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「Diner ダイナー」という名の大味カラフル外国ゼリー

新作映画が少しずつ各地の映画館で公開され始め、徐々にですが自分の日常的な映画ライフが復元されてきた気がします。今年はまだ映画館で6本しか見られていないので、ウイルス感染に最大限気をつけながら新作を楽しんでいきたいです。

そんな波乱尽くしの2020年、最初に自分が観た映画は「カイジ ファイナルゲーム」でした。半ばギャグに近い藤原竜也さんの芝居が個人的に好きなのでシリーズ前2作と同じくらいのクオリティのストーリーであればいいかな、くらいの軽い気持ちでTOHOシネマズに足を運んだのですが、今のところ2020年のワーストです。(笑)  これだったらやる必要ないだろ…と考えちゃう程度にはヒドイ作品でしたね。犯罪的というほどではないですが。

そんな感じで藤原竜也さんの主演映画はひと通り確認している自分ですが、高確率で名作が揃う中、「カイジ ファイナルゲーム」にはまだ及びませんがイマイチな出来だった作品があります。それが今回の記事で紹介していく、「Diner ダイナー」です。元殺し屋の料理人が一人の人生どん底女を拾ったことで始まるバイオレンスサスペンス映画、面白くなる要素はいくらでもありそうですが、果たしてどういった内容によってイマイチになってしまったのでしょうか。
今回は「Diner ダイナー」について、原作未読なので今までのような小説版との比較という面からの考察は全くできない自分が、鑑賞して思ったことを色々と感想としてまとめていきたいと思います。

ロワイアル

そこは、命がゴミのように扱われる、殺し屋専用のダイナー<食堂>。店主は、元殺し屋で天才シェフのボンベロ(藤原竜也)。

「俺は、ここの王だ。砂糖の一粒まで俺に従う。」

日給30万の怪しいアルバイトに手を出したオオバカナコ(玉城ティナ)は、ウェイトレスとして売られてしまう。次々と店にやってくる殺し屋たち。オーダーは極上の料理か、殺し合いか…
店主、ウェイトレス、殺し屋たち。新たな殺し合いが今、始まる!
(公式HPより抜粋)

インパクトと芸術性のある「画」を求めて

まずはこの映画の原作と主要スタッフ、メインのキャストについて触れていきたいと思います。

原作は2009年に平山夢明さんが発表した「ダイナー」という小説です。
優れた冒険小説(!?)に贈られる数々の賞を獲得しており、そのエリアでは有名みたいですが、自分は映画を観るまで全く存在を知りませんでした。
これに関しては作者の平山さんが元々ホラー小説を、つまり自分の一番敬遠しているエリアを得意としているという事もあり、平山さんの作品についても今回の鑑賞が初見でした。この方はホラー映画の評論なども行っているらしく、マジもんのホラーマニアっぽいですね。

そんな冒険とホラーが入り混じったバイオレンスサスペンスを映像化するというプロジェクトの長を務めたのが、監督である蜷川実花さんです。
かの有名演出家・蜷川幸雄さんの実の娘であり、フォトグラファーとして精力的に活動する傍ら、プロモーションビデオや映画の監督業も頻繁に行っている、日本で最も有名な女性芸術家の一人と言ってもいいでしょう。象徴的な作品としてはAKB48の人気曲である「ヘビーローテーション」のPV、映画だと沢尻エリカ容疑者が脱ぎまくって性行為シーンに臨んだ事で大きく話題になった「ヘルタースケルター」が挙げられます。
原色をこれでもかと言わんばかりに散りばめた画面上で、尋常ではない衝撃を与えるような振り切った立ち回りを役者さんに要求していく、それが彼女の作品の特徴です。これは一瞬の煌めきや情動を「画」にしてシャッターで閉じ込めるという、フォトグラファー畑出身という彼女の経歴も強く関係していますね。
しかし残念ながら、彼女のフォトグラファー的な表現方式が露骨に出ている映像作品群はあまり評価されておらず、本作でも彼女の悪い癖はいたる所に出まくっています。やたら花びら舞い散らしやがっています。もしかしたら一つ一つのカットを切り取ってハウススタジオに「絵」として飾ればとても美しいアイテムになるのかもしれませんが、そのシーン全体でみると見せ方や演出、脚本までもが粗雑中の粗雑、なんて事も一度や二度ではないんですよね。しかもデビュー作の「さくらん」からずーっと同じような方式を杓子定規に使っているのも芸術性の浅さを感じてしまいます。どこまで行ってもその瞬間にギラついた色彩とインパクトを足して味付けをする蜷川実花でしかない、それが彼女の作品なのです。

