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なんだろう?が止まらない!/「縄文時代の不思議な道具」展 :山梨県立考古博物館

早くも紅葉が始まった山梨県で、「縄文時代の不思議な道具」展が開催中です。
そもそも縄文時代は不思議でいっぱいですが、その中でもさらに謎めいているのが、使い方が分かっていない数々の道具です。
この展覧会では、各地から集められた300点近い用途不明の道具を見ることができます。


「不思議な道具」とは?

最初に、ここでいう「不思議な道具」とはどのようなものでしょうか。

縄文時代の道具は、大きく2つに分けて考えられています。
まず一つ目は、「第一の道具」と呼ばれるもので、生活をしていくために必要な所謂実用品と呼ばれるものです。
石で出来たナイフや矢じり、釣り針や弓矢、煮炊きに使う縄文土器、木の実などを潰すための石皿、等々…です。

そして「第二の道具」が、この企画展の「不思議な道具」にあたるものです。
煮炊きには使われない縄文土器、土偶、様々な土製品、石製品、装飾品といったものがあります。

それらの使い方ははっきりとしないため、実用以外のものと考えられ、縄文人の精神文化に関係すると推測されています。
豊穣や子孫繫栄を祈る祭などの道具、また死者を弔うための副葬品などに使われていたなどと想像できるようです。

実用性のある道具は何かを行う目的のために作られるので、大きさや形はある程度限定されたものになります。
そういった制約を受けにくいのが、この「第二の道具」の一つの特徴です。
大きいもの、小さいもの、過多に装飾のあるものなど、自由な造形が多くあることで、より不思議さが膨らんでいくように思えてくるのかもしれません。

それでは、いくつかの「不思議な道具」を展覧会のチャプター別に見ていきましょう!

会場はこちら↑

1. 「大きな石器と小さな石器」

石棒せきぼう
石で作られた男性器を模したものです。男性の生命力の象徴として祭祀などで使われたと考えられています。
大きな石を削りだし、形や大きさを整えたもので、人の背丈ほどのものから10㎝程度のものまで様々で、突起や彫刻を施したりとバリエーションも豊富です。

石剣せっけん
上記の石棒が縄文時代の初期から見られるのに対して、「石剣」は縄文時代の終わり頃に登場します。
石棒が小型化した中で変化したもの、また大陸の青銅器由来説などがあり、時代の移りかわりを表している表現の一つであるようです。

磨製石斧ませいせきふ
本来の磨製石斧は木を伐採するための道具ですが、同様のものが僅か数センチのミニチュアとして作られました。とても実用品とは思えないもので、木を倒す力「強さの象徴」であったという見方もあります。

2. 「かわいい土器とミニマルな石器」

『ミニチュア土器』
まるで「おままごと」用?と思えるような小さな土器です。
子どものおもちゃや、儀礼などに用いられたと考えられています。
その形は通常の縄文土器とそっくりなものや、ごくごく簡単に作られたものまで様々です。

このように小さいながらも技巧を凝らしたもの、赤く彩色されたものもあります。

『小型の石皿と磨石』
「石皿と磨石」は木の実などをすり潰すなどに使われた道具ですが、ここにあるのは本来の大きさよりも随分と小さいものです。
種や薬草などをすり潰すために作られたのかもしれませんが、中には「石」ではなく「土」で作られたものがあることから、実用品ではない可能性が考えられています。

3. 「動物や植物の形をした土器や土製品」

『貝の土製品』
貝を使った腕輪などの装飾品のほかに、土で本物そっくりの貝を作ったものがあります。装飾の材料や食料としてではない、何かの意味が隠されているのかもしれません。

さらに、「土」で作った貝の腕輪のイミテーションもありました。また動物の骨やサメの歯でペンダントなども作られていました。

『動物の形をした土製品』
犬、イノシシ、サル、鳥、かめ、くま、などの動物の土製品です。特定の動物に限定されていることや、祭祀などが行われた遺跡から出土することなどから、集団ごとのシンボルではないかとみられています。

この「犬の土製品」はかなり写実的に作られていますね。

こちらの「トリ形土製品」は足が下の鏡に映っています。

これは何らかの動物らしい…と思われるものです。水中の生き物でしょうか?

