見出し画像

本:読書「脳の闇」中野信子著 を要約してみた。

今回紹介するのは、中野信子さんの著書『脳の闇』です。この本は、現代社会における人間の脳の深層に潜む闇を解き明かすもので、脳科学と著者自身の経験を交えて描かれています。

この記事では、以下の3つのテーマに沿って本書の内容を解説していきます。

  1. 承認欲求と不安

    • 人に特有の欲望と快楽

    • 誰もが持っている心の空洞

    • 不安と戦わないという方法

  2. 脳は自由を嫌う

    • タイムプレッシャーと意思決定

    • 曖昧さを保つ知力

    • 良い意思決定をしてくれる誰か

  3. 健康という病

    • 性格傾向の3類型

    • 片頭痛持ちは賢い?

    • 健康を崇める風潮

私たちは集団の中で常に承認欲求と向き合っています。無意識のうちに周囲に流され、曖昧で不安な状態を嫌う脳の仕組みは、非常に厄介です。本書は、そうした脳の特性を解説し、現代社会の病理を浮き彫りにしています。

では、まず最初のテーマ「承認欲求と不安」について、以下の3つのポイントを中心に見ていきましょう。


脳の闇 (新潮新書) [ 中野 信子 ]

価格:946円
(2024/6/3 10:26時点)
感想(6件)

承認欲求と不安

人に特有の欲望と快楽

人は常に誰かに認められたい、あるいは自分のことを理解してほしいという気持ちをどこかに持っています。この承認欲求をこれほど強く持っている生物は他にいません。他の生物であれば、いつも餌を探し求めるか生殖活動に必死で一生を終えることになります。しかし、人は違います。捕食と生殖という課題が解決されると、かえって満たされない気持ちが強まってしまうことがあるのです。

自分はただ生命活動を維持しているだけの存在ではない、自分の存在価値を誰かに認めてほしい、自分のことをわずかでも誰かに理解してほしい、自分が見たもの感じたものを他の誰かと一緒に味わいたい、これらの願いをざっくり心理学の用語でまとめると「承認欲求」になります。この拭えない人に特有の欲望と快楽の形を科学者が表現すれば、ドーパミンがどうのこうのという言葉になってしまうでしょう。詩人や文学者なら、この欲求を詩や小説に美しく表現するかもしれません。

人なら誰にでも承認欲求があるというのは簡単です。しかし、そう言われてあっさり認めることができる人は思いのほか少ないのではないでしょうか。それは、自分が承認欲求を持っているという事実自体が、恥ずかしいという感情を引き起こすことがあるからです。

誰もが持っている空洞

日常に何の不足もなく「幸せだね」と人から言われるような生活を送っていたとしても、人は誰しもその裏側に深い溝を抱えています。そして、うっかりしていると簡単に心に空いた穴を見抜かれ、こじ開けられてしまうことがあります。もちろん、これは著者も例外ではありません。


著書\者の体験

ある時、既婚者である著者にアプローチをしてくる男性がいました。その男性は著者の孤独感を見抜き、それを言葉で表現した上で、「あなたこそ僕の孤独を理解できる特別な能力を持った人だ」というメッセージを送ってきました。このようにして、安っぽい形ではありますが、著者の承認欲求を満たそうとしました。これは本当に単純な方法ですが、人というのは業の深いもので、どんな人にも必ず空洞があります。満たされていない時には、これほど型通りの言葉であっても、ないよりはましに思ってしまうものなのです。


最初は、著者の専門性が高すぎたこともあり、この気まずいやり取りをやめるよう強く断り続けていました。しかし、それが逆にその男性のプライドを傷つけたのか、彼は著者に入り込もうとする行動をやめませんでした。そして、執念に満ちた努力の結果、男性は最終的に著者の心の隙を見つけることに成功しました。


その男性が送ってきたメッセージは、たった1つの内容に集約されます。それは、「人間は孤独である」というシンプルなもので、その孤独を理解できるのは彼だけだということ。このメッセージを受け入れることは、承認欲求が満たされる究極の形と言っても過言ではありません。

誰からも切り離された状態で絶望的な孤独を感じている時、その孤独を孤独なまま共有できる人が目の前に現れたとしたら、その人の手を振り払うことができる人はいないのではないでしょうか。結局のところ、著者はその男性からの返信を待ち望んでしまっている状況を危険に感じ、連絡手段を断ち切ることを選択しましたが、人の心の隙間はそう見つけにくい場所にあるわけでもなかったと著者は言います。


