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【論文 読書記録】育児休業制度が女性の出産と継続就業に与える影響について――パネルデータによる計量分析


文献の紹介

久しぶりの論文抄読。
といってもパネル投稿論文という形のものです。
(パネル投稿論文というものがどんなものなのかちゃんとわかってないのですが、どなたかご存知の方ご教授願います・・)

今回もオープンジャーナルです。

https://www.pdrc.keio.ac.jp/jpsc/wp-content/uploads/2018/05/059_07.pdf

2003年のものなので、今から20年前。
今親世代の我々が子どもの頃のものです。
だから時代背景とか条件も色々と違って、交絡因子的なものも違うのだろうけど、一つの示唆として参考にできれば。

テーマが結構自分の関心にドンピシャだったんですよね。

学会誌・分野情報

季刊家計経済研究 という学会誌で、2003年夏発行のもの。
本文兼は No.59 p56-63 に掲載されています。

調べてみたところ、J-GROBALさんのサイトでは、年4回刊行の雑誌で、
JST資料分類としては予防医学、社会医学がテーマとのこと。
ただ、刊行が2017年で止まっている?ようで、今は刊行されていないのかな?
その他のこの雑誌のテーマとして、女性のライフコース(前回知ったばかりなので個人的に熱い)とか、ジェンダーと社会とか、未婚者の生活についてとか、結構興味深いテーマを取り扱ってるようです。
またゆっくり読んでみようかな…。


文献の概要

少子化と女性の社会進出が進んでいることを背景に展開されている研究です。

これを読んでみようと思ったのは、育休の期間について、「女性の社会進出の推進」側の視点でなされた研究であること。
子育てしていると、子ども第一の目線の情報に気持ちが進み、結果的に今の社会の制度が整っていないからだ!と思ってしまうのですが、云わば共働き社会の黎明期ともいえるこの時代の研究が示唆するものは、おそらく今の社会の在り方にもつながっている気がして、そこを知りたいと思ったので。

背景

よく見る(私だけでしょうか?笑)専業主婦世帯と共働き世帯の変遷のグラフでいうところの、ちょうど割合が逆転してきた頃の研究ですので、育休制度もまだ今ほど整っていなかった時代ですよね。

↑こういうやつですね。

先行される調査で結婚で仕事を辞めた人(31.5%)よりも、出産で仕事を辞めた人(61.4%)の方が多いことから、「仕事と育児を両立できる環境が整えば仕事を継続できるのでは」というところから始まっている論文です。

出産後に仕事を辞めた理由として「自分の手で子育てがしたかった」が半数を超えており50.5~59.2%。「両立の自信が持てない」が29.6~35.2%、「育休制度が使いにくい」が21.5~20.1%という値にも時代を感じます。育休今は結構使いやすくなっているような気がしますよね。

対象データ

家計経済研究所が実施した「消費生活に関するパネル調査」の1993年から1997年までの計5年分の個票

対象者年齢は開始時の1993年時点で24~34歳の女性(つまり1997年には28~38歳)。
就業している有配偶者の個票のみを分析。

1993~94年のサンプル数305(うち、妻が継続的に就職しているケースが261件、出産が36件)
1994~95年のサンプル数336(うち妻の継続就労301件、出産43件)
1995~96年 サンプル数322(うち妻の継続就労278件、出産27件)
1996~97年 サンプル数395(うち妻の継続就労350件、出産27件)
計1358件のサンプル。

バイベリエトプロビットモデルを最尤法で推定し、出産と継続就業が同時決定であるかを確かめ、両者にトレードオフの関係があるかどうかを調べるものです。

ちょっと分からない言葉がたくさん出てきましたが、プロビットモデルという統計上の言葉があって、標準正規分布の累積分布関数であるものを言います。

まだ育休制度が整いきっていない時代なので、職場に育休制度があるかも調べており、調査の1年前に育休制度が制定されていたかという変数も入れれる状態での研究です。
その他、妻の学歴、夫の稔雄、夫の就業形態、在住都市の規模、住宅ローンの有無、夫の通勤時間、既存の子どもの数、夫の仕事時間、妻の年齢、などなどのデータも組み込まれて解析しています。
めっちゃ端折った。

