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【創作童話】冒険の始まり・前編

カタカタ、カタカタ・・
”とびら”が、ふるえる音。
カタカタ、カタカタ・・

ここは、わずかな人が暮らしている小さな島。
広い海の中に、ぽつんとあります。
ウーカは、この小さな島で暮らす少女。
島のみんなに愛されて育ちました。

島の丘の上には、いっぽんの大きな木があります。
この木にかかっている、長いブランコは、ウーカのお気に入り。
ここからは、海が遠くまでよく見えます。
ウーカは、このブランコにのって、幼いころにパパからもらった世界地図をひろげます。
目の前に広がる大きな海。
この海と、ひろげた地図をかさねます。
「この海の向こうはどんな世界になっているのかな。」

カタカタ、カタカタ・・
ウーカの心の中にある”とびら”から音がしています。
このとびらは、ずっと閉じたまま。
でも、ときどき、ふるえだして音を立てます。
カタカタ、カタカタ・・

ある日のこと。
ウーカは、丘の上で、一羽の鳥に出会いました。
やわらかいきみどり色をした、人がのれるくらいの大きな鳥。
その鳥は、翼のところにけがをして、とぶことができずにいました。
「大丈夫?」
ウーカが、そぉ~っと翼をなでてみると、鳥はびくっと動いてとても痛そうでした。
「これは、大変だわ。」
ウーカは、家から薬や包帯をもって来て、けがをなおしてあげました。
しだいに、ふたりは仲良しになり、ウーカは、その鳥を『アミ』と名づけました。
元気になったアミは、いぜんのようにとべるようになりました。
「なんか、いいなぁ。」
ウーカは、自由に空をとんでいるアミを見て、そう思いました。
アミは、地上にもどって来ると、
くいっくいっ、
ウーカに、背中にのるようにさそってきました。
「私をのせてくれるの?」
アミにさそわれるがまま、ウーカは、そっとアミの背中にのってみました。
ふわふわしているアミの背中は、ぐらぐらしていて落ち着きませんでした。
アミがウーカをのせてとび上ろうとした、そのとき、びゅっと強い風。
「まって。危ないわ。おろしてちょうだい。」
ウーカは、風であおられそうになり、あわててアミの背中からおりました。
そのまま帰ってしまったウーカを見ながら、アミはざんねんそうにしていました。

その日の夕食のとき。
ウーカは、パパとママに、アミの話をしました。
「ねぇ、その鳥って、”人を運ぶ鳥”なんじゃない?」
ママが、おかしなことをいい出しました。
「人を運ぶ鳥?」
そんな鳥、聞いたことがありません。
人を運ぶ鳥は、仲間と決めた人をのせて、その人が行きたい場所に運んでくれる鳥なのだと、パパは教えてくれました。
「きっと、ウーカは、その鳥に仲間と思われているんだな。」
「よかったわね。いつでも行きたいところに行けるわね。」
パパとママは、嬉しそうでした。
「アミが私を運んでくれる・・・。」
ウーカの心の中が、なぜか、もやもやとしました。

次の日の夕方。
ウーカは、丘の上のブランコにのって、地図をひろげました。
アミも、となりにすわっていました。
くいっくいっ、くいっくいっ、
アミは、また、背中にのるようにさそってきました。
「だめだよアミ。また風がふいたら危ないし。」
ウーカは、どうしてか、アミにのろうとはしませんでした。
風にあおられるのが怖いだけではありませんでした。
心の中で、なにかがウーカを止めるのです。
夕ぐれの海が、オレンジ色の波をしずかにたてています。
その海は、ウーカをさびしそうに見ているようでした。

夜。ウーカは、なかなか眠れずにいました。
海の向こうが、気になっていたからです。
「アミだったら、私を海の向こうにつれて行ってくれるのに。」
ベットの中で、ぼんやりと思いました。
そして、目をつぶったまま、見たことのない海の向こうの世界を想像してみました。
おいしい食べ物がいっぱいの村
美しい音楽にあふれている街
めずらしい動物がたくさんいる森・・
しだいに、心地よくなってきて、じわじわと眠りにつつまれてきました。
でも、ふいに、
「まっ暗で、寒くて、誰もいなくて、何にもない世界だったらどうしよう。」
と怖い想像をしてしまい、ぱっと目がさめました。
こうなってしまっては、もう眠ることはできません。
目を閉じたり開いたり、体を右に左にねがえりしているうちに、ふっとうかんだのが、いつも見ている丘の上からの海の景色でした。
海を見たくなり、ウーカは、地図をもって丘の上に行きました。

つづく



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