続いてはキャストです。
先述した通り、本作の座長を務めたのは藤原竜也さん「カイジ」シリーズ「DEATH NOTE」シリーズ「22年目の告白-私が殺人犯です-」など邦画のヒット作に数多く出演している人気俳優です。
番宣の際に本人が「クズの役しか来なくなった」と言ってしまうほど、彼の演じるキャラは性格に難があったり、デッドオアアライブの形勢を命がけでひっくり返す役の場合が多いです。(笑)  そして、それらの役柄に相応しい、雄叫びやオーバーな立ち回りを織り交ぜたインパクトのある演技で各作品を盛り上げています。自分もこの、上手いんだかバリエーションが無いんだか分からない彼の演技がとにかく大好きです。
本作でも、元殺し屋の凄腕シェフというこれまたクセ強めの人物を持ち前の藤原節でしっかりと演じています。恐らく、この作品がもっと売れていたら「ものまねグランプリ」で誰かが『俺はぁぁぁ! ここのぉぉぉ! 王だ!』をやっていたと思います。

ヒロインのオオバカナコを演じたのは玉城ティナさん。雑誌「ViVi」の専属モデルとしてデビューした後、「暗黒女子」「わたしに××しなさい!」などの映画で主要キャストを演じるなど、女優としても精力的に活動されている方です。個人的にはRADWIMPSの「光」のPVに出ていた印象が特に強いですね。「お人形さんみたい」が一番似合う若手女優であるのと同時に、写真の被写体としてかなり優れた部類のモデルさんだと思います。
本作では「身寄りのない孤独な女子」であり、「命からがらボンベロに拾われてウエイトレスをさせられる立場」でもある役柄でしたが、良い意味で現実味の無い可愛さを含んだウエイトレス姿の「画」が最高でした。それ以外の確かな感想が特に出てきません。(笑)  なぜこの可愛さの伸びしろのある女子が孤独になるんでしょうか、この映画の劇中世界は厳しいですね。

その他、傷跡だらけの殺し屋・スキン役に窪田正孝さん、見た目は子供で頭脳はシリアルキラーのサイコパス・キッド役に本郷奏多さん、日本一男装が似合う女殺し屋・無礼図役に真矢ミキさん、その他にも、武田真治さん、斎藤工さん、小栗旬さん、土屋アンナさん、奥田瑛二さんなど、かなり豪華なキャストが勢揃いしています。この演者の華々しさも蜷川監督作品の特徴の一つと言えるでしょうね。おそらく想像以上に広々としたコネクションを持っていると思われます。

狂い咲くキャラクターの好演でも隠し切れない本筋の味の薄さ

豪華なキャスト陣を起用しただけあって、本作に登場する数々の殺し屋キャラクターはどれも個性大爆発の非現実的な連中ばかりなのでそれを見るだけでもまあまあ楽しめます。
自分が特にお気に入りなのは窪田さん演じるスキンと斎藤さん演じるカウボーイですね。スキンは殺し屋でありながらも、端正な顔立ちに似合う繊細さとカナコを気遣える優しさを持っていて、でもやっぱり最後は常軌を逸した様子で辺り構わず銃を乱射してその狂気を燃え上がらせる… すごく印象に残る良キャラでした。
カウボーイも、カナコが最初に応募した「即金30万円貰えるバイト」にふさわしい程度のたっぷりとした怪しさを纏い、海外版「ONE PIECE」でサンジが持ってそうなアメと微妙にヘタクソな英語を味方にして、気付いた時には出オチ要員には最高の待遇とも言える無残な最期を迎えているという、本筋にほぼ関係ないながらも蜷川監督的インパクトは堅実に残すプロフェッショナルぶりを見せていました。

カウボーイ

ただ本作のボンベロを除いた殺し屋キャラは、カウボーイだけではなくほぼ全員が本筋との絡みが薄いというのが惜しいですね。
折角うるさすぎるくらいのクセ強めチームを登場させているんだから、もう少しボンベロとカナコのドラマの中に強い意味を持って存在してほしかったと思いました。自分の好きなスキンも結局はボンベロとカナコの関係をより深くするための舞台装置にしかなってないですからね。強いて言えば、この映画の中で一番美味しそうな料理である「スフレ」が光を浴びるために彼がいたのかもしれないですけど…。

