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【妄想ライオンズ 23】8回表。2点差。2死1、3塁でのこと

CS初戦。エースが相手の主砲に打ち砕かれる。4点差を追う展開に、打線は粘り強くくらいつく。しかし、1点差に詰め寄ったその裏に、痛恨の追加点を許し、3−5の2点差で終盤を迎える。

8回のソフトバンクのマウンドに上がったのは、シーズンに8回を守ってきた藤井ではなく、エースの千賀。確かに100球にはまだ届いていなかったけれど、セオリーではない。ベンチは、エースの「格」にかけた。

ライオンズは1番からの好打順。金子がラッキなー形での内野安打で出塁すると、2、3番はボテボテのゴロながらランナーをなんとか3塁に進める。4番の山川は申告敬遠で、5番の栗山との勝負を迎える。

1週間前のベルーナドームでは、千賀は栗山に満塁からフォークをセンターに運ばれ、先制点を献上した。この日も第2打席に反撃の狼煙となるツーベースを、カットボールを打たれている。

最近の栗山は、150キロ台の後半になるようなスピードボールに少し苦労をしている。そして、変化球を打ってきたこと、この2つから言えることは、ストレートで勝負をしてくることだ。21世紀のライオンズそのものを地で行ってきた男は考える。ストレートだ。ストレートを打ち返すんだ。

初球はこの日1番の159キロのストレートが低めに外れる。2球目は1球目と同じコースに来たフォークにバットは空を切る。しかし迷いはない。ストレートだ。その3球目はまたも159キロ。アウトハイ、ボール気味にきたボールを叩く。しかし、球威に押されファールになる。4球目も159キロ。100球を超えた千賀のボールが低めに外れる。

2ボール2ストライク。ここがこの試合の勝負の分岐点であることは誰もが知っている。しかし、栗山の頭には、1つしかない。ストレートを打つんだ。必ず打ち返すんだ。

バッテリーは十分な時間をとる。間を取る。5、6球目はアウトローへのフォークを続ける。完璧なボールも、外によった投球に栗山もしっかりファールで食らいつく。

7球目。真ん中低めに158キロのストレートが投げ込まれる。おそらく千賀の狙いはアウトロー。ボール1個分内に入ったボールを、栗山は狙い打つ。待っていたボールだ。しっかりライトに運べるはずだ。

しかし、ボールは前に飛ばない。打球は前に飛ばない。ソフトバンクバッテリーはもう一度間を取る。バッターは手にしたバットの先を見る。

3時間が迫るスタジアムに投げ込まれた最後のボールは、まさに7球目のストレートと同じボール、同じコース。。。。に見えた、完璧なフォーク。そこからワンバウンドギリギリにまで落ちる、芸術的なフォークにバットはライオンズファンの期待虚しく空を切る。

投手はほえる。キャッチャーも小躍りする。しかし、打者は表情ひとつ変えずベンチに戻る。ただの眉の一つも動かさず、ベンチに戻る。

打者は3回に1回も打てれば天才打者だ。打てないことの方が多い職業だ。打てないことに1つ1つ一喜一憂などしていられない。ただそれだけだ。ただそれだけのことが、彼の心の1%だ。その1%だけを彼は顔に表す。そして、残りの99%、激しく揺れ、怒り自分に憤る、その狂気の炎は、1ミリたりとも表に出さず、彼はベンチに下がる。

ライオンズは崖っぷちに立たされる。CS2戦目、彼の心に煮えたぎる炎が、ベンチを包み、爆発することを、ファンは心待ちにしている。


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