見出し画像

香水の香り

 匂いの記憶っていうのは記憶の深いところに刻み込まれるのかな。  

 それは俺が高校生の頃の話だ。俺は当時高校生で一人暮らしをしていた。理由は中学生の頃あまりにも出来が悪く地元の公立高校に入れなく、私立なら入れるということだったのだが、どうせ高い金払うなら家賃と学費、月1万円やるから東京に行ってこいということで一人暮らしを始めることになった。最初はラッキーめっちゃ自由じゃん位に思っていた。甘かったよ。

 月日が経ち、流石に月1万円で生活できる訳もなくバイトに明け暮れてた。昼飯時なんかはみんな弁当持ってきてたんだけど俺は弁当を買う金がなくて我慢してたよ。時々哀れに思った友人が親に頼んで作って貰った弁当を俺にくれてたっけ。

 あの頃の 生活は本当に廃んでたな。ガキのくせに酒浸りなの。ある夜公園で酒を1人飲んでたらなんか泣けてきてさ、こんな人生つまんねぇよ、なんでこんな思いしなきゃいけねぇんだよ、早く人生終んねぇかな、なんて考えてた。そして、その時唐突に香水の匂いがしてきて、こんな匂いこの公園してたっけな?なんて思ってたら、「泣いてるの?大丈夫だよ。」って女の子の声が聞こえたような気がしたんだ。周りを見渡してもそんな女の子いないんだよね。気のせいかな?なんて思ってたんだけど、その声に俺は、はっと気がついて何やってんだろって気持ちになりアパートに帰ったんだ。思うところがあり、次の日から学校に真面目に行き勉強もし、親に頼んで大学に行かしてもらい卒業し、就職し、結婚をして子供ができた。

 そしてこれは2年前の話なんだけど、上の娘4歳、下の男の子1歳の時に家族で台湾旅行に行ったんだ。歩き疲れて喫茶店の外テーブルでコーヒー飲んでた時に風が吹いて目に埃が入ったんだよね。目をこすってると娘が「泣いてるの?大丈夫だよ。」って言ってきて、あれこれなんだっけ?聞いたことあるけど思い出せない言葉って感じだった。そして、ホテルに戻り妻はディナーに行くためにシャワーを浴び俺は子供たちと遊んでいた。やがて、妻がシャワーから上がってきたら、ふわっと香水の匂いがしてきた。俺は「こんな香水持ってたっけ?」って言った。妻は「さっき買ったの見てなかったの?もう娘子のばかりみてるのね。」っと。その時俺は白昼夢を見たような気分になり、あぁこれあの時の匂いだ。それと同時に「泣いてるの?もう大丈夫だよ。」って言ったのは娘だったんだな。と思った。まぁ俺の気のせいかも知れないけどね。

  匂いの記憶。それは忘れていた何かを思い出させてくれるものなのかもな。辛かったことも、楽しかったことも。そして、あの頃の君を。

 今聴いている音楽はPink FloydのTime

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?