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小説『アテネ・ガーディアン』7 狙われたアテナ (2)


「見城さん、私から離れないで!?」
 黒煙を吐き続けるランドクルーザーの篝火から、レンと舞は闇を求めて逃げ出した。
 期を逃さず撃ち返すレンに、嵐のような威嚇射撃が返ってくる。レンを狙えば、始終離れない舞に当たる。明らかにそれを恐れて、追っ手は彼等を追い詰めるためだけに銃撃を繰り返していた。野兎でも狩るように。
 最低でも十人は居るだろうチンピラたちは、次第に囲いを狭めていた。だがほとんどがまともな襲撃の訓練など受けていない雑魚であると、レンは読んだ。
 迂闊にも、クルーザーの燃え続ける炎を背後にした一人の若い男の腕を、レンは正確に打ち抜いてやった。
 呻き声を上げ、若者が大声で吐き出した悪態に、レンは耳を疑った。
 訛りの強いスペイン語。このギリシャの地で。
 レンの浅い知識と照らしても、地中海続きのスペイン本土のアクセントとは違った。間違いなく、大西洋を越え南米から来た誘拐犯。
 ……どういうことだ……?
 ターゲットの少女も、レンと同じ疑問を抱いたらしい。レンを見上げる。その目に、恐れは無い。
「……見城さん……」
 賢明にも、舞はハイヒールを脱ぎ捨てていた。ドレスの裾を腕にからめ、セットが乱れ始めた長い髪を解く。
「しばらく、我慢して下さい……」
 気丈さに、レンは息を飲みそれだけ告げた。
「あそこに。私について来て下さい。ほとんど崩れているけど、石造りの遺跡があります。
 まだ楯にできるくらいは残っているわ」
 暗闇に目が慣れたといっても、あるのは星明かりくらいだった。だが、舞は前方の一角を指し、足を踏み出す。
 背後からは、無用心なまでに瓦礫を蹴散らし男たちが近付いている。レンは拳銃をホルスターに戻し、舞を追いかけ、彼女を抱え上げた。
「……この方が速い」
 言い訳をするレンの背を、守るように彼女は腕を回した。その瞬間、レンの視界が変化する。闇に沈んでいたあらゆるものが、明確に見分けられる現実にレンは直面した。
 視えているのではなく、動物の持つ嗅覚のような、鋭敏な感覚。直感が視界を明晰にしていた。
 真っ直ぐに、舞が教える遺跡へと走り出す。身体を隠すために、朽ち掛けた石壁目指して。

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