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【小説】あかねいろー第2部ー 76)応援団

 火曜日の練習の後、応援団の団長の高橋が団員3名を連れてラグビー部の部室を訪ねてくる。
「次の試合は、学校をあげてラグビー部の応援をする。俺らも、正式に全員でスタンドに行ってラグビー部の応援をする」
高橋は、何かの通知のように、淡々と話す。
「ああ、聞いてるよ。どのくらい来るんだろうね、うちの学校の人」
「基本的には参加は任意だ。先生方も微妙な態度の人が多いそうだ」
高橋と3名の団員は、足を肩幅よりも広げて、腕を後ろで組み、背筋をピンと張ったまま話をする。
「我々応援団は、全員が参加する。そして、今回は、駅前の女子校のチア部も参加する」
その宣言に、今まではあちらの方を向いていた部室のメンバーが身を乗り出す。
「まじか!」
誰かが声をあげる。同じ公立の女子校だ。沙織の通う学校だ。交流はたくさんあるけれど、応援団ーチアリーディング部ー吹奏楽部は繋がりが深くて、そして長くて、野球部の公式戦には必ず一緒に参加をしていた。県大会の1回戦、小さな市営球場の試合でも、彼らはやってきて、弱小男子校野球部に、分不相応の華やぎをもたらしていた。
「1回戦からチアが来るなんて、しかも他校。すごいな」
とよく言われていたけれど、現実的には、1回戦に行かないと次はない可能性が大なので、ここに行かないと練習の成果を出す機会がなくなてしまうというところだった。
 応援団が野球部以外の応援に行くことはそれなりにあるのだけれど、チアと一緒に来るのは、おそらく僕らの学校が始まって以来初めてだと思われた。
「ついては、ラグビー部のメンバーの、フルネームと、簡単な特徴を教えてほしい。一人一人のへエールの言葉を考えるために必要だ」
相変わらず高橋はかしこまった、いわゆる応援団スタイルを貫いている。
「ああ、ああ、そうか。もちろん」
一太は頷く。
「高田、お願いしていいい?」
高田は両手で大きく丸をする。
「チア部、来るんだ」
笠原が目を大きくして高橋の肩を揺さぶる。
「やるじゃんか!俺ら」
「野球部の勝呂の彼女が向こうにいて、勝呂が彼女たちを誘ってくれた。俺らからは、なかなか言いにくい。3年生も総出で、20名以上のメンバーが全員来る」
ふおーっという声が部室に響き渡る。勝呂。野球部とは散々に揉めてきたけど、いい奴だ。
「一太。そこで、俺らから提案がある」
高橋が改まる。
「俺らは、応援団だ。応援団は、死ぬ気でお前らを応援して、絶対に勝たせる。我々は、応援の力でチームを勝たせる」
大真面目にいうその言葉に少し吹きそうになる。そんなこと言っても、野球部は出ると負けのチームじゃないか。でもそれは言わない。
「お前らが、花園に行くまで、全力を尽くして応援する」
「ついては、1人でも多くの在校生、OBが、次の試合に応援に来るべきだと考えている。相手は地元の名門校だと聞いてる。でも、OBを含めた、人の力なら、俺らは決して負けないはずだ」
「そこで、明日、全校に向けてラグビー部から、決意表明をしてほしい。8時半のホームルームの時間に、全校に放送することをすでに許可をとってある」
「さらに、その動画を、OB会へ流すこと、学校のHPに貼ること、さらには、学校の連絡アプリで、全校の家庭に配信することも許可をとっている」
「応援団のOBには、その動画を使い、これまでの100年間の全ての人脈に流すことを決めている」
矢継ぎ早に出てくる高橋の言葉に、僕らは唖然とする。僕らの知らないところで、応援団が勝手に疾走している。
「ちょっと待て・・・」
一太が遮る。
「明日の朝?」
本棚の後ろにいる小動物を確かめるかのように、恐る恐る言葉にする。
「そうだ。明日の朝だ。これはもう決まっている」
「なんでもっと早く言ってくれないんだよ」
「今決まったことだ。だから、これ以上早くは伝えられない」
高橋が毅然という。
「というと、、、」
「19時に終わった職員会議で決定した」
「明日流す、と」
「そうだ。明日が水曜日だ。試合が日曜日だ。1日でも早く流すべきだと俺らが言った」
確かにその通りだ。それはわかる。が、、僕らはお互いの顔を見合わせる。誰か言えよ、とばかりに。
が、そんな空気を、一切空気を読まない笠原が切り裂く。
「よっしゃあ!今から、そのメッセージを考えようぜ!最高の動画作ろうぜ!」
少しカビ臭い10畳ほどの部室に10名を超える男が集まっている。その密度の高い空間が切り裂かれて、爽やかな空気が流れ込んでくる。みんなで、その空気を、スッと吸い込む。その時間だけ過ぎる。
「だよな。やろう。今から考えよう。1時間もあればできるだろ」
一太がボソリという。
 3時間を超える練習を終えた後。火曜日と水曜日は、試合に向けたハードデーになるので、相当に追い込んだ練習をした。その後だ。疲れてはいる。正直。けれど、高橋の言う通りだ。僕らは、僕らだけで試合をしているんじゃない。山際高校を代表し、100年を超える山際高校の伝統を背負い、あるいは伝統に支えられて戦うんだ。
「頼む。明日の8時に放送室に来てくれ。映像で各クラスに配信する」
高橋はそういうと、後ろの部員に目配せをする。
「これは、俺らからの差し入れだ。部員全員が、自腹を出して買ってきた」
と言って、隣の緑屋の焼きそばが10個と、ポカリなどの清涼飲料水が20本くらい、それとコンビニで買ってきたと思われるおにぎりが10個ほどとパンが10個ほど入った袋を差し出してくる。
「俺らも、目立ちたいんだ。応援団として。たくさんの人の前で、ヒリヒリするような試合、全国を目指すような試合を、本気で応援したいんだ。お前らに負けないくらい、俺らも本気でやる」
「わかったよ」
一太が立ち上がり、高橋とグータッチをする。

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