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2_songs of 48 minutes

待ち合わせ場所は新宿三丁目駅から歩いて少しすると見えてくる
大学の同期が夢を叶えたハンドドリップのコーヒー屋さんだった
待ち合わせの相手が間違えて別の番号の出口からでてしまったと連絡があり
コーヒー屋さんへ向かう足を止め、伊勢丹がある十字路へ急ぐ

「伊勢丹の近くの、三菱UFJ銀行にいます」

銀行の出入口に腰掛け、わたしを待つ後ろ姿の彼を今でも覚えている
それまで急いでいたのに、わざとわたしは青信号を見送った
高鳴る胸がおさまるのを待ってわたしは銀行の中へはいる
ヒールの音に気づいて大きな背中が振り返る

「暑い中歩かせてごめんなさい、はじめまして」

煙草の甘いかおりが冷房の風に乗ってかおる
ソフトモヒカンなのにオーバーオールなので甘いのか辛いのかわからない
背が高い彼を見上げると、やわらかい眼差しが降ってきた

「それじゃあ、いきましょう」

女性としては167cmと比較的背の高いわたしだったが
180cm以上ある彼と並ぶと世界が少し縮んだような気がした
1歩1歩が大きいけれど、わたしに合わせてくれているのが分かった

お店に到着してカフェラテと彼のココアを注文する
コーヒー屋なのにココアなのは、彼がコーヒーが苦手なのと
チョコレートが好きだからだった
「友達のお店なのにコーヒーを注文しなくてごめん」と彼が謝ってたっけ

そこからわたしたちは日が暮れ、お店が閉まるまで外のベンチで話続けた
音楽、食べ物、寝相、ライヴ、小さい頃の話、仕事、話は尽きなかった
数時間前に「はじめまして」を交わした間柄なのに
もう何年も前からお互いを知っているような、そんな心地よさがあった
(わたしは彼の存在自体は数年前から知っていたのは今もひみつだが…)

「…帰りましょうか」

ベンチから立ち上がり駅方面へふたりで向かう
それまで楽しく話していたが、お互い何故か黙って歩く
改札口前にきて、ふいに彼が

「…夕ご飯もご一緒しませんか?」

という
わたしが言えなかった言葉をそのままいう彼の顔をみつめる
あの時よりもまっすぐな眼差しがわたしの答えを待っている

わたしたちは出会ってしまった、あの夏の新宿で



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