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【ほぼ全投手・早口】ホークアイデータを利用したヤクルト投手陣分析

 こんにちはこんばんは、おはようございますを必要に応じて置き換えて下さい、TJです。長い長い冬眠から目覚めました。スピーチと左投げのアンダースローはながい方がいいんでしたっけ。noteが短い方がいいのは分かっているんですが、冒頭ここのしょうもない文章を書かないとやる気がひとつも湧かないので勘弁して下さい。ぼくはこのロジックで冒頭のしょうもない文章だけが生成された下書きを30本持っています。焼き鳥を、茹でたいなあ。

 さて、寝てばっかりのわたしが久々にキーを叩くきっかけになった出来事はこれです。

 端的に言えば「球団所属選手の投球・打球に関するトラッキングデータのサマリーを一部無料公開しますよ~」ってことです。ヤバくないですか?遂に我々パンピーにもトラッキングシステムを用いて取得されたデータに触る機会が訪れたわけです。当アカウントでは、中央(連盟)の持つ権限の相対的な弱さや、トラッキングシステムの導入状況の非対称性を挙げ、NPBにおけるデータのオープン化の難しさを議論してきました。

 詳細はリンクを貼ったnoteをナナメ読みしていいねを30回押して頂ければありがたいのですが、要約すると「1球団がトラッキングシステムを導入していない、すなわち全球団一律での情報公開が行えない状況においては、一般人のデータ分析の恩恵にあずかるメリットよりもライバル球団にデータを抜かれる心配が上回ることになる」という事実が公開の大きな障壁になっている、ということです。

 このnoteの執筆時点ではまだスワローズもトラックマンを使用していて、昨年ホークアイを導入してトラックマンのデータ共有プールを外れてしまったことはむしろこの非対称性の流れを加速する、すなわちデータ公開をますます遠ざけてしまうイベントになりうるのかなと個人的に予想していました。

 そんな中で飛び込んできたのが上述の発表。集計データでこそあるものの、球速から変化量、リリースポイントに至るまで様々な情報を網羅した資料を公開したことは、広く日本におけるスポーツのデータ分析の発展を大きく後押しする第一歩とみて間違いないでしょう。スワローズの英断にただただ拍手を送るのみです。ぼくがNPB球団に入団が決まった外国人選手なら「公開が決まって非常にエキサイトしている。Twitterの野球オタクは狂信的だと聞いている」とコメントを出していたところです。

 そういうわけで、今回はこの公開されたデータのうち、投手のものを使った選手別ペラペラ分析をやってみようと思います。物理一つも分かりませんで売っているアカウントなので、解釈の誤りなどあれば是非@11_tjrまで苦情をお寄せ下さい。匿名の方がいいぞって方は質問箱へどうぞ。

 各投手のデータは球団公式サイトの個人成績欄に公開されています。できるだけ早く完成させたい関係上(もうそこそこ時間経ったよ)グラフィック軽視でバンバン文字を書いていくので、綺麗なレイアウトが見たいぞって方はこちらをご参照下さい。全体の平均以外の項は各投手ほぼ独立して読めるようになっているので、気になる投手だけでもご一読頂ければ。

 コメントは2020年、もしくは2021年に神宮球場での一軍登板がある投手に限定。また、今季限りでの退団が既に決まっており、かつ現役引退を表明している投手についてもコメントを省略しています。

全体・注意事項

 まずは全投手の集計データを確認し、各投手を見る際の基準値を作りましょう。注意すべき点としては、左投手の平均が7人のそれで構成されたものであるため、個々の投手としての特性が強く反映されやすいことが考えられます。また左右共通の注意事項として、算出された平均値が(恐らく)投球レベルで集計された(=投手ごとの平均を平均したものではない)ため、球数の多い先発投手のデータに比較的大きなウエイトが掛かったものである可能性が高いという点に留意する必要がありそうです。

 また、データはスワローズの本拠地である神宮球場で計測されたもののみを含むので、当然ながら他球場と比較した神宮球場の特性を議論することはできません。マウンドの傾斜にクセがあり、BABIPこそ低いものの、三振・本塁打という投手の実力と強く相関するプレーのPFパークファクターが平均から大きく乖離している球場だけに、この球場特有の要素が計測値に影響を与えている可能性は否定できないでしょう。

右投手
・球速: 147.1km/h
・終速: 134.7km/h
・回転数: 2288rpm
・回転角度: 208.0°
・縦変化量: 49.2cm
・横変化量: 25.2cm
・リリースポイント高さ: 1.74m
・リリースポイント横: 0.75m
・エクステンション: 1.97m

左投手
・球速: 142.7km/h
・終速: 130.4km/h
・回転数: 2296rpm
・回転角度: 135.0°
・縦変化量: 42.1cm
・横変化量: -35.6cm
・リリースポイント高さ: 1.58m
・リリースポイント横: -0.64m
・エクステンション: 1.88m

 左右の全投球を比較しただけで結構な差が出ました(横変化量、リリースサイドリリースポイント横は左右反転する項目のため、それぞれ(-1)を掛けて比較します)。球速差はおよそ5km/hで「左は右より遅くても一軍で通用する」という通説をそのまま表すような値。「スピードガンは右投手の初速を計測しやすい位置に取り付けられているため、左の方が数字が出にくい傾向がある」といった言説もありますが、より精密な測定機器を用いたとしても、一見すると左右の球速差は存在しているように見えます

 しかし、その他の数字を見ると、右投手よりも左投手のリリース高さが16cmも低く、投球のシュート成分横変化量も左のそれが大きくなっています。また、スワローズはリーグ有数の低身長投手であるベテラン石川投手が90弱のイニングを消化しており、彼一人の存在で平均球速が大きく引き下げられている可能性も高いでしょう。一般的に球速と相関すると言われる投球のスピンレート回転数が左右でほぼ同じ、むしろ左の方が高いという結果が出ているのも気になります。これらを勘案すると、「左は遅くても~」というよりは、「プロレベルまで上がってくる左投手には、共通して表れやすいメカニクスの特性・持ち球の傾向などがあり、これらが球速を補う要素として機能している」という解釈が適当だと思います。滑りにくいというNPB公認球の影響か、全体の平均にもやや異なる部分があるため、MLBのデータについても、単純な比較を行うことは現状避けた方が良いように思われます(🦏スニード投手の項でも触れます)。