結果

〇出産と継続就業の同時決定について
同時決定していて、両者はトレードオフの関係にあるため、両立が難しいことが示された。

〇出産関数
大卒の妻が出産に有意に正の影響を与えている。
夫の収入は有意ではない。
夫の業種は有意に正の影響を与えている(農業、自営業)
→夫の時間が弾力的で、子育ての支援が出来る場合、出産の確立を高める可能性を示している。
親との同居も正の影響があり、子育ての支援ができる場合有意に出産の確立を上げている可能性が示されている。
夫の通勤時間、労働時間は有意でない。
夫の年齢は出産確立を下げている。
既存の子どもの数は有意に負になっていて、家計面を考慮した一定数の子どもを持つとそれ以上に子どもを産まない傾向がある。

妻の勤め先に育休がある場合有意に出産確立を高めている。
→出生率向上に貢献している。

〇継続就業関数
妻の学歴には有意差なし。
妻の出身地(東北、中部、中国)は有意に継続就業に正の影響あり。
在住都市は大都市、中都市で有意に継続就業確立を低下させている。
親との同居は女性の継続就業確立を高めている。
夫の年収は女性の継続就業にマイナスの影響を与えている。即ち夫の所得が多いと女性は家計を補うための就業が必要なくなるため、就業する必要性が減少する。
妻の勤め先に育休制度が明示されていることは、妻の就業に有意に正の影響を与えている。

所感

今に通ずる研究

夫の収入が高いと妻は仕事を続けない(続ける必要がない)など今の時代にも変わらないなと思うところもありつつ、
逆に育休制度が整う事で仕事継続がしやすくなっているという、今の社会の仕組みに通じているところもあるなぁと思いながら読んでいました。

この論文で示されている個人的に大きなメッセージとしては
・育休制度があることが女性の就業継続に有意に正の影響を与えている
・夫の時間が弾力的(時間の融通が利いて)で、子育ての支援ができることは出産に正の影響を与えている
のあたりだなぁと思います。

過去の課題から、現代に生きる女性の働き方の課題とは

ただ、今の時代にこれを読んで強く感じたのは、まだこの時代は「選ぶ自由がある」ことを前提になされた研究だなと。
文献の言葉の端々からも、「働きたい女性が働き続けられる環境のためには」という視点を感じます。
それこそ、女性が活躍できる時代に!という動きを感じます。

一方で、現代は「女性も働かないと経済的に厳しい」がデフォルトとなった時代のように感じます。
その中で、社会は家計的にも人手不足的にも働くことを女性に求めるが、女性の負担が大きいのでどうすれば女性や家庭を支えられるか、と言った社会問題の視点にシフトしてきているような気がします。

本来なら、理想は「選べる社会」だな、と思います。
今はこどもを側で見たいからと専業主婦を選ぶもよし、仕事を続けたいと続けるもよし。
問題は、一度専業主婦になると社会に戻りにくい構造にあるのかな、と。

一部の会社では長期的な時短制度であったり、一定の子育てを終えた社員の再就職支援を行っている会社がありますが、そういった取り組みが広がるといいな。

私自身、対人援助職をしていますが、絶対に出産育児を経験した上での仕事上の視点って、これまで以上に広がっている気がするんですよね。
だって対象者の方は子育てされている方や出産育児を経た方も多いわけですし。

そういった経験をないがしろにしない社会になっていくといいな。

育休制度と就業継続の関連

この論文は育休があると女性は仕事を続けやすいよ、という研究結果を示す論文でした。

さて、これは「大人まんなか」の視点。
もちろんすごく大事です。お母さんがやっぱり納得いく人生でないといけないと思うんです。

では、今度は現行の育休制度について「子どももんなか」で調べた論文などはあるのでしょうか。
この論文自体はすごく輝かしい示唆に富む研究だなと感じます。
一方で、育休がなぜ1年に設定されているのかなどについては、1年と3年では女性の就労継続率にほぼ変わりがないからとか、社会復帰率を中心に語られる調査ばかりを目にすることが多くて、「働く女性」としてはなるほどと思う反面、「母親」としては首をかしげるというか、欲しい情報や配慮はそこだけじゃないというか。

やっぱり、「こどもまんなか」じゃないと。と思う自分もいて。
また見つけたらご紹介できたら、と思います。


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