期を迎えるとその成果には違いが出てきます。ある人はさらに成長し続け能力を上げ、成果を出し続け、ある人はそれを維持するにとどまります。また、ある人は成長が停滞し、そのまま成果が下降していくかもしれません。
 もちろん能力が落ち、成果が出せなければ若い人にどんどん代わっていくという考え方もありますが、組織生活の最後まで成長をしてもらおうと考えるのであれば、組織やそこで働く個人は、キャリア上でのつまずきをなくしていくことが必要です。またそもそも、仕事をする人々、特に組織の中でキャリアを発展させていく人々は、どのように自身のキャリアを歩んでいくのでしょうか。ここでは、キャリアの段階モデルと呼ばれるモデルから考えていくことにします。
 キャリアの発達モデルでは、この図にあるように、キャリアが年齢ごとに段階を踏んでいくと考えています。そしてその段階ごとにさまざまなキャリア上の課題があると考えます。この段階は大きく7つに分かれます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』209~210頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで示された例は、いわゆる終身雇用制の日本の大企業をモデルにしているようです。
 すると、たとえば外資系企業に転職する場合には、状況が全く違うので、本文のモデルは全く参考にならないのか、と思うかもしれません。
 たしかに、特に専門家として中途採用されたような場合には、即戦力として採用されますから、入社直後から存在感を示さなければなりません。後に見るように、参入、確立、思索などに、ぜいたくに時間をかけて自分の成長を待ってもらうことなど期待できません。のんびり時間をかけていると、直ちに「危機」に陥ってしまいます。
 けれども、じっくりと時間をかけたキャリアの様子を理解しておくことは、様々な場面があることを分析するのに好都合です。時間を追って分析するばかりでなく、たとえば上記のように、即戦力として外資系企業に転職した場合、置かれた状況は、参入、確立、思索、危機などの諸要素が入り混じっている状況とみることができるでしょうが、そのうち、どの要素の割合が大きいのだろうか、というように分析する際のツールになるでしょう。
 さらに、同じ会社にずっといることが前提となっているモデルと異なり、転職を繰り返しながらキャリアアップを図るモデルの場合にも、ここで検討する諸要素の組み合わせで分析できそうです。
 このように、基本となるモデルが実際のビジネスモデルとキャリアが異なっていても、そのモデルで得た分析ツールは十分有用です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、会社組織は経営者にとって、そのミッションである、「適切に」「儲ける」を果たすためのツールです。自分のミッションだけを考えれば、人を育てるようなまどろっこしいことをせずに、一方で、優秀な即戦力を高い報酬で雇い入れるとともに、他方で、疲れて元気が無くなったり、時代遅れになったりして会社の求める能力に足りなくなった従業員と、常に入れ替えていくような方法が合理的に見えてきます。
 けれども、現実に会社がその時々に必要となる様々な能力を有する即戦力を簡単に獲得することは、容易ではありません。一時期良くても、労働市場が常に買い手市場ではなく、特定のスキルや経験のある者に対する会社側のニーズが重なってしまうこともあるなど、安定的に欲しい人材が自由に手に入るという前提を設定することは、楽観的過ぎるでしょう。
 さらに、中途で即戦力として従業員を採用する場合でも、その従業員自身は、転職によって新たな経験や能力を獲得し、より高いキャリアを目指すのが普通です。単に、言われた仕事だけをして、少しでも高い給与をもらえれば良い、という目の前の処遇だけで転職を考えるのではなく、程度の差こそあれ、特に転職を繰り返す人ほど、将来のことも考えるようになってきます。
 そうすると、より優秀な人材を確保できる確率を高めようとするのであれば、新卒者を一から育てることを考えない場合であっても、それなりの成長過程を示せることが、重要になってきます。

3.おわりに
 会社が従業員の成長を助けることは、従業員の会社に対するロイヤリティを高めることにもなり、会社組織のコアな部分を強くすることにもつながります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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