 それからこれはあくまで直感ですが、右投手のフォーシームのホップ成分縦変化量については、スワローズのチーム平均そのものがNPB全体と比較して高めのランクに位置している可能性が高いのではないかと思います。個々人のコメント欄でも触れますが、今季のスワローズはサイスニード投手や小川泰弘投手、高梨裕稔投手や金久保優斗投手など、右の先発投手にホップ型のフォーシームを投げる投手が多く在籍しています。左右差の部分でも触れたように、先発は相対的に多くの球数を投げるため、彼らの球質がチーム平均を引っ張り上げ、結果高いホップ成分を持つ投手の長所が見えづらくなっている可能性があるというわけです。投手陣の編成には当然チームのスカウティングのカラーが出るため、似たタイプを評価して起用しやすいというバイアスも掛かっていると考えた方がいいと思います。このあたりは、1球団のみがデータを公開している現状の限界と言えるでしょう。

#11 奥川恭伸Y.Okugawa

データはこちらから

ピックアップデータ:球速147.7km/h, ホップ43.5cm, シュート34.9cm

ポイント!
・ホップ成分の時系列的な変化

 甲子園で一人プロが投げていると言われていた(ぼくが言ってました)奥川投手。2年目の今季は中10日の縛り(レギュラーシーズンでは1度だけ中9で登板)を設けながらも1年間ローテを守り、105イニングを投げて9勝を挙げる活躍。広島の栗林投手、横浜DeNAの牧選手と並んで新人王候補に名を連ねています。

 そんな奥川投手ですが、フォーシームの球速はちょうどチーム平均程度。シュート成分横変化量が平均より10cm程度高い点は特徴的ですが、一方でホップ成分は43cmと、平均より6cm程度低い値。「高校年代においてはアドバンテージになっていたホップ成分が、プロレベルでは平均程度に落ち着く」というBaseball Geeksのこちらの記事の予測に近い状況であるとも言えます。

 ところが、実際のスタッツを見てみると、奥川投手の今季の奪三振数は91、与四球はわずか10。K-BB%三振比率と四球比率の差は脅威の19.6で、シーズン通して抜群の安定感を見せていました。鋭く落ちるスプリット、パワーカーブに近い軌道で空振りを取れるスライダーにいわゆるスラッター球質のカットボールと多彩な球種を操る点も魅力的ですが、球質に図抜けたものがなくともそれを補うことができるコマンド制球力など、フォーシームにもこれらのトラッキングデータに表れない特長が隠されている可能性もありそうです。

 もう一つ気になったのは試合別のトラッキングデータ。こちらを見ると、4月は40cm台後半を叩き出していたフォーシームのホップ成分が徐々に下がり、9月、10月には40cm程度まで減少しています。リリースポイントやシュート成分・回転角度が変わらないままホップ成分のみが減少し、球速やスピンレートはむしろ上昇傾向にあったことを勘案すると、個人的にはSpin Efficiency 回転効率の低下がこの変化に関係しているのではないかと推測します。

 パフォーマンスよりも故障リスク管理の優先が明らかな運用で始まった奥川投手の今シーズンですが、優勝争いが激化する中でその舞台はカード頭などの重要な場面に移っていきました。結果リリースでの出力が上昇、球速が上がった一方で投球にジャイロ回転の要素が入るようになり、スピンレートがホップ成分に変換されにくい球質に変化してしまっていたのではないでしょうか。もちろん本人もこの変化に気付いているでしょうし、改善に向けたアプローチも進んでいると思われますが、ここは来季も注目すべきポイントと言えそうです。

 背番号順に並べたらみんな絶対ここだけ読んでやめちゃうじゃん、もっと工夫をしなさいよ。

【追記】エクステンションに言及するのを忘れました。めちゃくちゃ長いです。「これらのトラッキングデータに表れない特長」の一つだと思います。

#12 石山泰稚T.Ishiyama

データはこちらから

ピックアップデータ:ホップ48.6cm, シュート28.6cm, 回転角度212.2°
ポイント!
・回転軸の傾き、シュート成分の変化

 ここからはできるだけサラッと書いていきます奥川のテンションで全員分書いてたら完成までに村上が引退しちゃう

 最下位のチームにあって20セーブに到達、復活を果たした2020年と比較すると、勝負所での失点が目立ってやや物足りない数字に終わった石山投手。トラッキングデータからは、2020年のシュート成分24.0cmに対し、今季のそれは28.6cmと、ややシュート気味の球質に変化していることが分かります。原因は回転角度の変化で、同じく2020年に208.8°だったそれが今季は212°へ、すなわちよりシュート回転方向に軸が倒れていました。

 この傾向は登板ごとのデータで見るとより顕著に表れており、特に10月にはホップ成分の平均が40cm台中盤にまで落ち込み、リリースポイントもやや横振り気味に変わって空振りを奪うのが難しい球質になっていたと推測されます。この間球速にはほとんど変動がなかったことを考えると、これはトラッキングデータなしには知ることができなかった情報ではないかと思います。この辺は奥川投手の球質変化とも似たもので、長いシーズンの中でどの選手にも起こりうる現象なのかも知れませんね。縦振りのリリースでボールの下を振らせるフォーシームが持ち味の一つである石山投手にあって、ホップ成分の改善は来季の再復活に向けたキーであると言えそうです。

 余談ですが、チーム平均の項で書いた「右のホップ成分出過ぎじゃないか」っていう話は石山投手の数字を見て付け足しました。感覚とデータとの乖離に都合のいい説明を付けようとするのはあまりよろしくない気がしますが、あくまで可能性の一つということで。

#14 高梨裕稔H.Takanashi

データはこちらから

ピックアップデータ:平均球速143.9km/h, スピンレート2384rpm, ホップ50.9cm, シュート29.9cm
ポイント!
・球速の割に高いスピンレート、落ち球が活きるシュートライズ型

