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「パラソル&アンブレラ」④

第四話「アヴェ・マリア」
 それから、二人の中の見えない何かが変わり始めた。古透子は、対男性にしては彼には本音を喋るようになっていたし、友人(ゆひと)の方もただ一方的に喋り倒すいつものスタイルから、彼女の話を聞く側にまわることが多くなり始めていった。

 喫茶店で話し込んだあと、友人(ゆひと)と別れアパートへと戻って来た古透子が予想した通り、あれから一週間、やはりというかなんというか、八未が大荷物とともに二人のアパートへと帰って来ていた。
「、、、やっちゃん?帰ってたの?」
古透子が八未の部屋の開きかけのドアの向こうを、そおっと覗くと、眉毛を寄せた八未の顔がでんっ!と目の前に現れた。
「、、、開けないでって、いっつも言ってるでしょ?」
「いや、やっちゃんの部屋、開いたままだったんだけど。。。」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を出すと、八未はそのままバタン!と自部屋のドアを閉めてしまった。
それからしばらくすると、八未がゴソゴソと出てきて、台所での二人の夕げは始まった。
今日の晩御飯は、古透子が勤めているバイト先のスーパーのお惣菜で占められていた。古透子が料理をしないわけではなかったが、流石にバイト後に出かけたあと、料理を作っていた暇なんてなかった。勿論、八未は全く料理に不案内で、やった例がなかった。
そろそろと八未が食べ始めた頃合いを伺って、古透子は、話しかけた。
「ねえ、やっちゃん。この間のひと、どうだったの?」
なるたけにこやかに、話しかけた。
「、、、別れた」
「ええっ!?」
ガタッと、古透子の椅子が傾いた。
「だって、だってあいつ、二股かけてたんだよ!?彼女居たんだよ!」
古透子は、思わず箸先のご飯粒を落としかけた。そして、改めて昨日の作り置きの味噌汁をズズーッと一口飲み干すと、
「、、、あっの、モッコリ三角目つき野郎めえええ!!」
と、怨嗟の念を思いっきり咆哮してしまった。
それを見た八未も、角が生え、口が裂けてしまったとっさの姉の変わり様にすっかり震え上がってしまい、口から食べかけのお惣菜がポロポロッとこぼれていった。
「あ、あ、こっちゃん。。。そんな、怒らないでよ、ねえ。私も、悪いところがなかったわけじゃないんだしさあ。。。」
オロオロと、姉を鎮めてみたが、古透子はすっかり頭に血が上ってしまっていた。
「いいえ!!それは違うわよ、やっちゃん!男なんてね、いい加減でろくでも無いものなの!!」
ヤバい、これではこっちゃんのながーい弁論大会が始まってしまう、、、と察した八未は、話を別にそらすことに決めた。
「こっちゃん!こっちゃん!今月で、もうおかーちゃんの一周忌だね。早いねえ」
ここは一席ぶとうと思っていた、真っ赤な古透子の顔色がすっと青色に変わっていった。
「そうね、そうだったね。早いね。、、、おかーさん、夏に亡くなったのよね。あの日は暑かったねえ」
落ち着きを取り戻した古透子は、仏壇の母の写真をふっと見やった。
 実は、古透子と八未の外見があまり似てないのには、理由があった。二人とも、父の違う娘だったからだ。おまけに、二人ともそれぞれの父の顔も姿も知らなかった。古透子と八未は、二つ違いなので、それも仕方無いのだった。二人の母である亡くなった真理子は、誠に恋多き女性であった。パートをいくつも掛け持ちしながら、二人の娘をワンオペで育てていたが、去年の夏、年頃の二人の娘を置いて呆気なくあの世へ逝ってしまった。アパートの契約とわずかばかりの貯金を遺して。

 






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