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7万年分、45メートルの縞々| 福井縄文旅

突然ですが、皆さんは年縞ねんこうという言葉を聞いたことはあるでしょうか
それは一言で言うと、泥の地層でできた〝タイムマシン〟。その年縞ねんこうを見ることのできる、世界で唯一の年縞ねんこう博物館』へと行ってきました。


世界に知られるLake Suigetsu

福井県若狭町の若狭湾に面する三方五胡みかたごこの一つ、水月湖すいげつこ。その周囲11㎞、面積4.2㎢の小さな湖は、2013年に「7万年分」の年縞ねんこうの発掘に成功し、Lake Suigetsuとして一躍世界にその名が知られることになりました。

水月湖すいげつこの湖底に眠っていたのは、途切れることのない「7万年分45m」におよぶ年縞ねんこう
世界でも比類のない長さの年縞ねんこうは、世界の歴史や考古学に欠かせない年代決定の「ものさし」に採用されたのです。

年縞ねんこうとは

年縞ねんこうは湖底などに降り積もった粒子が、1年、1年堆積した泥からなる地層です。
この水月湖すいげつこでは、一年の地層の厚さは0.6~0.7㎜、その中に春夏秋冬の遺物が残っています。
秋から春は鉄の炭酸塩、梅雨の季節は侵食された土壌由来の物質、夏は数多くのプランクトン等々…、それぞれの環境を示すものが含まれています。

年縞ねんこうの歩み

年縞ねんこうが世界で認識され始めたのは、19世紀の後半。ヨーロッパ各地には年縞ねんこうをつくる湖がたくさんあり、その年縞ねんこうから年代測定の仮説など、様々な研究が行われてきました。

ただそれは充分な説得力を示すものではなく、さらに*放射性炭素年代測定法が発表された1950年代以降は下火になりました。

*放射性炭素年代測定法とは
植物や生物などに存在する放射性炭素(炭素14)は、その命が絶たれると一定の割合で減っていきます。例えば、木切れや骨片などに含まれる炭素14の量を測定すれば、元となった生物がいつ死んだかを知ることができるというものです。客観的に年代を推定のための方法で、 その「年代」は国際的に使用されている標準物質と比較することによって推定できます。

1970年代になると環境汚染が問題となり、縞から時代ごとの自然の状況や地震などの情報を得られることから、再び注目を浴びるようになります。

さらに*放射性炭素年代測定に活用するという発想が生まれ、1998年に海の年縞ねんこう(ベネズエラのカリアコ海盆かいぼん)のデーターが、世界で初めて「年代の世界標準のものさし」であるIntCalイントカルに採用され、年代決定に活用されるようになりました。

そして2013年、水月湖すいげつこの世界一の7万年分の年縞ねんこうが、世界標準「IntCalイントカル13」として運用されたのです。
つまり、世界中の*放射性炭素年代測定で、この水月湖すいげつこ年縞ねんこうが使われているのです。

どこか神秘的で美しい

世界一細長い博物館

その世界一の年縞ねんこうが納められている『年縞ねんこう博物館』は、年縞ねんこうが発掘された水月湖すいげつこの隣、三方みかた湖に注ぐ川の河口にあります。
それは写真に納まりきらない、かなり特徴的なヨコに細長い建物。

本来は縦の層になっている年縞ねんこうが、ここでは「7万年分の45m」を横一列に並べて展示しているため、「世界一細長い博物館」になったのです。

写真に納まらない世界一長い博物館

年縞ねんこうが作られる湖とは

年縞ねんこうは季節ごとに異なる粒子が地層になったものですが、年縞ねんこうが作られる湖と作られない湖があります。

例えば水月湖すいげつこの隣の三方湖みかたこには作られなかったように、年縞ねんこうができるにはいくつかの条件があるのです。

条件1、深い水深
水月湖すいげつこの水深は34m、山に囲まれて、ちょうど深いコップのようにな形になっています。その形から、水が湖の底まで混ざることがなく、酸素が行き渡ることもありません。
酸素がないので生き物が生息できず、湖底がかき乱されることがないのです。
条件2、流れ込む川がない
水月湖すいげつこには直接流れ込む川が無く、三方湖みかたこと細い水路で繋がっているだけです。そのため、大雨の時に川から流れる土砂などに、湖底をかき乱されたりすることがないのです。
条件3、湖が沈み続けている
湖にはものがたまるので、通常の湖では水深が次第に浅くなっていきます。ところがここには「三方みかた断層」がとおっていて、その断層活動の影響で水月湖すいげつこは沈んでいます。平均すると1年で1mmづつ沈み、湖底にものがたまるのは0.7㎜なので、湖は深くなり続けているのです。

このような条件が全て揃って、7万年分という奇跡の年縞ねんこうができたのです。

3本の年縞ねんこうがある理由

展示されている年縞ねんこうは三列並んでいますが、それはその発掘方法にあります。
湖の底にアルミの筒を差し込んで発掘する際に、筒の継ぎ目にある地層が正確に採取できないことから、継ぎ目が違う場所になるように3本の筒を使って年縞ねんこうを採取しているのです。

そのようにして正確に発掘された7万年分の年縞ねんこうは、年代決定のものさしと言われるように、その誤差は「僅か±数十年」といいます。

縞々から見えてくるもの

水月湖の年縞ねんこうの縞々は、湖の下に四季があることを示しています。
春から夏にかけては「暗い層」になり、秋から冬にかけては「明るい色」になります。
これは暖かくなる時期には主にプランクトンが、寒さに向かう時期には主に鉄分や黄砂が堆積しているため、その色が表れているのです。
そしてその縞々の大きな乱れが、環境の変化や自然災害を表しています。

▮46,810年前 「急激な温暖化」
黒く太い層が表しているのが、最終氷期に起こった急激な気候変動(ダンスガード・オシュガー・イベント)。数年~数十年で5~10℃の温暖化が20回以上も確認されています。

▮28,888(±36)年前 「大山だいせんの火山灰」
白くかなり乱れているのが、鳥取県の「大山」の火山活動。1400年間で5回の大噴火は、200㎞以上離れている水月湖にも多くの火山灰を降り積もらせました。

▮7,253(±23)年前 「鬼界カルデラの火山灰」
鬼界カルデラは、鹿児島県の大隅海峡にあるカルデラ・海底火山。複数回の超巨大な噴火は、はるか遠いこの地まで多くの灰が飛んできたことを示しています。

数万年前のことが、地層の中に正確に表されていること、それをこうして今この目で確かめられること、この年縞ねんこうによって、地球の歩みの一コマがよりリアルに感じられるようです。

縄文貝塚との繋がり

水月湖すいげつこにこのような年縞ねんこうが眠っているのがわかったのは、ここにあった縄文時代の貝塚「鳥浜とりはま貝塚」の発掘調査がきっかけでした。

縄文時代の草創期からの遺跡が、その縄文時代をはるかに凌ぐ7万年分の年縞ねんこうの発掘へと結びつき、世界の「ものさし」として利用されるようになったのです。

奇跡ともいえる素晴らしい展開!
縄文時代から続く、人々の英知と努力、情熱の賜物と言えるようです。

参考図書
年縞博物館 解説書

最後までお読みくださり有難うございました。

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