 日本ハムからトレード移籍して3年目のシーズンを迎えた高梨投手。ソフトバンク・千賀投手のそれに近いジャイロフォークと縦に割れるカーブが印象的な投手ですが、近年はスプリットの投げ分けやカッターなどの中間球も習得し、2021年は移籍後ベストと言える成績でレギュラーシーズンを終えました。

 そんな高梨投手のフォーシームの最大の特徴は高いホップ成分。球速はチーム平均を下回る143.9km/hに止まる一方、スピンレートは逆に平均を上回る2384rpmを記録。投球の回転を高いSpin Efficiencyでリリースすることを意識し、シュート成分が増えることをいとわずとにかく変化量を増やす、いわゆるシュートライズ型の速球と言えます。速球のホップ成分は変化球を投げる際のいわゆる曲げしろの拡大にもつながり、ジャイロ回転を利用することでよりフォーシームに近い球速で大きな(体感上の)落ち幅を実現できる可能性も高いと思います。

#15 バンデンハークR. van den Hurk

データはこちらから

ピックアップデータ:リリース高さ1.94m, エクステンション2.14m
ポイント!
・体格によるリリースポイントの平均からの逸脱は有効か?

 残念ながらシーズン途中で退団が決まったバンデンハーク投手。神宮での登板も1試合に止まったため、そこから何かしらを語ろうとするのは難しいでしょう。ポイントの欄にも書いた通り、バンデンハーク投手はリリースの高さ、エクステンションともにチーム平均から大きく逸脱していますが、これは195cmある彼の身長に起因するもので、単に平均値から離れることが必ずしもいい結果を生むわけではないという例なのかも知れません。

#16 原樹理J.Hara

データはこちらから

ピックアップデータ:ホップ43.0cm, シュート28.7cm, リリースサイド0.27m
ポイント!
・シュート質の変化、プレート踏む位置変えた?

 和製Corey Kluberの異名を取ると聞いている原投手。今季はシーズン終盤に先発ローテに定着し、9先発で3勝を挙げる活躍を見せましたが、K%奪三振/打者は12.6%、BB%与四球/打者6.0%と、毎年100IPイニング前後を投げていた2017年~2019年頃と比較するとなかなか三振の奪えないシーズンが続いています。それでも、BABIPインプレー打率の低い神宮球場にあって、シュートと横変化の大きなスライダー、チェンジアップなどの多彩な変化球で長打を避ける投球は効果的だったようで、今季は47IPを投げて被本塁打がゼロでした。

 フォーシームの割合が低目の原投手ですが、一方でシュートやカッターに変化量の差を作る基準になるのもまたフォーシーム。トラッキングデータを見ると、その球質には2020年と比較しても明らかな差が生まれていることが分かります。球速、スピンレートが前年とほぼ変わらないのに対し、変化量はややホップ成分が落ちてシュート成分が8.7cmも増加。端的に言えば生命線であるシュートとの軌道偽装に主眼を置いた修正が進んでいると言えるのではないでしょうか。横変化量をシュート・ツーシームに寄せることができれば、シュートをスプリットのように縦に落ちる球種として空振りを奪ったり、質の低いコンタクトに繋げられる可能性があります。

 また、もう一点注目したいのはリリースサイドリリースポイント横が前年に比べて30cm近くも一塁側に寄っていること。高さとエクステンションは変わっていないので、恐らくプレートを踏む位置を一塁側に修正しているのでしょう。シュートする速球を一塁側から投げ入れることで、右打者のバックドア外角のボールからゾーンに入るボールに入れてストライクを取る、阪神の西勇輝投手のような投球をイメージしているのかも知れません。

#17 清水昇N.Shimizu

データはこちらから

ピックアップデータ:平均球速146.5km/h, ホップ51.1cm, リリース高さ1.64m, リリースサイド0.27m
ポイント!
・ツーシームの落ちしろを確保したホップ系、勤続疲労は?

 2年連続で圧巻の成績を挙げ、リーグ優勝チームのブルペンを支えた鉄腕清水投手。そのフォーシームは球速こそチーム平均と比較して突出したものではありませんが、51cmのホップ成分・23cmのシュート成分はシュートせず縦にホップする、いわゆる純ホップ型の球質であることを明らかにしています。この特徴は67.2IPで74もの三振を奪った一方で、ルーキーイヤーから一貫してやや被本塁打が多めのスタッツにも見え隠れしていると言えるでしょう。2年目以降の与四球率の劇的な改善は、高いホップ成分をから縦変化量に差を作るツーシーム・スプリットで対戦打者のSwing%も上昇したことが関係しているのかも知れません。

 唯一不安なのは勤続疲労。登板間で変化量に多少ムラがあるため奥川投手や石山投手ほどはっきりした傾向ではありませんが、シーズン終盤にややホップ成分が低下しています。シーズンが佳境に入るに従って球速が伸びてきているのも同様で、来季以降どのように球質が変化していくかは注目しておく必要がありそうです。

#18 △寺島成輝N.Terashima

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ピックアップデータ:平均球速140.5km/h, ホップ46.9cm, シュート17.9cm
ポイント!
・遅いが縦回転の特徴的なフォーシーム、コマンドの改善とも隣り合わせ?

 30試合に登板して27奪三振を記録した2020年から一転、今季は僅か1試合の登板に止まった寺島投手。トラッキングデータを見ると、変化量には凌年度間で大きな差がなく、チーム平均を6cm近く上回るホップ成分、逆に平均を18cmほど下回る小さなシュート成分を持つ純ホップ型の球質が維持されていることが分かります。

 一方、気になるのは球速とスピンレートの低下。球速は前年の平均と比較しておよそ1.5km/h、スピンレートについては180近い数字の低下。いかんせん投げたのが1試合のみなのでたまたま状態が良くなかった可能性もありますが、もしこれが長期的な傾向なのであれば、球速の回復は1軍のマウンドに返り咲くための必須科目と言えるでしょう。同時に、バックスピンのフォーシームが秘める高い奪三振能力を最大限に生かすため、振ってもらえる変化球を増やすなどの方法でコントロールストライクを取る能力の改善にも取り組みたいところです。

#19 △石川雅規M.Ishikawa

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ピックアップデータ:平均球速134.1km/h, ホップ31.6cm, シュート44.9cm, スピンレート2245rpm
ポイント!
・誰の参考にもならない唯一無二のフォーシーム

