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45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(16)

カンボジアの教育事情(1)

 モンドルキリ州の州都センモノロムに到着した我々は、まず、日本の教員委員会に相当する役所を訪問した。

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 だが、勤務時間中であるにもかかわらず、役所の中は閑散としていた。資料によると、ここには50人以上の職員が在籍しているはずなのだが、部屋の中には、どう探しても3人しか見当たらなかった。
 同行しているHさんの話によると、役人の給料だけでは生活していくことが難しいので、みんなアルバイトに行っているらしい。
 教育委員会がこうなのだから、学校の状況も推して知るべしなのかもしれないな、と思った。

 カンボジアの学校教育は、日本と同じ6・3・3制で、最初の9年間が義務教育であることも同様だ。通常の授業は月曜日から土曜日まで行われているが、教室や教師の数が不足しているため、多くの学校では午前と午後の2部交代制で授業が行われている。午前の部は7時から11時まで、午後の部は13時から17時までのそれぞれ4時間だ。
 また、義務教育であっても、その就学率は日本のように高くはない。事前のレクチャーでは、小学校の就学率が約69%、中学校では約17%だということだった。そして、このモンドルキリ州のような山間部や地方の農村部になると、この数値はさらに下がる。過疎地帯では、小さな子どもも農業や家事などで貴重な労働力なのだ。
 プノンペンなどの都会では、2部制のために授業のない時間帯には、塾や私立学校へ通う生徒もいるという。その一方で、経済的に貧しい親たちは、日々の生活のために、子どもたちに働いてもらうことが当然だと考えざるを得ない。この貧しい国のなかに、さらに格差が生じているのだ。

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 役所を出て、宿泊するロッジに移動をした。ここを拠点にして、翌日からの3日間で、州内に分散する5つの小中学校を訪問することになる。

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 ロッジの各個室には、ベッド、シャワー、トイレ、テレビ、冷蔵庫などが備え付けられていた。道中で藁ぶき屋根の家が並んでいる光景を見てきたところなので、ある程度は不便な生活を覚悟していたのだが、いささか拍子抜けである。
 だが、油断はできない。出発の前、カンボジアに渡航経験のある日本財団の職員の方たちからは、異口同音に「蚊に刺されないように気をつけてくださいね」と言われていた。マラリアに感染をする危険があるからだ。
 マラリアは、結核、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と並ぶ「世界三大感染症」の一つに数えられ、毎年、世界では約40万人がこの感染症で命を落としている。マラリア原虫という寄生虫が引き起こす感染症だが、それを媒介するのがメスの羽斑蚊(ハマダラカ)なのだ。

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 部屋に入ると、早速、日本から持ち込んだ渦巻き式の蚊取り線香に火をつけた。夏を連想させる独特のにおいが部屋の中に充満する。素肌が出ている部分には、虫よけのスプレーを入念に吹きかけた。
 この他に、部屋の中で蚊を発見したときのための殺虫剤と、外出時に使用する携帯用の蚊取り線香も準備しておいた。(つづく)


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