もちろん、これは著者に特有のものではなく、よく見れば誰もが持っているようなものです。

不安と戦わないという方法

不安感情は、生きることそのものが消化試合のように感じられてしまうことがあります。不安感情を抱えている時、知能は何の役にも立ちません。論理も記憶力も助けてはくれず、むしろ忘れる能力や論理的に考えずに思考を停止するというアプローチの方が有利なのではないでしょうか。そうすることで、人生をもう少しだけ生き延びる力が得られるように思います。


日々の些細なことに満足して幸せに生きていけることの大切さは、むしろ不快な記憶を忘れ、不安な未来を予測しない鈍さがあってこそ感じられるものだと著者は言います。人は誘惑に弱く、欲深く、愚かで忘れっぽい、その方が生き延びる力が高いというのは十分にあり得ることです。承認欲求があることの意味も、そういうことかもしれません。


この空洞は自力で埋められるようなものではなく、それを利用しようと近づいてくる人に対する防御法もありません。救いようがないと思われるかもしれませんが、解決される性質の問題ではないということを知っておくのは悪くないでしょう。つまり、生理的に存在する進化的な意味のある不安であり、生物としてなくてはならない空洞と孤独だということです。気づいてしまったら、それを抱えて生きるしかありません。誰もそれを助けることもできず、人は最後は一人で死にます。地獄を抱えて生き延びろというしか、著者はアドバイスができないと言います。


ただ、不安と戦わないという方法もあります。それは、目をそらしておくこと。この戦略は場合によってはとても有効となります。


脳は自由を嫌う

この章では、以下の3つのポイントについて解説していきます。

  1. タイムプレッシャーと意思決定

  2. 曖昧さを保つ知力

  3. 良い意思決定をしてくれる誰か


タイムプレッシャーと意思決定

時間に迫られて急いで下した判断は、エラーが多くなると考えられています。私たちはタイムプレッシャーがある時、なぜこうしたミスを犯してしまうのでしょうか。アメリカのバンダービルト大学の研究によると、直感を働かせて判断している時には、じっくりと時間をかけて意思決定をする時に使われる論理的な機構が機能していないことが示されています。タイムプレッシャーがある時、その機能が低下するのは、脳内で全く違う機能が働くためです。それによって、見かけ上は冷静な判断が阻害され、焦りによってつい選んでしまうという行動が誘発されるように見えます。

例えば、ECの店舗サイトで「残り9枚です」とか「これを見ている人が100人います」といった情報が表示されるのを見て、思わず「購入する」をクリックしてしまうといった経験をしたことがある人は多いでしょう。不安を誘発することで、冷静に計算する機能を低下させ、結果的に購買意欲が煽られるのです。人の脳はプレッシャーに弱いということです。私たちは純粋に物の価値を測り、それだけに基づいて購買の意思決定をしているわけではありません。


曖昧さを保つ知力

人は日常的に簡易的な判断処理を行っています。日常的な場面では、人は最も身近でよく見聞きしている言葉に好意を持ちます。それほど脳は自分の能力を過信せず、情報が正確かどうか、精密かどうかを吟味する時間も労力もかけたがりません。エネルギー的な余裕がないからです。

自分がすでに保持している先入観やイメージに類似したものを見出すと、脳はこれを利用して相手に対する評価を簡単に下します。こうして簡易的な処理が何層にも重なって一人歩きし、それが社会通念やステレオタイプ、認知バイアスとなります。

これらが本当に中立であるかどうかは疑問です。簡易的な処理を通じて集合した特定のイメージが、人に偏った確信を強めさせます。確信を持つことは、脳が使うリソースを節約し、自我を安心させるためです。


良い意思決定をしてくれる誰か

自由であるということは、人の脳にとって本質的に大きな負担になります。これは学術的には「認知負荷」と呼ばれるもので、感覚としては「しんどい」「面倒くさい」と感じるものです。実際、人は本当は他者に意思決定してもらう方が楽だと感じることが多いのです。

私たちが本当に欲しいのは「自由」そのものではなく、「自分で決めている」という実感だけです。そして、できれば責任は追いたくないと考えています。脳は誰かに共感したり、素晴らしい人の見方をした時に心地よく感じるようにできています。これにより、自分で考えて意思決定することを避け、いつでも楽をしたいと思うのです。結局のところ、脳は自由が嫌いだということがわかります。