 言わずと知れたレジェンド。今季もERA防御率3点台、K/BB3オーバーで82IPを食う安定感は健在でした。

 石川投手のトラッキングデータは、正直1球種だけでは参考にならないというのが正直なところ。平均より10km/h近く遅い球速、にもかかわらず平均に近い水準をマークするスピンレートとそれに裏打ちされた低ホップ・高シュート型の球質はいずれも特徴的ですが、彼の投球は投げ間違いをゾーンの中に入れないコマンドや、打者にスイングをさせない変化球、大きく落ちる生命線のシンカーなど、(公開されている)トラッキングデータからは読み取れない様々な要素が絶妙なバランスで組み合わさることで成立しています。従って、彼のデータから導き出される結論は「球速が遅いから抑えられる」ではなく、「遅くても抑えられる石川投手が凄い」であるべきでしょう。今後のデータ公開の進展で、我々にもその秘密を探るヒントが提示されるかも知れません。

#24 星知弥T.Hoshi

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ピックアップデータ:ホップ54.1cm, シュート18.7cm, スピンレート2326rpm
ポイント!
・同僚今野に比肩する純ホップ型、強い曲がり球の取得で来季大ブレイクも?

 各投手の数字を眺めて、最も興味を惹かれた投手の1人One of the most interesting pitchersがこの星投手です。今季はリリーフで24イニングを投げ、防御率こそ4点台だったものの、28奪三振と高い三振奪取能力を発揮。前年までの課題だった制球力についても、通算BB/99イニングあたりの与四球数4.76に対し、今季は4.06と改善の兆しが見えました。

 空振りを量産したスプリットと併せて、星投手の高い奪三振能力を支えているのがフォーシーム。ホップ成分はチームトップクラスの54.1cm、横変化も小さい純ホップ型は典型的な空振りの取れる球質。スピンレートをマグヌス力に変換する効率を示すSpin Efficiencyも気になるところですが、これは更なるデータ公開を待つしかないですね。登板間での変化量のブレも小さく、スプリットと対になるスラット系の球種を習得できれば、来季以降リリーフ、先発の両面で一気にブレイクする可能性を秘めた投手であると言ってもいいのではないでしょうか。

#26 △坂本光士郎K.Sakamoto

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ピックアップデータ:ホップ44.5cm, シュート35.1cm, スピンレート2443rpm, エクステンション1.96m
ポイント!
・長めのエクステンション、シュート気味の球質

 坂本投手はキャリアハイの36試合に登板し、左よりも右を抑えるサウスポーとしてリーグ優勝に貢献。

 リリースは平均より下に6cm、一塁側に8cmズレており、感覚的にはやや低く、横からボールを放すタイプ。前屈み気味のセットポジションで始動からリリースまでのフォームにも速さがあるため、トラッキングデータ以上に変則の印象を与えやすいと思います。エクステンションリリース前後もチーム平均より8cmほど打者側にあるので、打者としては低めの位置から突然ボールが現れるような感覚になるのではないでしょうか。

 特徴的なリリースに対して、変化量は平均に近い数字が並んでいますが、横振りに見えるフォームからややホップ気味ぐらいの球質のフォーシームを投げることは、むしろ打者が予想する軌道から外れたボールになる可能性が高いと考えられます。球速も146.8km/hと出力も兼ね備えているため、コマンドの改善次第では更なるパフォーマンスの向上が見込めそうです。

#28 吉田大喜D.Yoshida

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ピックアップデータ:球速145.5km/h, ホップ49.7cm, シュート23.5cm
ポイント!
・平均に近い変化量で単体では武器になりにくい球質、第二の高梨化を目指せるか?

  2年目の今季はリリーフを中心に16試合に登板するも、思うような結果を残せなかった吉田大喜投手。スプリットの質の高さが評価される一方で、カッターはやや変化量にバラつきがあり、曲がらずにゾーンに残ったボールで痛打を浴びる場面も多くありました。

 そんな吉田投手のフォーシームはチーム平均にかなり近い数字。リリーフに回ったことで昨季より平均球速を上げたものの、チーム平均よりは2km/hほど下。スワローズのチーム平均がNPB全体に比べて高い可能性を差し引いても、それ自体で高いパフォーマンスを挙げるには不十分な出力と言えそうです。アマチュア時代にはフォーシームの強さを評価する声も聞かれたように記憶しているので、前述の奥川投手のようにアマチュア時代がリーグの平均から乖離していたボールの球質がプロでは平均に近いものになり、変化球の割合を増やさざるを得なくなるなどして投球全体に悪影響を与えた可能性もありそうです。

 中継映像を観る限りは、フォーシームにジャイロ回転が混じって真っスラ気味に垂れてくる投球もある印象なので、個人的にはまずは同僚の高梨投手のようにシュート回転を厭わずSpin Efficiencyの改善を目指すアプローチが有効であるように感じます。

#29 小川泰弘Y.Ogawa

データはこちらから

ピックアップデータ:スピンレート2183rpm, ホップ51.3cm, シュート19.5cm
ポイント!
・低目のスピンレートでも十分ホップする投げ下ろし型。シュート成分は終盤に向け増加傾向

 規定投球回には届かなかったものの、今季もチーム最多のイニングを投げたエース。ライアンの異名を取る、特徴的な投げ下ろし型のリリースからも分かる通り、そのフォーシームは強いホップ成分とシュート成分の低さを両立した純ホップ型の球質であることが分かります。チーム平均を2km/h下回る球速ながら、ホップ成分は51.3cmと平均以上。毎年15~20本の本塁打を浴びながら良好なK/BBをマークしていることをそのまま表すような球質と言えると思います。綺麗なバックスピンであればスピンレートがそこまで高くなくともホップ成分は高まるという点は参考になる投手も多いでしょう。

