45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(17)
カンボジアの教育事情(2)
モンドルキリ州での2日目。早めに朝食をすませた私たちは、最初の訪問先である中学校へと向かった。
ガイド兼運転手のAさんによる『ミッション:インポッシブル』もどきの運転はこの日も続き、運転中にDVDの鑑賞こそしないものの、険しい山道であるにもかかわらず、猛スピードでランドクルーザーを走らせていく。
途中でAさんが「近道をする」と言って、車は川の方に進んでいった。どこで曲がるのだろうと思っているうちに、車は直進して、そのまま川の中へ突っ込んでいく。
浅瀬ではあるが、川は川である。しかし、この辺りの川には車が通れるような橋が架かっていないため、こうやって横切っていくのが一般的らしい。
ロッジを出発してから1時間ほどで、目的地である中学校に到着した。
校庭の真ん中には、木の柵で囲われた畑があった。これでは体育の授業のときに邪魔になるのではないかと思い、迎えにきてくれた校長先生に、
「なぜ、ここに畑をつくったんですか?」
と尋ねたところ、
「ここが、一番日当たりがいいからですよ」
という答えが返ってきた。
いや、そういうことを聞いたわけではないんですが・・・。
校舎の中に入ると教室へ案内され、授業の見学をすることになった。日本でいうと中学3年生に相当するクラスだそうだ。
生徒たちの白いワイシャツやブラウスに黒地のズボンやスカートという姿は、日本の中学生とそれほど違わない。大きな違いは、教科書やノートを持参している生徒がほとんどいないことだろう。
見学をした理科の授業は、先生が教科書の内容を一方的に説明し、生徒たちがそれを暗記するというスタイルで進められていった。器具が揃っていないため、実験や観察が行われることはないらしい。
教材や教具が不足しているのは、理科にかぎったことではなかった。教科書や辞書などを除くと、かろうじて数学の授業で黒板に作図をするときに使う大型のコンパス、三角定規、分度器はあるものの、それ以外には地球儀が1台あるだけだった。
午前中の授業が終わったところで、先生方に集まってもらった。やってきたのは若手の教員ばかりだ。
カンボジアの場合、小学校では学級担任が全ての教科を教えることになっているため、教員は朝から夕方まで勤務をすることが一般的である。しかし、中学校では自分が担当する授業のときだけ出勤し、空いた時間には副業をすることが慣習になっている。
中堅やベテランの教員のなかには、本来は自分が担当するべき授業を若手に任せて、連日、畑仕事やアルバイトに精を出している者も珍しくないらしい。もちろん、好ましいことではないのだが、カンボジアでは教員の給与水準が低く、それだけで生計を維持していくことが困難なため、校長も黙認をしているのだという。
前日に訪問をした教育委員会でも、職員の9割以上が副業のために不在だったが、学校現場でも同じようなことが起きていた。(つづく)
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