殺し屋組織のトップであるデルモニコの死の真相に迫るちょっとしたミステリーパートなんて更に酷いです。このパートでは組織の四天王が一応メイン扱いとして登場するんですが、小栗さん演じるマテバなんか会議のテーブルにつく前に瞬殺ですし、会議に参加した面々も真矢さん演じる無礼図以外はあんまり目立っていません。もっと言うと彼等を四天王たらしめる圧倒的な強さの描写がかなり不足しているように感じます。ぶっちゃけスキンの方が戦闘力ありそうでしたもん。スキンもスキンで、本当はマテバからの指示でデルモニコの事件について調査していた、なんていう設定が死んだ後に出てくるんですがそんな様子は一切見せませんでしたし、本作のこのミステリーパートに関しては全然緊張感も無く面白くなかったです。ただ、これがまだマシに見えるほど面白くない部分があるんですよね。

デルモニコ

後ろに飾られているのがデルモニコの肖像。ボンベロに向かって灰皿投げてきそうな見た目してますね。

最も酷かったのは終盤、ボンベロと無礼図の間で繰り広げられるバトルアクションの部分です。蜷川監督の経歴を見る限り、この分野に関しては恐らく初挑戦だったのである程度は仕方ないかもしれませんが、それにしても見せ方が拙過ぎました。意図の分からないスローモーションを使用する、銃撃戦を繰り広げているはずなのに弾が命中したかが非常に分かりづらいテンポもあまり心地良くなくノリにくい等々、ひたすらにしくじり続けている惨いアクションシーンでした。それまでは、花びらを血のメタファーとして表現したバイオレンスな場面をはじめとした蜷川監督らしさのある見せ方がしっかりと出来ていたのに、ここへ来てまさかの必要ない背伸びをしてしまうなんて本当に残念です。こんな「フェイス/オフ」もどきよりも作るべきものがあっただろ…

このように、本作ではバリエーション豊かな殺し屋が豪華キャストにより多く登場しますが、各々のキャラは良いんですが本筋とは関わらない上に思ったほど出番も多くなく、更にボンベロと彼らが絡むシーンは全体的に出来があまり良くありません。キャストに有名どころを揃えておきながら本筋との関わりを薄くさせているという点では以前にレビューした「マスカレード・ホテル」と似ていますが、本作はそれぞれのキャラが比較的濃くて単体で見てしまえば悪くない分「マスカレード・ホテル」の時より惜しい印象が一層強くなっています。もっと最恐最悪な彼らを積極的に本筋に絡ませてほしかったですね。

ボンベロとカナコ2人だけなら良かった

先程から「本筋」という言葉を何度も使っていますが、この映画のメインディッシュを務めている「本筋」のストーリーは、バイオレンスでもサスペンスでもなく実はボンベロとカナコのラブストーリーではないかと思います。

序盤、カナコはボンベロに「道具」として拾われて結果的に命こそ救われましたが、「皿の置き方一つで消されることもある」といういつ死んでもおかしくない過酷な状況で働かされるという命が救われたんだかよく分からない展開に追い込まれ、この時の2人はまさしく「王」と「奴隷」とも言える主従関係にありました。
しかし、「カイジ」を観た方ならご存じの通り、藤原竜也が生きる世界で「王」と「奴隷」が交わり合うと、大きな下剋上が生まれるのです。
カナコはボンベロが四天王用に保存していた貴重なお酒を隠し、自分が死んだらその居場所が分からなくなるという状況を作り上げることで、初めてボンベロの上に立ちます。この展開、カナコが単なる「奴隷」の立場から脱したというだけでなく、彼女が自発的にこの過酷な状況を打破するために行動をとることで「受け身ではなく能動的に生きる事」を実現し、ここで初めてカナコの命は救われたのかもしれないという希望が出てくるシーンでもあると感じました。ちなみに自分は社会人になってからは能動的な生き方ができている自信がありません。ウォーキング・デッドです。

