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マンションの罹災時の備え(4)

 前回は、建物の「耐震性能」について、「耐震基準」という観点から考えました。今回は、その続きです。(写真のビルは、2018年に解体された横浜市の「長者町八丁目共同ビル」です。たぶん1950年代に建設されたと思います。驚くほど華奢(きゃしゃ)な造りです・・・)

本シリーズのブログはこちら
  
マンションの罹災時の備え(1)
  マンションの罹災時の備え(2)
  マンションの罹災時の備え(3)

昨日(2022/3/18)のWEBセミナー

 うちのNPOでは、細々ながら・・・正会員が講師になって月に1回「オンラインセミナー」を開催しています。
 3月18日に開催されたセミナーは、建築士の小池康弘さんによる「旧耐震基準の建物(マンション)と新耐震基準の建物(マンション)の違いついて」でした。

「新耐震基準」?「旧耐震基準」?

 「新耐震基準の建物」とは、1981年6月以降に「建築確認」(=建物建設する前に必要な行政のチェック)を取った建物のことを言います。
 そして「旧耐震基準の建物」は、それ以前に「建築確認」を取った建物のことを言います。

 2020年に国土交通省より発表されたマンションのストックデータによると・・・日本全国のマンションの総戸数は約675.3万戸で、その内「旧耐震基準の建物」は、約103万戸のようです。

 「旧耐震基準の建物」は耐震性能が低いから、(莫大なコストがかかりそうな)耐震改修をして耐震強度を向上させるか、それとも取り壊すかしないと危険!という空気があり、(全国で2番目に貧乏な地方自治体である)京都市でも・・・ここ数年で市役所や区役所、小中学校等の建て替えや改修が進んでいます。

同じ「旧耐震基準」でも・・・

 さて・・・小池さんのセミナーのお話です。(「まくら」が長い!(笑))

 小池のセミナーで印象的だったのは、「旧耐震基準」といっても・・・1971年以前の基準と1971年~1981年(=現在の「新耐震基準」ができるまで)の基準には、その耐震性能に大きな違いがある!ということです。
 
 小池さんは、阪神淡路大震災時によって壊れた建物の損傷程度を示すデータが示され・・・セミナーでは、1971年以前の耐震基準建物と1971年~1981年耐震基準建物の違いを解説されました。

 ちなみに・・・1971年以降の「旧耐震基準の建物」と「新耐震基準の建物」の損傷データには、ほとんど(というか全く)差がありませんでした。

 例えば双方ともに大破した建物の割合は6%でしたし、むしろ・・・小破や中破の割合では「新耐震基準の建物」より良かったかも?
 地震による被害は、建物が建つ地盤の状況が大きく影響するので・・・こうした結果はあり得ると思いますが・・・
 それでも小池さんは・・・「新耐震基準の建物で大破した建物が6%あるのは不思議」とおっしゃっていました。(この話を聴きながら・・・「それは手抜き工事された建物と違うの?」と思ったのは、私だけ?(笑))

「分譲マンションストック戸数」雑感

 上記は、国土交通省が2020年に集計されたデータのグラフです。(いつものことながら・・・)少し脱線するかもしれませんが(笑)、このグラフを見て思ったことをお話したいと思います。

マンション戸数=基本的に右肩上がり

 2008年(平成20年)までマンションの戸数は、基本的に右肩上がりで加速度に増加しています。
 2008年に何があったかというと・・・「リーマンショック」(世界的規模の金融危機によって経済がぐちゃぐちゃになった事件)です。
 それ以降は「少子高齢化」による全国的な(マクロ的な)住宅需要の低迷によって低空飛行が続いています。(といっても都心部とかプライオリティの高いマンションの需要はあると思います。京都市ではマンションに限りませんが・・・不動産の高騰が続いているみたいです)

 それなのに・・・1975年(昭和50年)~1976年(昭和51年)と1983年(昭和58年)の竣工戸数に落ち込みが見られます。これは何故か?

「耐震基準」変更が影響?

 マンションって「建築確認」が下りてから竣工するまでに少なくとも2~3年は必要です。もちろん規模にも因りますけど・・・
 小池さんのセミナーによると・・・「耐震基準」の変更があったのは、1971年と1981年です。
 これって明らか「駆け込み」ですよね。小池さんもその点を話されていて「耐震基準」が変更されると(鉄筋が太くなったり、本数も増えたりするので)建築コストが高くなったり、建築設計の自由度が低くなるそうです。

 小池さんによると・・・大手のゼネコン(=建設会社)等は「耐震基準」の変更が施行される前であっても、建物を(将来の)新しい「耐震基準」で設計し建設されていたそうです。
 以前にお話ししたかもしれませんが・・・「建築基準法」とは「最低基準」を定めた法律なのでより厳しい新基準で設計施工しても(建築コストや時間以外に)何の問題も生じません。

 でもまあ・・・そんなプライドを持った仕事をする(できる?)のは、一部の大手ゼネコンだけで・・・建築業界もやっぱりコストが優先する世界なのだと思います。
 建設会社も施主(マンションの場合はデベロッパー)あっての事業なので、そこは仕方のないところでしょう。

 ただ「新耐震基準の建物」だと思って、例えば1985年竣工のマンションを買ったが・・・実は「旧耐震基準の建物」だった!ということはあり得ます。
 個人の主観ですが・・・敢えて「旧耐震基準」で建築確認が為された1981年後半竣工のマンションって、コスト最優先過ぎて・・・その他にも何か手抜きとかありそうみたいに、ちょっと思えてしまうかも?

「耐震基準」のチェックはどうする?

 正直なところ・・・1971年の「耐震基準」のチェック(対象は1974年(昭和49年)までの竣工マンション:ストック数は44万戸)は、難しいと思います。建物の図面である「竣工図書」(その中の「構造図」)を見る人が見れば分かると思いますが、1971年以前の「旧旧耐震基準」も以降の「旧耐震基準」同じ「旧耐震基準の建物」に分類されるからです。

 でも1981年の「新耐震基準」か「旧耐震基準」かは、明確に分かります。
 マンション購入時に不動産会社の宅建士が購入者(買主)に書面を発行して行わなければならない「重要事項説明」にその旨が記載されているからです。なお「重要事項説明」には、「旧耐震基準の建物」であった場合は、「耐震診断実施の有無」を記載(通知)しなければならないことになっているからです。
 ただ・・・ここでも、1981年6月以前に建築確認を行って建設された建物の中で、先駆けて「新耐震基準」で設計し申告された建物については、「重要事項説明」では「旧耐震基準の建物」に分類されてしまうと思うので・・・確認できません。
 これも「構造図」を見る人が見れば分かると思いますが、こちらについては「耐震診断」しないと確定しないかもしれません。

 今回はここまで!
 次回は1971年前後の「耐震基準」の違いについて、お話したいと思います。  (つづく



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