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三題噺 勇者と魔王と世界

三題噺 3つのお題
「伝説の剣を求めて」、「偶然見つけた古い日記」、「未来からのメッセージ」



「さすがだね、勇者」
息も絶え絶えに、片膝をつき話す。

「最後に言い残すことはあるか?」

「・・・。おもしろいものだね」

「何が面白い」

「私も、同じ台詞を魔王に向かって言ったよ」

「一体何を言っている?」

「次の魔王は勇者、君自身だ。これから伝えることは、未来の君自身からのメッセージとも言えるね」



この世界には、隠された大きな秘密がある。

幼い頃から城の中の冒険が好きだったから、入らないよう言われた場所にもよく忍び込んでいた。

あの書庫には、絶対に入ってはいけないよ。
言われたら入りたくなるのが、少年というものだ。

見張りの衛兵はいたが、こっそり覚えた気配消しの魔法ですり抜ける。

書庫には禁書があるという。
禁じられた本。なんという甘美な響きだろうか。

「闇魔術上級書」
「秘められた剣術ー東洋の剣聖」
「詠唱と無詠唱ー魔法におけるコストと威力のパフォーマンス」

どれも興味をそそられるが、お目当ての本ではない。
背表紙を眺めていると、一カ所だけほかの本よりも飛び出している本があった。

不思議に思い、本を取り出す。
奥に何か箱があるようだ。

降り積もった埃を払い、思わず咳き込む。
箱を開けると、何枚かの羊皮紙が入れられていた。

誰かの日記のようだ。

『この世界には大きな秘密がある。
世界は魔王が存在し、倒すための勇者がいる。
勇者が魔王を倒し、世界に平和が訪れる。』

『しかし、秘匿された歴史しか民は知り得ていない』

『魔王は、その存在が忘れられた頃に、再び現れる』

意味が分からない。

魔王を倒したら、それで終わり。
世界には平和が訪れる。

この世界の子供中が読み聞かされる物語だ。
倒されて、なんで復活するのか?

疑問におもいつつ、時計を確認する。
夜遊びをしていないか、自室に召使いが確認に来る時間に差し掛かっている。

急いで羊皮紙を戻し、自室に戻った。


時は流れ、少年は勇者に選ばれた。
伝説の剣を探し求め、魔王を倒す役目だと。

少年は旅を始めた。
魔王討伐のため、まずは伝説の剣を探し求めた。

旅の休憩地店の村長が、剣について伝承を教えてくれた。

『不老不死をかなえる果実を実らせる樹の下に、伝説の刃先は眠る』

不老不死、果実。
長寿種のエルフの村に検討をつけ、旅を続けた。

出立のため、勇者に贈られたローブの土汚れが取れなくなった頃、エルフの村にたどり着いた。

村長が出迎えてくれた。

「あなたですな、今度の勇者は」

「今度の?どういうことだ」

「いいや、忘れてください。詮無きことです」

村長に案内され、不老不死の果実を実らす樹にたどり着く。

確かに、樹の根元に剣はあった。
だが、刃先しか出ていない。
村長の方を振り返る。

「掘り出すしか、ありませんな」

こういったものは柄が上にあるものじゃないか。
愚痴りたい気持ちを抑え、剣を掘り出す。

数時間後、勇者の手には伝説の剣が握られていた。

「伝説というからには、特別な力を持っているということでいいか?」

「いいえ、戦闘に役立つ効果など碌にありませぬ。刃こぼれしない、程度でしょうな」

「ではなぜ、伝説などと呼ばれる?」

村長は首を傾げつつも、瞳の中には確かな答えを持っているようだった。
だが、聞いたところで答えを得られそうでもなかった。

旅を続ける。
村を訪れる。
魔物を倒す。
旅を続ける。

魔物を倒す。倒す。倒す。

土汚れが落ちなくなったローブは、その端が直線であったことなど分からなくなった。
布地がまともに残っているのは、わずかに腰あたりまで。

刃こぼれしないと言われた剣のみが、輝かしさを保っていた。

旅も続ければ目新しさもなく、繰り返す日々を重ねた。

外套としてもはや意味をなさなくなったローブをまとい、勇者は魔王と対面した。

「君が勇者か」

「・・・」

「倒す相手とは話す気はないかい?」

「あんたを倒して国に帰る、早く終わらせたいだけだ」

「そうだね。僕もこんなことは終わらせたい。はじめようか」

勇者の目の前に火炎球が突っ込んでくる。
水球を当て、相殺する。
高温となった水蒸気があたりを覆った。
生成された霧に乗じて、魔王の後ろから剣を振るう。

「勇者というのは正面から相手を倒すものじゃないのかな?」

こちらを見ずに、剣は弾かれる。
距離を取った勇者と魔王。

お互いの間合い、気、呼吸を読む。
動く。攻撃を打ち込む。距離を取る。

何度目か数え忘れた頃合いに、その時は訪れた。

「これで、終わりだな」

「そうだね。僕はこれでお役御免だ」

そして、物語は冒頭へと戻る。


「次の魔王は勇者、君自身だ。これから伝えることは、未来の君自身からのメッセージと言えるね」

魔王は勇者へと世界の秘密を告げた。

世界は、魔王と勇者の対立が仕組まれたものであり、決定づけられた上で成り立っている。

勇者が旅立ち、各所を訪れ、難敵と対峙する。

これらが生み出す経済的価値は、どの程度になるだろうか。

名も無き村は、勇者が訪れることで知名度を得て、人が訪れる。
人が訪れることで、馬車や馬飼いにお金が流れる。

難敵と対峙する、これもまた経済的価値となる。

勇者が討ち取った魔物の素材は高価で取引され、激戦の跡地は観光地となる。

そして、勇者の激闘を吟遊詩人が語り継ぎ、本に描写され、人々が勇者をさらに知りたいと思う。
勇者の物語は、お金になる。

これらを成り立たせる大前提は、魔王がいること。

これらの最終点は、魔王を倒すこと。
この世界は、魔王がいなければ成り立たない、構造的欠陥を抱いている。

「どうだい?次期魔王君」

「人々が魔王と勇者を求めるとき、そのときまで俺は生き残れないだろう。」

「それは大丈夫さ。君の剣が役目をかなえてくれるよ」

不老不死をかなえる果実、その下に刃先をかまえる伝説の剣。

200年もの間、落ちてきた果実を裂き、その血を剣は喰らっていた。

「持っているだけで寿命なんかは意味がなくなる。君がそれを手放す時は・・・」

「次の勇者を世界が求めるとき」

「分かってきたみたいだね」

魔王の体を支える糸がプツンと途切れ、床に倒れ込んだ。

「・・・あとは任せたよ」

勇者は、仕事を半分完遂した。
残りの半分は、魔王として。


100年を超えた先は数えなくなった。
もはやこの人生に意味はない。

あるとすれば、その最後に。

待ち望んだ、その日はやってくる。

「お前が魔王だな?」

「そうだ」

「世界を救うため、お前を倒す!」

この世界で行われた何百回目となる戦闘、いや、儀式が終わった。

勇者は勝ち誇った顔で告げる。

「俺の勝ちだ。最後に言うことはあるか?」

「・・・ふん」

「何だ、何がおかしい!」

「人間が変わっても、立場が同じ事を言わせるようだ」

役目はまた、繰り返される。

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