この出来事をきっかけに、ボンベロはカナコへの接し方を変えざるを得なくなります。最初はお酒を見つけるための仕方無しな選択でしたが、カナコが彼の料理を素直に美味しいと評価した辺りから徐々に、彼女への対応の中に今までになかった優しさが芽生えてきます。この辺りは少女マンガにいそうな、「おもしれー女」って言いそうなイケメンが意図せずその女子に惹かれていく様に似ていますね。おもしれー男。
そしてお酒の本当の在り処が分かる頃にはもうボンベロにカナコを殺すという想いはこれっぽっちもなく、更にここまでの物語で「実はボンベロもどん底でボロボロだった頃にデルモニコに拾われ、この店に辿り着いた」というまさにカナコのような過去も明らかになっています。この時点で確信しました、こいつら絶対終盤でキスするじゃんと。

そして先述した問題のバトルシーン。ボンベロは多くの傷を負いながらも、カナコを死なせないために秘密の通路的な所から逃がそうとします。途中でカナコが作っていたハンバーガーとイチゴの絶妙に食い合わせが悪そうな料理はどうかと思いますが、この「自分たちの命を奪おうとする第三者から、身を挺してカナコを守る」というシーンそのものが、ボンベロによる「愛の告白」なんじゃないかと自分は思っています。
本作はカナコ以外の登場人物が全員殺し屋という特異な設定により、めちゃくちゃ命が軽い世界が描かれています。すぐに人が死にます。もっと言うと藤原竜也によってその世界の命が軽くなっている気がします。そして重要なのは、シェフとしての側面が目立っているボンベロも当然凄腕の殺し屋であり、普通なら命を軽く見て食材として扱うような人間だという事です。
そんなボンベロが、たとえ自分が「命が簡単に消されてしまうこの世界」の犠牲になったとしてもカナコの命だけは守りたい、そう考えているのがこの映画の終盤における展開です。特別な感情、この場合は「愛情」を抱いているからこそ取れた行動だと思います。そしてそれに応えるようにカナコも、1億2000万人が期待したキスでお返しをします。ノルマ達成、おめでとうございます。

この筋書きをラブストーリーと言わずにいられるでしょうか。「レオン」が日本で公開された時のコピーは「凶暴な純愛」でした。じゃあこれも絶対に「凶暴な純愛」だと思うんですよ。こんなギラギラ装飾だらけの映画と比較するなというジャン・レノ公式ファンクラブの声が聞こえてきそうですが、殺し屋が少女を拾って最後は彼女を生かすために離れるという、筋書きだけ見ればかなり似ているんですよ。
勝手に認定します、本作は「凶暴な純愛」を描いたラブストーリーであり、ボンベロとカナコだけのシーンが文句なしに一番良かったです。

最後のカラフルさだけは深く意味があった

この記事のタイトルに使われている「大味カラフル外国ゼリー」は、かつて「IPPONグランプリ」という番組にて千鳥の大悟さんが使ったフレーズです。本作の粗雑な作りと色味がとても豊富なところ、そして主人公がシェフなのでそれに関連した言葉をタイトルに使ったら記事自体の評価も上がるんじゃないかな~、と軽く考えた結果、このフレーズの存在を思い出して名付けました。

この記事の中で自分は、蜷川監督の原色を多用したカラフルな「画」の作りこみに対してあまり肯定的な評価をしていません。しかしラストだけは、カラフルな街並みのシーンを使って大正解だと思いました。
ラストでカナコはメキシコで自分の店を切り盛りしながら生活しているのですが、この場面で開催されているカラフルなお祭り、「007 スペクター」「リメンバー・ミー」を観た方ならご存知かと思いますが、このイベントは「死者の日」と呼ばれている祝祭で、日本でいうお盆に近い位置でありながらもお盆とは違って陽気に明るく祝うイベントです。そしてこの「死者の日」は、文字通り死んだ者たちの魂が戻る日ともされています。
本作のラストカット、一見カナコとボンベロが彼女が開いた店で再会を果たしたというだけのものに見えますが、この「死者の日」の詳細やボンベロがいつもの白い衣装ではなく黒装束に身を包んでいる点などを考えると…

この切ないラストカットまで、2人のラブストーリー要素に関してはやはり面白いんですが、正直全体的に見ると粗雑で欠点が目立つ映画と言わざるを得ないと思います。
しかしそれぞれの役者さんの狂った演技など、オススメできる要素も複数ありますので、宜しければ是非DVDなどでご覧になって下さい。

今回も長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。また次の記事でお会いしましょう。

トモロー

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