#34 △田口麗斗K.Taguchi

データはこちらから

ピックアップデータ:ホップ44.0cm, シュート35.6cm
ポイント!
・左のチーム平均メーカー、リリーフで明らかな出力向上

 開幕直前に巨人からトレードで移籍した田口投手。初年度から先発にリリーフにとフル回転の活躍でチーム2位の100.2イニングを投げました。

 最も多くのイニングを投げた投手であることは、イコール平均値のデータが田口投手に「寄っている」ことも意味しています。今季一軍で投げたスワローズのサウスポーは僅か7人であることを考えても、平均値のデータが彼のトラッキングデータに大いに影響を受けていることは考慮しておいた方がいいでしょう。実際、田口投手のトラッキングデータは多くの項目でチーム平均に近い値を記録しています。

 その中でも注目したいのは登板ごとのデータ。開幕当初は先発で投げていた田口投手は9月ごろからリリーフに配置転換。その前後でトラッキングデータにも明らかな変化が起こっています。パッと見て明らかなのは球速で、140km/h前後をうろうろしていたのがリリーフに転向すると常時140km/h台半ばを記録するようになりました。また、シーズン当初と比べるとエクステンションが10cm近くも打者側に伸びています。巨人時代から時折明らかに力感を抜いている登板があり、先発登板時は極力出力を抑えて長いイニングを投げたいといった調整を自身で行っている可能性が高そうです。リリースの高さやリリースサイドにも数値だけではっきり分かる変化があるため、個別の分析を行う際は、その投球がどちらのフォームで投じられたボールなのかについても注意する必要がありそうです。

#35 杉山晃基K.Sugiyama

データはこちらから

ピックアップデータ:スピンレート2290rpm, ホップ37.4cm, シュート12.6cm
ポイント!
・低ホップ、低シュートの真っスラ型

 2年目の今季は念願の一軍登板を果たしたものの、6イニングで2本の本塁打を浴びるなど、思うような結果を残せなかった杉山投手。フォーシームのトラッキングデータは、彼が非常に特異な球質の持ち主であることを示しています。

 ホップ成分37.4cm, シュート成分12.6cmはいずれもチーム平均を大きく下回る数値。スピンレートは平均とそう変わらないにも拘わらず、変化量が原点(0cm, 0cm)に近いのは、投球の Spin Efficiency が低い典型的な真っスラ型の特徴です。ジャイロ成分の大きな投球は一般に空気抵抗が小さくなるとされており、実際初速と終速との差を見ると、杉山投手は球速帯の近い他の投手に比べて投球の減速幅がやや小さいことが分かります。

 真っスラ型のフォーシームは、他の投手のフォーシームとの差分でそれ自体はゴロを打たせる有効な球種になることが多い一方、スライダーなど他の球種との変化量の差を確保しにくいことから、他の持ち球のスタッツを圧迫して全体のスタッツを押し下げてしまうリスクも持ち合わせています。杉山投手についても、大きな横曲がりのスライダー、縦変化量の差を作りやすいスプリットなどと組み合わせて自らの球質に合わせたピッチデザインが必要になるでしょう。

#37 マクガフS.McGough

データはこちらから

ピックアップデータ:スピンレート2447rpm, ホップ50.1cm, シュート31.0cm
ポイント!
・来日後にスピンレート改善?球速は高めも球質はややシュート気味

 来日から3年続けて50試合以上に登板、今季は五輪にも出場してクローザーを務めたマクガフ投手。スワローズでも途中からクローザーに配置転換され、リーグ優勝に大きく貢献しました。

 そんなマクガフ投手のフォーシームはホップ成分がチーム平均付近、シュート成分がやや大きめの球質。前述したようにチーム平均が高い可能性もあるため、ホップ成分も不十分とは言えないでしょうが、例えば先発から繋いで最後に投げるピッチャーとして、前の投手からの相対的な球質の変化で見た時に、フォーシーム自体がその球速ほど大きなアドバンテージになるボールではないのかもしれません。

 また少し古いデータになりますが、MLBのトラッキングデータを公開しているサイト、Baseball Savantにはマクガフ投手が2015年にオリオールズで投げた際のトラッキングデータのサマリーが公開されています。当時はホークアイではなくトラックマンによるデータのため、測定機器の違いによる系統的な差が含まれている可能性もありますが、これによるとフォーシームのスピンレートは2285。球速が現在とほとんど変わらないにも拘らず、来日後のデータではこれが2447まで向上しています。もちろんマクガフ投手がフォームの見直しで数字を改善した可能性もありますが、このあたりはよく言われる日米のボールの違いが現れていることを考えても良さそうです。

#38 梅野雄吾Y.Umeno

データはこちらから

ピックアップデータ:ホップ57.4cm, シュート18.7cm,リリースサイド0.35m
ポイント!
・球速と両立する純ホップ型、Spin Efficiencyも改善?

 今季はここ3年で最低となる29登板に止まった一方で、防御率2.49はキャリアハイ、奪三振数も投球イニングを上回っており、安定感のあるパフォーマンスを見せた梅野投手。スラットスプリット型の投球構成で余計な与四球も少なく、特に今季は前に飛ばされてもアウトが取れる内容だったと言えそうです。

 梅野投手のフォーシームはホップ成分が非常に高く、シュートせずに真っ直ぐ吹き上がる純ホップ型。今季は2020年に比べてそのホップ成分が6cm近くも改善。球速や回転数はむしろ下がっており、回転角度についても大きな動きはないことから、投球のSpin Efficiencyがかなり改善されているのではないかと推測します。

 ヒントになりそうなのはリリースサイドで、2020年は0.48mだったそれが今季は0.35mまで(一塁側に)移動しています。リリースが縦振りになったのか、プレートの踏む位置を変えたのかは定かではありませんが(ご存知の方がいらっしゃいましたらご教示下さい)、プレートを一塁側に変えたのであれば、抜けた投球が右打者に当たる可能性が下がったことで押さえつけるようなリリースがなくなり、シュートライズ型を目指すのと同じロジックでEfficiencyが改善されるといった修正が行われていたのかもしれません。今季は登板数を落とした梅野投手ですが、来季以降もスワローズのブルペンを支える重要な戦力であることは間違いないでしょう。

