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生き様がそのままに「骨が語る人の生と死」展|東京大学総合研究博物館

人骨と聞いて何をイメージするでしょうか。
ちょっと怖いような「恐れ」、あるいは真っすぐ見つめてはいけないような「畏れ」、なにか言葉では言い表せないものがあるように感じます。
特別展「骨が語る人の生と死」日本列島一万年の記録より』では、古人骨を科学的に分析、調査し、先人たちの生き方やその後を伝えてくれています。


日本史上最高のマッチョマン

愛知県の渥美半島の海に面する遺跡から出土した「列島史上最も太い上腕部」と言われる約3000年前の男性の縄文人の骨。
並べられた一般的な「江戸時代の男性」の骨と比べると、その太さの違いは一目瞭然です。

左:マッチョな縄文人 愛知県 保美貝塚 / 縄文時代晩期
右:江戸時代の一般男性 東京都 雲光院遺跡 / 江戸時代
上はレプリカ

縄文人の生活は狩猟をはじめ全てが手作業、骨は運動することで太く頑丈になるので、四肢の骨は江戸時代の人よりも、勿論今の私たちよりもずっと太かったのです。

さらに同じ縄文人でも暮らし方によって、その太さに違いが見られることがわかりました。

この太い上腕部を持つ縄文人は、日々の生活の糧である海や山での狩猟以外にも活発な活動をしていました。
陸から遠く離れた外洋で漁をしたり、山から採掘した石(*サヌカイト)を各地へ海上運搬したという証拠が残っているのです。

※サヌカイトは安山岩の一種で、割ると鋭利な断面になるため、縄文時代の矢じりや石刀など石器の材料として使われていました。

同じ縄文人でも、内陸部に住む人の上腕部はあまり発達していませんでした。最強マッチョマンは積極的な生活の中で鍛えられ、発達した骨を持っ
たのです。

縄文時代 海岸部と内陸部に住む男性と女性の骨

歯並びから分かる食生活

縄文人は日常的に硬い肉などをかみ切ることで、顎の発達が良好で、歯並びも良く、上下の切歯の先端どうしが噛み合う「切端咬合せったんこうごう」でした。

現代人と同じく、成長するにつれて歯は摩耗しエナメル質は失われていきますが、年をとっても嚙み合わせは良かったようです。

右から、縄文人の子ども、若い男性、
中年男性、中高齢女性

時代が進み食生活が変わることで、顎の形から歯並び、そして頭の形までに変化が見られます。

鎌倉時代には「出っ歯」の人が増えました。この時期に「箸」が普及したことで、前歯をあまり使わない食生活が広まったことがその要因にあったということです。

鎌倉時代の成人男女の人骨と木の箸

江戸時代になると食生活はより多様化し、硬いものを食べる機会はどんどん減っていきます。顎は華奢になり、顔の幅が狭くなる「小顔化」の傾向が表れてきます。

そして歯並びが悪くなり、虫歯、歯石、歯槽膿漏により歯が失われています。

江戸時代の武家の棺桶「甕棺かめかん」の
20代成人女性

装飾された歯

縄文人には、顔にイレズミをする風習があったことが知られています。同じイレズミを施すことによって、一族としての絆が強められたと考えら
れています。
また健康な歯を抜いた「抜歯」が人生の説目などに行われ、歯を抜く痛みに耐えることで一人前として認められたとされ、その儀式は広く流行していたようです。

さらには歯をフォークのように加工した「叉状研歯さじょうけんし」が東海から近畿地方でおこなわれていました。集団の中の一部の人だけに見られることから、特別な身分や地位を表していたと考えられています。

縄文時代 抜歯と叉状研歯さじょうけんしの成人女性

埋葬の仕方

縄文時代の葬送儀礼は多様で、土にそのまま埋葬する「土葬」の他に、一度埋葬した故人の骨を取り出し、土器の棺に入れたり、土に埋め戻したりする「再葬」という方法が見られます。

この墓は、一度土葬した複数人の骨を取り出し、その骨で多角形を作り、中心部と外側に頭蓋骨を配置したものです。何らかの儀礼的なものだと思われます。
この他にも犬と一緒に埋葬されているものも見られることから、多様な死生観があったと考えられるようです。

縄文時代 愛知県保美貝塚 復元

鎌倉時代には、鎌倉の海岸近くに多数の骨を集めた大きな墓穴がいくつも作られ、合計で約3.800体の人骨が発見されています。中には合戦の犠牲者だと考えられる刀の傷跡のある骨もありました。

これは「墨書ぼくしょ」がある骨で、仏教僧が供養したものだと考えられるそうです。

鎌倉時代 

骨に現れた病気

先史時代から「がん」「結核」といった病気があり、時代を通じて様々な病気と闘ってきたことが分かっています。

「梅毒」は15世紀にヨーロッパで大流行した後、インド航路伝ってアジアにも広がりました。日本最古の記録は室町時代で、江戸時代には大流行したとされています。

右:日本最古の縄文時代のがん患者の頭蓋
中:古墳時代の結核により変形した脊髄
左:室町時代の骨梅毒による頭蓋

骨からのメッセージを聞く

東京大学総合研究博物館には、日本各地で収集された古人骨が、数千人分も保管されています。

骨を通して、祖先たちの生活や身体の状態を知る。それは単に過去を知ることではなく、現在や未来の問題…例えば「梅毒」は2010年以降急増してい
るなど、再び私たちの身に降りかかる事を教えてくれているようです。

※参考資料「骨が語る人の生と死」パンフレット

最後までお読みくださりありがとうございました。


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