ねこのウラン
実家には、ねこのウランがいる。10年以上前にやってきた。
末の妹の義兄が、名古屋の栄の路地裏で鳴いていたのを保護したそうで、貰い手が見つからず、まわりまわって、わたしの母の元へやってきたのだ。
手のひらに乗るくらいの大きさだった。愛ねこを亡くして、元気がなかった母は、「もう、ねこは飼うまい」と思っていたそうだが、これも何かの縁だろうと受け入れた。
ウランはべっ甲ねこ※1のメス。体重は3キロほどで、小柄。ウランという名は、わたしの末の妹が、アトムの妹のようにたくましく成長してほしいと願ってつけた名前だ。ありがたいことに、名前通りに育ってくれた。
ウランは、アレルギーを持っているため、専用のフードを食べている。湿疹が出やすい体質だ。時々、ヤモリを食べてしまい、湿疹を悪化させる。
マッサージが大好きで、わたしが行くと、わたしの真正面に座って、じっと見上げてくる。撫でろという、オーラが出ている。
ウランを見つめながら、ひたい、耳の付け根からあごの下、ひげのあたりの細かな部分まで、ゆっくりとしっかり撫でる。顔が終わったら、首筋も丁寧に撫でる。このとき、目を離したり、母とおしゃべりをして、撫で方に隙ができたら、すぐにひっかかれるか、噛まれる。真剣に取り組まねばならない。ねこパンチが終了の合図だ。
満足したら、サッといなくなる。でも、マッサージはわたしにしてもらうと決めているようなので、悪い気はしない。させていただいている、という感じだろうか。
ウランを病院に連れていくのもわたしの役目だ。ウランが側にいるときに、母と何気なく、「明日病院に」という話になった。
次の日、ウランは雲隠れ。見つからない。仕方がないから、病院をあきらめる。すると、ウランが現れる。そんなことが何回も続いた。言葉がわかるのか、それとも雰囲気から察しているのか。前々から、「ウラン」という自分の名前や家族の名前はわかっているようだ。よく人の話をきいているような気もする。母の言葉には、あいづちのような返事もする。
試してみよう。何日か経ってから、病院のことはメールでやりとりし、ウランの前では話さなかった。翌日、ウランは無事に捕まり、きちんと病院に行くことができた。病院に行けば、注射でアレルギー症状が軽くなり、湿疹の痒みも減るので、身体が楽になるようだ。それでも、やはり病院には行きたくないらしい。病院に連れて行ったわたしは、しばらく嫌われることになる。
最近、ウランはちゅ~る※2を食べるようになった。薬を飲むために始めたちゅーるだが、薬が終了しても、食べ続けている。とてもとても美味しいらしい。朝夕、フードの上にちゅ~る一袋の半分をかけてもらい、食べる。毛艶がよくなって、フードもよく食べるようになった。水もよく飲む。いいことづくしだ。ただ、食べ過ぎるとまた湿疹が出てくる。
ある日の夕方のこと。ウランにちゅ~るを催促された。いつもはわたしに全く甘えないのに、顔をすりすりさせてくる。ずっと、足元から離れない。わたしにも、こんなに甘えてくるようになったのか、と感動した。まだ、フードとちゅーるをもらっていないのかなと思い、用意する。勢いよく食べる姿に驚きつつ、眺めていると、母が「もう夕方の分はやったのに」と言う。
ウランには、かなわないなぁと思う。
※1 べっ甲ねこ…さびねことも言われる。海外では幸運を招く珍しい猫とされているらしい。
※2 ちゅ~る…国内初のスティックタイプの液状猫用おやつ「CIAO(ちゃお)ちゅ~る」のこと。
11/15
追記…ヤモリをイモリと、間違えて書いておりましたので直しました。