#43 スアレスA.Suárez

データはこちらから

ピックアップデータ:球速151.7km/h, ホップ42.8cm, シュート29.8cm
ポイント!
・高速で動くフォーシーム、ホップ成分にはややばらつきも

 来日3年目を迎えたスアレス投手。今季は田口投手と同じく、開幕ローテ入りしながら終盤にブルペンに回り、来日初セーブを挙げるなど、痒い所に手が届く存在として優勝に貢献しました。

 スアレス投手のフォーシームはスピンレートの割にホップ成分が小さく、チーム平均よりもシュート成分が大きい球質で、我々が一般的にイメージする「外国人投手の動くボール」と言えるでしょう。回転角度はチーム平均とそう変わらないので、Spin Efficiencyは低い方なのかもしれません。

 リリーフに回った後は田口投手と同様に平均球速が向上しており、レギュラーシーズンのラストゲームでは平均155.6km/hをマーク。気になるのはその出力向上がまだ先発登板していた5月の段階で起こっている点で、単にリリーフに転向したことだけが原因でこのような変化を説明できるわけではなさそうです。また、登板ごとのデータからはホップ成分が日毎にややバラついていることも伺えます。スアレス投手はツーシーム系の球種も持っているため、どちらかを投げることがもう一方の球質に何らかの影響を及ぼしている可能性もあるでしょう。球質のみを評価すれば球種分類は不要という意見もありますが、投手がその2つの投球を別のボールと認識しているのか否かはピッチデザインにおいて重要なポイントであると思います。

#44 大西広樹H.Ohnishi

データはこちらから

ピックアップデータ:ホップ46.3cm, シュート23.0cm, リリース高さ1.82m, エクステンション1.84m
ポイント!
・球質は平均的、低身長ながら高いリリースポイント

 2年目の今季はリリーフで33試合に登板、イニング跨ぎもこなすパワーリリーフとして台頭した大西投手。トラッキングデータにはルーキーイヤーとの取り組みの違いが表れています。

 まず変わったのは球速。一軍登板のサンプルサイズが小さかったことを差し引いても、1年で3.5km/hの出力向上を達成し、一気にチーム平均を上回ってきたことは注目すべきポイントでしょう。ホップ成分はチーム平均に及ばなかったものの、同じく1年間で5cmも改善。回転軸やシュート成分にも前年との違いが見受けられ、パフォーマンスの向上に取り組んだことが伺えます。そのヒントになりそうなのはリリースポイントの変化。前年と比較すると、リリース高さが7cmほど高くなり、その代わりにエクステンションが短くなっていました。リリースポイントを早めに持ってくることで、より高い位置から投げ下ろしたいといった意図がありそうですね。

 大西投手は身長175cmと決して大柄ではないため、リリース高さがチーム平均を8cmも上回ってくるのは特徴的と言って差し支えないでしょう。先のバンデンハーク投手の項でも述べた、体格によって起こる平均からの自然な乖離ではなく、角度の面で他の投手と差別化を図るアプローチが成功したと言えます。

#47 △高橋奎二K.Takahashi

データはこちらから

ピックアップデータ:球速148.1km/h, スピンレート2401rpm, ホップ46.2cm
ポイント!
・チーム内で頭一つ抜けた球速、高いスピンレートでホップ成分も右投手並み

 高橋投手は14試合に登板して自己最多に並ぶ4勝。先の日本シリーズでの完封勝利も含め、投球内容を考えれば自己ベストと言っていい飛躍のシーズンを過ごしました。フォーシームと変化の大きなカーブ、チェンジアップが特徴的な投手ですが、今季はスライダー(カッター)の精度が向上し、ゾーンの中に放れる選択肢が増えたことで余計な与四球が減った印象です。

 高橋投手のフォーシームの魅力は高いスピンレートに裏付けられたホップ成分。左投手のチーム平均を上回る球速は以前から折り紙付きでしたが、昨季以前は決してホップ成分が図抜けた投手ではなかったようです。今季は平均球速を維持した上でリリースの力感にも余裕が出てきたように感じました。結果、フォーシームのホップ成分は2020年と比較して4cmも改善。チーム平均から乖離した純ホップ型の速球を手に入れました。Twitterでも(大変僭越ながら)何度かコメントしているのですが、高橋投手のフォーシームは出力を上げるリリーフ登板よりも先発登板時の方が感覚的に強いボールを投げている印象があり、こうした印象を客観的に議論できるようになる可能性があるのはトラッキングデータの魅力的な側面の一つだと思います。

#48 金久保優斗Y.Kanakubo

データはこちらから

ピックアップデータ:, ホップ48.2cm, シュート28.5cm
ポイント!
・スピンレートが大幅改善、シュートライズ型に

 今季は主に先発で10試合に登板、4勝を挙げた金久保投手。スプリットやカッターを評価する声もありますが、多い日は70%近くをフォーシームで構成しているため、今季の公開されたデータから見える範囲は他の投手よりも大きいと言えそうです。

 ホップ成分は48cmと、チーム平均とほぼ同程度の数値。何度か繰り返している通り、スワローズの右投手はホップ成分が全体より高い可能性があるため、金久保投手も全体ではややホップ気味、シュートライズ型に分類される球質かも知れません。注目すべきはスピンレートの改善で、平均球速が前年よりもやや落ちているにも関わらず、1800rpm台だった数値が2100まで向上しています。回転軸もややシュート方向に傾いており、無理のないリリースで出力のロスを削減した結果、出力が向上してスピンレートが改善したと言えそうです。

#52 近藤弘樹H.Kondoh

データはこちらから

ピックアップデータ:球速150.7km/h, ホップ46.4cm, シュート23.2cm
ポイント!
・球速を球速で補うタイプ、ややシンカー気味でゴロ率も高めか

 今季は残念ながらシーズン途中で故障離脱したものの、戦力外からの移籍で序盤は圧倒的なパフォーマンスを見せた近藤投手。連覇を目指すスワローズのブルペンにあって、来季以降の復活にも期待が集まる投手の一人です。

 近藤投手のフォーシームはスピンレートが平均より下。平均球速が150km/hに乗っていることを考えると、全体のランクとしてはもう少し低い所に位置すると言えるでしょう。実際、変化量はホップ成分とシュート成分の両方でチーム平均を下回っています。回転軸はシュート回転気味なので、ジャイロ成分も他の投手より大きめかもしれません。

