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セネカ読書案内【基本編】

【導入編】では、現代日本の作家、哲学者による、セネカをおすすめする書籍を紹介しました。
今回は【基本編】として、いよいよ、セネカ師匠本人の著作について、初めて読む方におすすめの本を紹介していきます。

セネカといえば、まずは『人生の短さについて』でしょ?いちばん有名だし。……しかし、お待ち下さい!これには岩波版と、光文社の新訳版があり、訳文の違いだけでなく、それぞれ三作品が入っているものの、うち一作品は異なるタイトル・内容のものなんです。

 ◆セネカの人気本 新訳vs岩波版◆

㈠ 人生の短さについて

こちらは、
①人生の短さについて
②母ヘルウィアへのなぐさめ
③心の安定について の、三本立てとなっております。

①は、ストア派だけにストイック。死ぬ間際になってから人生短いわ〜とか言うても、それはアンタが浪費してるからやわ!と、ビシビシ責め立てられて、刺さります。

②は、セネカがコルシカ島に追放されたとき、お母さんに書いた手紙。内容は、
「心配ないよ、僕は追放されていても幸福なままです。お母さんも悲しみを克服して。あなたはすばらしい女性です。愛する人たちと学問が支えてくれますよ」みたいな感じ。
なんてまっすぐないい子なのかしら♡(このときセネカ四十歳だけど)

最初の①が基本とすると、③は応用編。いや、理想と現実か。年下の青年からのお悩み相談に答えるという、これも手紙形式の文章。仕事の選び方、やり方、疲れちゃったらどうする?等々、いまのビジネス書にしてもいいような、即、役に立つこと間違いなしの内容です。

新訳でとても読みやすいため、最初はこちらをおすすめします。
じゃあ、別に新訳だけ読めばよくね?と思います?
先述の通り、別の作品が入っている、という以外に、あえて古いほうの訳で読む理由があります。その理由とは…なんといっても語調がカッコイイからです。中二病と言うならお言いなさい。

たとえば、タイトルにもなっている『人生の短さについて』と『生の短さについて』。もちろん内容は同じですが、一部を読み比べてみますね。

あなたたちは、どんなことでも、死すべき人間のように恐れる。そのくせ、どんなことでも、不死なる神のように欲するのだ。

『人生の短さについて』光文社古典新訳文庫

対する旧訳は、こちら。

人は皆、あたかも死すべきもののようにすべてを恐れ、あたかも不死のものであるかのようにすべてを望む。

『生の短さについて』岩波文庫

カッコイイでしょ?
もともとはラテン語の対句表現なのでしょう。
いくら格調高くてカッコイイとはいえ、いきなりこの調子で全文読むのはちょっとキツイので、新訳で内容を把握したのち、岩波版に進むと、より楽しめると思います。
では次に、岩波のほうを。


㈡ 生の短さについて

①生の短さについて
②心の平静について
③幸福な生について、の新たな三本立て。

①、②は、新訳のほうで既読ですね。
『心の平静』と『心の安定』、訳しかたが異なりますが、同じ作品です。

③が、また味わい深いのですが、なんとなくセネカの雰囲気がつかめてきたこのタイミングで読むのが分かりやすいと思います。
ストア派の考え方を説明してくれていて、ふーん、と思って読んでいたら、なんか途中から急にキレだすセネカ師匠。

君たちは言う、「あの男は、哲学の徒でありながら、なぜあれほど金持ちの生活を送っているのだ。財産は軽蔑すべきものと言いながら財産をもち、生は軽蔑すべきものとみなしながら生き、(中略)時間の長短には何の相違もないと断じながら、妨げがなければ、長寿に努め、高齢になっても心穏やかで元気であろうとするのはなぜなのだ。」と。

『幸福な生について』

えーと、つまり、なんだかんだ言って成功者であったセネカ師匠なので、周りの妬みを買って、いろいろと言い掛かりをつけられていたわけです。で、それに反論し始めるという。

「いやいや、私、べつに財産が悪いとは言ってませんよ?むしろ、賢者は持ってたほうがいいのよ」(オイオイ)みたいな感じで畳みかけていくので、ほうほう、そのなのね(笑)、って感じで読みましょう。
で、ラスト、自分を批判してくる輩に対して、不気味な呪いめいた記述をしているところも、読みどころです。(あなた、地獄に落ちるわよ!みたいな。)
清貧なイメージを白セネカとすると、これは黒セネカ、ですね。良き良き。

いかがでしょうか。ぜひ、読み比べてみてください。
では次回、【応用編】にて。お元気で。

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