見出し画像

民法改正「共有」のお話(7)

 30年前にAマンションで分譲され30年以上・・・管理が放置状態の「機械式駐車場設備」。
 でも100名も共有者が居られるので・・・「管理」を行なうための「共有者間の合意形成」は事実上不可能なので、放置プレイ状態?

 でも、もしかすると2023年4月1日に施行される「改正民法」が使えるかも?ということで・・・前回から引き続き「共有」に関する「改正民法」のお話です。(今回は、いよいよ「管理」に関するお話です)

本シリーズのブログはこちら・・・
   民法改正「共有」のお話(1)
   民法改正「共有」のお話(2)
   民法改正「共有」のお話(3)
   「
民法改正「共有」のお話(4)
   民法改正「共有」のお話(5)
   民法改正「共有」のお話(6)

「共有物の管理」

 民法では「共有物の管理」に関し、3つの行為とその行為を行なうための実施要件が定められています。

共有物管理の3つの行為とは?
変更行為
 共有物に対し、物理的(&法律的)に変更を加える行為をいいます。形状又は効用の著しい変更を伴い、確定的に変更される行為(=元通りには戻せない・戻し難い行為)を含みます。
 ➡ 実施するには・・・全員一致の賛成(同意)が必要になる。

管理行為
 共有物の性質を変えない範囲内で、その利用または改良を目的とする行為をいいます。
 ➡ 実施するには・・・持分過半数の賛成(同意)が必要になる。

保存行為
 共有物の現状ないし価値を維持する行為をいいます。
 ➡ 単独で(=他の共有者の賛成や同意がなくても)実施できる。

「変更」?「管理」?どっち??

 民法に書かれてある「共有物の管理の3つの行為」・・・でも、これって机上論(理屈)だけのお話で、現場(現実)では民法が意図する目論見どおりに運用できないことが多いと思いますよ。
 現場では・・・実施したい行為が「変更行為」(全員一致)にあたるのか?「管理行為」(持分過半数)にあたるのか?具体的に明確に分類できない(=見解が分かれる)場合がほとんどだからです。

 こうした場合には・・・安全側の観点から「疑わしきは『変更行為』としておこう」と解釈するケースが殆どだと思います。(極端に言うと・・・「保存行為」以外は、全て「変更行為」として取り扱う・・・と言うこと)

 何故そうなるのか?と言うと・・・
 その行為を行った後に他の共有者から「それって『変更行為』と違うのか?私は賛成した覚えが無い!元に戻せ!」と主張されると・・・出るところに出ても勝てない(=裁判になったら勝ち目がない)からです。

 こうなると・・・共有者の全員一致による決定が難しい場合は、新たなことは何も実施できないという問題が生じます。
 こうした事態を踏まえて、国は共有物の円滑な利用・管理を可能にする必要があると考えたようです。

「改正民法」で明確化されたこと

 改正民法では、「軽微変更」、「占有者の変更」、「管理者の選任」、「短期使用権の設定」について、持分過半数で実施できることを明確化されました。

「軽微変更」とは?

 共有物の形状または効用に著しい変更を伴わない変更行為を言います。民法にそれまでなかった「軽微」という区分ができて、現場的には相当にやり易くなりそうに思います。

 「軽微変更」は、区分所有法には出てくる表現で、「軽微」じゃない変更を「重大変更」と言うのだけれど・・・ほとんどの変更は「軽微変更」と考えて良さげなので、共有物の管理が飛躍的にやり易くなると思います。

 「軽微」という区分ができたことで・・・例えば、機械式駐車場設備のパレットを塗装したり駆動モーターやチェーン等を交換するのも過半の賛成でOKと判断できそうに思います。
 これは・・・画期的!です。

「占有者の変更」とは?

 「占有者」とは、その共有物を独占的に(自分の物のように)使用する人を指します。例えば「賃借人」等がそれにあたります。
 「占有者の変更も変更行為に違いないから、全員合意が必要!」という解釈を明確に廃し、過半数でOK!ということになります。

「管理者の選任」とは?

 「管理者」とは、共有者の代理として、その共有物の管理を行なう者を言います。
 分譲マンションの管理には「区分所有法」という特別法が整備されていますが、分譲マンション以外の共有物には、そんな細かな規定(法律)はありません。(「民法」だけです)
 以下に区分所有法に書かれた「管理者」の条文を記述しますが、機械式駐車場設備の管理者も(ある程度は)これに準じて管理を行なう合意形成ができそうだな、と思いました。(「民法」には「規約」とか「集会」とか出て来んけど・・・)

 区分所有法の条文を以下のとおり・・・一応まとめたけど、ややこしいとか難しいと思ったら、パスしてもらってOK牧場!(笑)

「区分所有法」に記載されている「管理者」に関する条文集
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる。(25条)

管理者は、共用部分や建物の敷地及び附属施設を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。(26条1項)

管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。共用部分の損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても区分所有者を代理する。(26条2項)

管理者は、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。(26条4項)

管理者は、集会を招集する権利を持ち(34条1項)、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。(43条)

規約、議事録等の書面を保管し、利害関係者からの請求があれば、閲覧を拒んではならない。(33条1項・2項)

「短期使用権の設定」とは?

 「民法」では、土地は5年以内、建物は3年以内の賃貸借を「短期賃貸借」と定めています。(602条)

 「賃貸借」ではなく「使用権」という表現なので「賃貸借」に限らん・・・ということなのでしょう。
 いずれにしても短期間だったら、その影響が限定的で重大ではないから、「過半数の賛成で良い!」ということが明確化されます。(現場的には・・・これもホントありがたい!!)

 実はこれまでも・・・共有物の賃貸借契約の解除や賃貸借契約の締結は、共有物の「管理行為」とされています。(そういう判例がある)

 ところが!他の判例(=東京地裁の平成14年11月25日の判決)があるものだから・・・

東京地裁の平成14年11月25日の判決内容
共有建物につき借地借家法の適用を受ける賃貸借契約を締結する場合には、その期間が民法六○二条所定の期間を超えないときであっても、共有持分権の過半数によって決することが不当とはいえない事情があるときを除き、共有者全員の同意が必要である。

 「現行民法」下では「(短期であっても)全員合意でした方が安全」という解釈で運用されていました。  (つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?