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読書の記録 10月

読書
2023年は月に二冊ずつ読もう。それで何かしら感想を書き残そう。


①犬のかたちをしているもの 高瀬隼子

彼氏がよそで作った子どもを、その母親である女性から「もらってくれませんか?」と言われるところから展開していく物語。途中から主人公の女性(=薫)に対して「ちゃんと美味しいもの食べてるかなあ」という気持ちが溢れて止まらなかった。日常のいたるところにかなしさとか、緊張感とか、血とか、気持ちが沈みそうになるもので満ちていて、それがあまりに本当のことのようで、ソファにぬいぐるみでも置いてたら良いのになぁ、とも思った。

実家で飼っていたロクジロウのことを愛していたというわりには、その愛も溺愛という感じはしなくて、どこか達観して冷めたもののように感じた。なので、もっと即物的に「おいしいー!」とか「山、気持ちいいー!」とか思ってほしいな、と思った。人の子どもを見て「可愛いですねー!」と脳死で言える人だったらな、と思ったけど、そうでないから薫なんだ。

冒頭からずーっと、登場人物全員がちょっとずつ変なので、薫の痛みをそっくりそのまま感じてあげることはできなかった。そういう点でもう読み返すことはないと思う。ただ、「子どもがほしいのと、子どもがいる人生がほしいのは、同じことだって思う?」や、「わたしがわたしであるというだけでは、多分じゅうぶんではないから、他のもので足したいと、思ってしまう。」という言葉には、薫の心の中のぐるぐるがばーんとまっすぐ飛んできて僕にぶつかった。

「愛する」という日本語と僕たち日本人がとっている慎重な距離感がこの小説を作ったように思う。「愛」ということが分からないのです、薫も、僕も、多分みんな。

薫が犬や実の家族に感じる「愛」も、儒教的な家族への親愛という社会的な前提があって初めて出てきているもので、薫の心の内側から溢れてきたものでは無い気がした。つまり、「通常、社会で血のつながりを持つものは愛で繋がるものですよ」みたいな前提を知らずのうちにじっくり享受して、盲信している状態。すっごく社会的な女性なんだろうな、薫は。やっぱりもう一回読みたいな。

②他人の足 大江健三郎

他人の足 大江健三郎
読後の一言目は「っんやねんっこれぇ…結局、看護師さんにエッチなことして欲しいだけやんけユースケェ…ちゃんと言えやぁ…」って、リトル津田が出てきた。

脊椎カリエス患者の少年少女が暮らす病棟に起こる少しの革命を見つめる主人公は、冷め切っている。節々に素直さが弾けていて、憎めないやつだと思った。

僕は黙ったまま、うなずいて窓のガラスの向う、木立の向うの、夜の空のぐったりした杳(はる)かな連なりを見た。それは豊かに水をたたえた運河のようだった。」この描写は良いなと思った。良いなと思ったけど、直哉の大山の描写の方が良いなと思った。

初出は昭和三十二年の「新潮」らしく、西暦にして一九五七年。一九六〇年の安保闘争前夜である。「なんだか変だった」と言う看護婦こそが前時代の象徴のような気がした。大学生が歩けるようになった時に周囲がサッと引いていく感じは急進的勢力の中にも保守的な考えを潜在的に持っている人は大勢いて、それが顕在化した感じがした。というか人間ってそうやんな。なんだかうじうじした作品。

番外編 ③BEEF Netflixドラマ

最近、A24製作のNetflixドラマ「BEEF」という狂おしく面白いものを見た。最終回を見た後にそのまま一話を見始め、一周目と同じ速度で二周目を見られたほどに面白かった。

ホームセンターの駐車場で衝突しかけた車の窓から中指が出てきて…という"あおり運転もの"の金字塔である本作ですが、細部はしっかりA24らしく、アジア人家族(フィリピン・韓国・日本系アメリカ人)の葛藤や奮闘を描いていてとにかく見応えがある。

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