 そんな近藤投手を支えているのは、恐らくその球速と抜群のコマンド。今季は18.2イニングを投げて与四球わずか2。楽天時代の課題だった制球面の問題をクリアすることで、垂れ気味のフォーシームもゴロを打たせるボールに様変わりしたと考えられます。また、近藤投手はリリースの高さが1.84mと高く、上から投げ下ろす高速・垂れ気味のボールがMLBでも速球投手が武器にするハードシンカー的な役割を果たしていた可能性もありそうです。

#53 △長谷川宙輝H.Hasegawa

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ピックアップデータ:球速148.8km/h, ホップ51.2cm, シュート31.1cm
ポイント!
・サウスポー随一の高速シュートライズ型、高いスピンレートを存分に生かすEfficiency

 2020年は44試合に登板も、今季はシーズン途中で故障離脱、手術を受けて早めのシーズンオフを迎えた長谷川投手。ソフトバンクの育成契約更新を蹴ってヤクルトに移籍した背景には、トラッキングデータから見える圧倒的なフォーシームの質の高さもありそうです。

 長谷川投手のフォーシームは、高いスピンレートに裏付けられた強いシュートライズ型。ホップ成分50cmオーバーで1.57mとかなり低目のリリースポイント、1.96mと長いエクステンションから飛び出してくる球質は、後述する今野投手とも共通の空振りが取れるものであると言えるでしょう。平均球速も左投手がチーム平均を大きく上回る148km/h台にあることは今野投手すらを上回っているポイントだと思います。

 その他のポイントとしては、リリースサイドが前年から40cmも一塁側へ移動。リリースが大きく変わったようには見えなかったので、これは恐らくより角度を付ける意図でプレートを踏む位置を変えた関係でしょう。とにかくゾーンの中に投げ込めば質の高いコンタクトも難しそうな球質なので、まずは来季以降コマンドの改善があれば先発・リリーフ問わず一気に飛躍する可能性を秘めていると言えます。

#54 サイスニードCy Sneed

データはこちらから

ピックアップデータ:回転角度190°, ホップ55.3cm, シュート10.0cm
ポイント!
・ほぼ水平に近いバックスピン、球速と両立されたホップカット系の球質はカッターとの投げ分けで実現?

 今季の聞いてた感じと違う選手権一位はサイスニード投手に贈ります。2位はヤクルトのサンタナ選手です。

 スニード投手はMLBでの登板実績が豊富だったこともあり、事前に球質データを取得して可視化を行うなどしてパフォーマンスのイメージを予想していました。下のプロットにもある通り、スニード投手のフォーシームはホップ成分が高くシュートせずに浮き上がるボールと、ジャイロしてカット気味に沈んでくるボールとが全てカッターとして分類されており、両者の厳密な投げ分けは難しい様子でした。

画像1

画像2

 ところがです。蓋を開けてみると、一緒くたでぐちゃぐちゃしていたフォーシームとカッターの投げ分けがきっちりなされているではありませんか。スワローズが公開しているトラッキングデータには、ホップ55cm、シュート10cmとの記載があり、両者をきっちり2球種に分類した上で数値の平均を算出していることが分かります。MLB時代の平均ホップ成分は45cmだったので、縦変化量30cm台のカッターを抜いたことが大幅な(見かけ上の)ホップ成分の向上を生んでいると考えられます。本人がMLB時代から意識して投げ分けをしていたのかは定かではありませんが、球種分類の違いが見かけ上のスタッツを大きく変えてしまう好例だと思います。

 一方で、球速についてはMLB時代の148km/hとほとんど変わっておらず、投げ分けを行う・あるいは先発登板のために多少出力を落として球質を調整している可能性もあるでしょう。

#61 △久保拓眞T.Kubo

※2021年は一軍登板なし、データは2020年のものを掲載
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ピックアップデータ:ホップ38.2cm, シュート38.1cm, リリース高さ1.46m
ポイント!
・低目のアームアングルから繰り出すクセ球

 ルーキーイヤーから2年続けて10試合に登板するも、今季は一軍登板がなかった久保投手。トラッキングデータを見ると、スリークォーター気味のアームアングルから予測される通り、ホップ成分が平均より低く、逆にシュート成分が大きくなっていることが分かります。打者はピッチャーのフォームを見てある程度予測する軌道を修正できるはずで、変則フォームでもそれ対する予測から大きく乖離しない球質であれば打者は対応しやすいのかも知れません。久保投手の場合は球速もチーム平均をやや下回る数値ですので、まずは出力の向上、あるいはクイック・セットの持ち方を駆使して特定のタイプを抑える方向に特化するなどのアプローチが必要になるかもしれません。

#63 △中尾輝H.Nakao

※2021年は一軍登板なし、データは2020年のものを掲載
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ピックアップデータ:ホップ52.2cm, シュート20.3cm
ポイント!
・ホップ成分の高さは一軍左腕の中でも屈指、球速も相まって独特の軌道に

 2021年は一軍登板ゼロに終わり、残念ながらオフに退団が決まった中尾投手。2018年には54試合に登板した実績もあり、現役続行を希望していることからこのnoteでもコメントを掲載させていただきます。

 彼のフォーシームの特徴はやはり高いホップ成分。球速やスピンレートはチーム平均と同水準ですが、回転軸が154°とかなり水平に近く、ホップ成分だけ見ればチームの右投手の中でもトップレベル。実際2019年、2020年もイニングと同程度、もしくはそれを上回る数の三振を奪っています。課題は与四球の多さで、このフォーシームと大きく曲がるカーブを主体としているためにカウントを整えるのが難しくなり、やむを得ず放ったフォーシームを痛打されることで長打を浴びる場面も多くなっているのではないかと推測します。投球のコースについては情報がありませんが、カーブもゾーンの外から中に落としてくる使い方ができれば見逃しを取ってカウントを稼ぎやすくなるため、球速の向上と高めの使い方が再起のカギと言えるのではないでしょうか。今季スタッツを改善した前述の高橋奎二投手の投球スタイルなどはロールモデルになる可能性が高いかもしれません。