4. 「ふしぎな形の土器や石器」

独鈷石どっこいし
両端ともに使うことができる「石斧」の一種だと考えられ、弥生時代にも作られていました。
出土量は少なく、柄を付けた痕や、火をうけた痕、叩いて壊れているものなどがあり、叩いたり火を使う祭祀などで使ったものだと考えられています。

左:『石冠せっかん
全国で出土しますが特に岐阜県に多いのが特徴で、底面にはへこみや擦った痕などが見られます。

右:『三角柱形土製品さんかくちゅうがたどせいひん
三角柱の真ん中に孔がるものorないもの、文様があるものorないものがあります。
石冠せっかんと共に、何に使われたのか分からないものです。

『スタンプ形土製品』
はんこのような形をしているのでスタンプ形と呼ばれていますが、実際は何に使われたかは分かっていません。
アクセサリーや小さな土器の蓋、はたまた「縄文クッキーづくりの仕上げ用」説などがあります。

『トロトロ石』
チャートという石をとろとろになるまで磨いて作られたものです。2本の足のようなものが作られ、人形のようにも動物のようにも見えてきますね。

土板どばん
縄文時代の終わり頃に作られた板状の土製品です。顔を描いたり文様があるものなどがあり、その多くは割れたり、欠けたりしています。何らかの理由で意図的に壊れされたと考えられています。
同様のものに、岩でつくられた『岩版がんばん』があります。

土偶どぐう
人の形をかたどったもので、多くは乳房の表現があることから女性を模していると考えられています。当初は手や足は表現されていませんでしたが、徐々に人の形に近づいていきました。
内部が空洞になっているものや、中に土でできた鈴が入っているものなど、作り方や造形は様々です。岩で作られた「岩偶がんぐう」も多く作られました。

香炉形土器こうろがたどき
香炉に似た形から名付けられましたが、実際には香炉として使われたかは分かっていません。顔のように見えるものや、繊細な透かし彫りがあるもの、赤く彩色されたものなどがあります。

釣手土器つりてどき
山梨~長野にかけて多く作られた土器です。土器の内部に何かを燃やした痕が残っているものがあることから、あかりを灯すための道具と考えられています。
このように顔がついているものや、動物らしきものがついているもの、複雑な造形をしているものも多く、日常的に使われたものではないようです。

異形台付土器いけいだいつきどき
千葉県で多く出土しているもので、上の「釣手土器」から変化した可能性が考えられています。2個セットの出土例が多いという特徴を持っています。

注口土器ちゅうこうどき
土瓶のような形で注ぎ口があることから、お酒などを注ぐために使われた可能性が高いと考えられています。とても丁寧な作りで、顔がついているものや、緻密な文様が施されているものも多く見られます。

有孔球状土製品ゆうこうきゅうじょうどせいひん
縄文時代の終わり頃になると、それまでには見られなかった土や石の製品が作られるようになります。
この有孔球状土製品もその一つで、装身具ではないかと考えられています。

不思議から想像すること

上記は展示のほんの一部ですが、なんでこんな形なの?なんのために作られたの?…何?の連続ではないでしょうか。

「不思議な道具」は実用ではないといいましたが、曖昧なものもあります。
例えばあの有名な「火焔型土器」などは、とてつもなく豊かな装飾がついていますが、火をうけた痕があるものもあります。
毎日の煮炊きに使うには難しそうですが、特別な日だけに装飾に気を配りながら使ったのかもしれません。
私たちが特別な日に、ちょっと素敵なテーブルウェアを整える…そんな感じであったのかもしれませんね。

そのように考えると、この「不思議な道具」の造形や使われ方もなんとなく想像できるのかしれません。

私たちと同じように、日々を生活の糧のために費やし、自然災害などのアクシデントに立ち向かい、時にマツリで歓喜の歌や踊りに興じる…そんな日常が縄文時代にあったことが、たくさんの「不思議な道具」から感じられるようです。


*参考資料
「縄文時代の不思議な道具」展冊子 山梨県立考古博物館
「縄文時代史」 勅使河原彰 新泉社

最後までお読みくださり有難うございました。

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