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もう1年②

8月の始めに実家から自分の家に帰った、とはいえ、私の実家は自転車で10分もかからない場所にある。中旬にも2日連続に遊びに行って、気分転換させてもらっていた。

月末に、母から電話がかかってきた。父が認知症になったかもしれない。ここ数日様子がおかしい、買い物に出かけても何も買わずに帰ってくる、テレビの操作がわからなくなったみたいだ、という内容だった。にわかに信じがたかった。何故なら父は、暇つぶしに毎日ナンプレを何年も続けているような人である。しかし心配なので次の日に父のスマホに電話をかけた。お母さんに代わって、と言うと普通にああ、と受け答え、2階にいる母を呼ぶ声が電話越しに聞こえてきた。しかし、母は気づかないようでなかなか出ない。そのうち、父が母を呼ぶ声が聞こえなくなった。次に聞こえたのは慌てた母の声だった。「お父さん、おしっこ出ちゃった?」

これは只事ではないぞと、夫に子供たちを頼み、実家へ急行した。母の話によると、わたしからの電話のことをじきに忘れ、煙草を吸おうとしたがトイレに行きたくなり、でも間に合わなかった、とのことだった。とりあえずおむつが必要だと、急いで買いに行った途中、兄から電話がかかってきた。ことの顛末を話すと、もしかしたら認知症じゃないかもしれないから救急車を呼んだほうがいいかもしれないと言われた。
家に帰ると、トイレに行きたいと父がまたいうので母と私で連れて行ったが、右半身が言うことを聞かないようで、トイレで倒れ込んでしまった。濡れた衣服を着替えさせようとズボンを差し出したら、父は何度行っても腕から着ようとしていた。その様子を見て、母も私も泣いた。そして、泣きながら救急車を呼んだ。

救急車の中で、ぼんやりしている父にわたしは話しかけた。「お父さん、ヨウコだよ。わかる?」「わかるよ。」と苦笑いをして答えた父のことが、未だに忘れられない。

病院で検査した結果、脳腫瘍だった。手術するにはもう手遅れで、数ヶ月単位で進行して行くでしょうとのこと。つまり、余命は1年もないということだ。続く。
(写真は、父と下の娘が相撲観戦をしている様子。上の娘はカメラ目線。そろそろ療養を終えて帰ろうと考えている頃。)

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