#64 大下佑馬Y.Ohshita

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ピックアップデータ:球速143.5km/h, スピンレート2399rpm
ポイント!
・シーズン中のアームアングル変更で強シュート型に

 プロ4年目の今季は30試合に登板、自己ベストと言っていい成績を挙げた大下投手。今季は序盤に登録抹消を入れた後、6月からはアームアングルを下げるというシーズン中では異例の調整を行っているため、シーズントータルだけでなく、登板ごとの平均を追いかけていく必要があります。

 アングルを下げた最初のゲームが6月25日。この日を境にリリースポイントが下に20cm、三塁側に27cmもズレており、アームアングルの変更が数字からも見て取れます。一方で特徴的なのは平均球速やスピンレートにほとんど変化がない点。出力を維持したまま、6月以降はちょうど縦変化と横変化を入れ替えたような平均変化量が記録されています。特に40cm台後半に迫る強いシュート成分は似たようなタイプがおらず、チーム内での差別化という点では成功と言えるのではないでしょうか。ホップ成分が小さくなったことでコンタクトが増えるというデメリットも考えられますが、スタッツだけ見るとアームアングルを下げたことで大きく奪三振関連の数字が落ちたという兆候は見られません。

 一点気になるとすれば、アングルを下げたことによるコマンドの悪化の可能性でしょうか。一般に投球コースのバラつきはアームアングルと同じ角度で起こる(進矢, 2017)と言われており、サイドスローへの転向は縦のバラつきが横のバラつきに変わることとイコールであると考えられます。横の投げ間違いが増えるということは、コーナーを狙った投球が真ん中に入るリスクが増大することを意味しており、今後大下投手もこの危険性を管理しながら投げていくことになります。縦変化が大きく横の投げ間違いに強いスラッター系の曲がり球、ジャイロスピンを利用して縦に落とすチェンジアップの精度は来季以降の大下投手のパフォーマンスを左右する球種と言えるでしょう。

#69 今野龍太R.Konno

データはこちらから

ピックアップデータ:球速145.8km/h, ホップ54.5cm, シュート19.7cm, リリース高さ1.65m, エクステンション2.04m
ポイント!
・高い安定感を誇る純ホップ型、低く、前から放す独特のリリース

 ラストは戦力外からヤクルトで花開いた森友哉世代、今野投手。実はこのnoteを着想したのは彼を紹介することが目的でした。トラッキングデータには彼の活躍を裏付ける数字が並んでいます。

 フォーシームを特徴づける決定的な要素は、54.5cmとチーム平均を5.3cmも上回る高いホップ成分。回転軸が201.5°と水平に近く、スピンレートも2349rpmと平均を大きく上回っていることが、チーム平均に満たない平均球速で高い奪三振率をマークしている最大の要因となっています。登板別に見ても、ホップ成分は常に50cmを維持し、スピンレートや球速にも大きなバラつきが見られないため、純ホップ型に伴う長打のリスクも最小限に抑えられています。

 加えて特徴的なのはリリースポイント。178cmとプロ野球選手の中では決して大柄とは言えない体格もあって、今野投手のリリースはチーム平均よりも10cmほど低い位置になっています。一方で、エクステンションはチーム平均を上回る2.04m。低い位置から・近いところで・ホップするフォーシームを投じることで、打者の軌道予測を妨げていると言えると思います。またこれはトラッキングデータに表れない部分ですが、今野投手はセットの始動からリリースまでのモーションが早く、突然近いところからボールが出てくるようなフォームにも打者を幻惑する要素が含まれていると言えそうです。スライダー・スプリットの質も高く、イメージとしては元巨人の上原浩治投手のような技術でボールを強く見せる投手であると言えるでしょう。

まとめ

 いかがでしたでしょうか?ク〇まとめサイト風ピッチャーのトラッキングデータは、様々な情報を含んでいることが分かりました!球速も大事ですが、変化量や回転数と言ったその他のデータも重要なのかもしれませんね!今回扱ったのはストレートだけでしたが、変化球についても同じように選手によって差があるものなのかもしれませんね!東京ヤクルトスワローズさんの今後の活躍から目が離せません!

 ここまでお読みいただきありがとうございました。よければチャンネル登録と高評価をよろしくおねがいします!時間返せって言って本当に時間が返ってきたよって人いますか

おまけ

 ここがnoteの本体です。ここだけを楽しみにしているファンが3人はいると聞いています。別にいつものテンションで好きな音楽を貼ってもいいんですが、今回のおまけは日記ですついったーでやれ

 先日、スワローズも出場した京セラドームでの日本シリーズを観戦してきました。残念ながらT-岡田暴君竜選手も川端慎吾妹を先に認知しました選手も出場機会がなかったのですが、スワローズ先発の高橋奎二投手がプロ初完封をシリーズの大舞台で達成するなど、ロースコアながら白熱した展開で大いに楽しむことができました。

 ほっと神戸の雰囲気に心酔しているぼくは正直京セラのゲームにはあまり興味がなく、チケット抽選にも応募しなかったのですが、3試合だか4試合だかをぶち当てた学部時代の部活の友人が誘ってくれたので、気まぐれで行ってみることにしました(当たらなかった方に謝れ)。

 思えば7年前、大学進学で試される大地から出てきたぼくの初の京セラ観戦に同行してくれたのも上述の友人。履正社高校時代から推していたT-岡田が森福から左中間をぶち割る勝ち越しタイムリーを放ち、僅差の2位でシーズンを終えることになるオリックスが勝利したゲームは鮮明に記憶に残っています。あれから7年、あの日と同じライトスタンドで日本シリーズを観戦する日が来るとは正直思っていなかったですね。何より驚きだったのはぼくがまだ学生証を持っていることです。横の友人はちゃんと職に就いて夢を追っているというのに、わたしは一体何をやっているのでしょうか。

 最近は友人の結婚式への招待に「学割ないの」と聞くギャグで滑ることぐらいしかやることがありません。やることはありますが、進まないので現実逃避のためにこんなしょうもないnoteを書いている始末です。何が言いたいかというと、職のオファーをお待ちしております。週休4日で月収500万円ぐらいもらえるととてもありがたいです。それでは。

#NPB  #野球 #スワローズ #データ分析

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