健康という病

この章では、以下の3つのポイントについて解説していきます。

  1. 性格傾向の3類型

  2. 片頭痛持ちは賢い

  3. 健康を崇める風潮

性格傾向の3類型

臨床医学では、性格傾向についてタイプA、タイプB、タイプCとして分類されており、各々の性格傾向が疾患と関連していることが示されています。

  • タイプA:せっかちで攻撃的、熱しやすい人です。このタイプは脳からの命令に速やかに対応しようとし、頑張りすぎる傾向があります。その結果、心臓に大きな負担をかけ、心筋梗塞や突然死のリスクが高まります。つまり、感情の変化が頻繁に起こると心臓疾患のリスクも上がるということです。

  • タイプB:タイプAとは反対の性格で、マイペースでいつもリラックスしており、攻撃性はあまり持ちません。心臓疾患になるリスクはタイプAの人たちの半分です。

  • タイプC:怒り、不安、恐れ、悲しみなどのネガティブな感情を表に出さないか、自分の感情に気づいていない人です。忍耐強く控えめで協力的、他人の要求を満たそうと過剰に気を使う一方で、自分の要求は十分に満たそうとしないか、自分が何を欲しているかに気づいていないタイプです。これは日本でよく見かけるタイプで、いわゆる「いい子」と言われる人たちです。タイプCは癌になりやすい性格傾向があることが発見されています。

日本の教育は、癌になりやすい性格の人を量産するような教育であると著者は言っています。


片頭痛持ちは賢い

片頭痛持ちの人は賢そうに見えるという現象があります。この見方は、片頭痛持ちである当人には全く理解できないかもしれませんが、いろんなところでこのような話を聞くため、一般的にはそういう見方が定着しているのかもしれません。しかし、著者は片頭痛持ちのIQが高いというデータを見たことがないと言います。

片頭痛は、光が少し目に入っただけでもズキズキと脈打つように痛みが増し、ひどい時には眠ることもできないような痛みを伴います。このような辛い状況をどうにかして過ごさなければならない子供時代を経験したことで、理不尽な人生を若い頃から考えさせられ続けることになった結果、知能の発達に影響を与えた可能性を検討することはできるかもしれません。


健康を崇め立てる風潮

健康を賛美する風潮がある一方で、病気や不健康を自慢する文化も存在します。しかし、一般的には「健康は美徳であり、個人の幸福と社会の利益のために必要だ」という暗黙のルールが存在しているように感じます。病気への憧れを持つことは確かに不道徳とされていますが、健康志向そのものについても著者は疑問を呈しています。それは、健康志向があまりに反論の余地を与えないからです。

2007年に、ある市が行った企画で「死のカブラ」という減量挑戦プログラムが実施されました。このプログラムに参加していた47歳の男性がジョギング中に心不全で亡くなりました。死亡と減量の因果関係は確認されませんでしたが、減量のために運動すること自体は健康に良い行為だと市の健康福祉部長は発表しました。しかし、この男性は腹囲が100cmあり、保健師に急激な減量を止められていたそうです。

因果関係の立証は難しいかもしれませんが、急激な減量にはリスクが伴うというのは一般的な考えです。健康のために過剰な行動を取ってしまうことはあり得ることですし、それを奨励すると、その行動を取っている人は止めることができなくなります。健康は生きていることそのものよりも優先されるべきではないでしょう。

最後に

今回のブログでは、中野信子さんの著書『脳の闇』を解説しました。以下に内容をまとめます。

  1. 承認欲求と不安

    • 人に特有の欲望と快楽

    • 誰もが持っている空洞

    • 不安と戦わないという方法

  2. 脳は自由を嫌う

    • タイムプレッシャーと意思決定

    • 曖昧さを保つ知力

    • 良い意思決定をしてくれる誰か

  3. 健康という病

    • 性格傾向の3類型

    • 片頭痛持ちは賢い

    • 健康を崇める風潮

この順番で解説しましたが、本書にはまだまだ紹介しきれていない部分が多くあります。『脳の闇』は、現代社会における私たちの脳の働きや、それに伴う問題を深く探る一冊です。非常におすすめの本ですので、ぜひ手に取ってみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?